3時過ぎ、恵太君と惣ちゃんがビールとハイボールとワインと焼酎とマッコリを抱えてやってきた。その量からして、今日もボルトの完勝を見終わるまでは飲み続けるんだな、ということはすぐにわかったが、アルコールの量に対して、いかにもつまみの数が少ないところが恵太君と惣ちゃんのやりそうなことだと思った。
惣ちゃんがこの部屋に来るのは何年ぶりだろう。まだ、一緒に働いていた頃だったから、もう何年も前のことになる。
相変わらず無駄に広いね
惣ちゃんは相変わらずの人を小ばかにしたしゃべり方をしたが、そういうのが惣ちゃんなので、あまり気にはならないが、恵太君抜きには惣ちゃんとふたりきりでは窮屈な感じになるだろうなと思った。
・・・
飲み始めると、惣ちゃんがほとんどひとりでしゃべった。ボクと恵太君は、惣ちゃんに、そうだろ?とか言われると、そうだね、と言ったり、知ってる?とか言われると、いや、知らない、とか言うだけで、ほぼ、惣ちゃんの独断場が続くのだが、惣ちゃんのいいところは、聞き流しても別段気にしないところで、こっちがうわの空で返事をしても怒り出すところがない。これはこれでとても便利だと思った。
惣ちゃんの話にはとても多くの人物が登場する。この間は藤さんのことを電話で教えてくれたが、今日は入社したばかりの頃、ボクたちの間で話題になることが多かった女性たちのその後の話をあれこれ聞かせてくれた。恵太君からは一切情報が入ってこないのに、なぜ惣ちゃんはこれほど女性たちの動向に詳しいのだろうと、ちょっと奇異な感じがしないでもなかったので、どうしてそんなことまでわかんの?と聞いたら、そりゃ、ちゃんと情報ソースを押さえてるから、と言っていたが、どうせ、美希か理恵か、そこらへんだろ、と試しに言ってみたら、あながち大はずれでもなかったようだった。
・・・
そのうち、世界陸上のダイジェストが始まった。画面は女子ハンマー投げという、きわめて地味な映像が流れていたが、恵太君が突然、「ネトレプコくらいにはかわいいぞ」というので見てみたら、確かに、ちょっとふっくらしているが、なかなかの美形が投げるところだった。ペリエとかいう名前だったが、三人とも、ほぉー、いける子もいるんだね、ということで軽く盛り上がった。すると今度は、俺はこっちでもいける、と惣ちゃんがいうので、見ると、赤ん坊がそのまま百倍のサイズになったような選手が、ぽよんぽよんした体をぶるんぶるん振り回して投げると、結構なところまで飛んでいった。ウォダルチク選手というのだそうだが、確かに、色は白いし、やせればかわいいんじゃないか、という顔立ちで、三人とも結構気に入った。恵太君が、ああいう選手の体は触るとやわらかいのかね、それとも固いのかね、というと、惣ちゃんが、意外にやわらかいと思うよ、というので、そういう子と付き合ったことがあんのか、と聞くと、いやないけど、というので、相変わらず惣ちゃんの適当話はほぼ信用できないなと思った。
・・・
ボルトまではまだ相当時間がありそうなので、例の台湾料理店に行くことにした。夏場になると流した汗の量だけ酢を振りかけた五目そばが食べたくなるのは昔から変わらないボクの癖のようなものだ。惣ちゃんに、相変わらず酢をぶっかけて食べてんの?と言われたが、そうそう人の習慣や癖は変わんないだろうに、と思った。結局、惣ちゃんがあれこれ注文して、生ビールのほかに紹興酒を2本空けて、店を出たのは9時を回っていた。
・・・
部屋に戻ると男子マラソンが始まっていた。ボクは結構マラソン好きなのだが、惣ちゃんと恵太君はほとんど興味がないらしく、ふたりでなにやら会社の話をしていた。あまり面白そうな話でもなかったし、画面も単調なランニングの映像が流れるだけだったので、そのうちうとうとしてしまったらしく、惣ちゃんに、おい、寝るの?と揺さぶられるまで気がつかなかった。画面には中本選手5位入賞の文字が躍っていた。
・・・
ふたりはまだ仕事の話をしていた。どうやら、大口需要家との値上げ交渉が始まっているようだったが、経営サイドに近い恵太君に対して、営業部門の惣ちゃんが、そう簡単にはいかないみたいな話をしていたようだった。時々、どう思うよ、と惣ちゃんがボクに振るのだが、大変そうだね、くらいしか言いようがなかった。お前はもともと仕事に興味なかったもんな、と言われると、確かにそうだったので、何も言い返せなかった。まったく、惣ちゃんはこういうところが面倒くさい。
・・・
そのうち、ようやく男子200mの決勝になった。織田裕二は世界新だの18秒台だのと騒ぎ立てていたが、そうなのかね、と思っていたら、案の定、平凡なタイムで終わった。ボルトの終わりが見えたね、という恵太君の感想のほうが当たってる気がした。
・・・
世界陸上が終わり、終電もとっくに終わり、惣ちゃんは当然泊まっていくことになったが、まだ全然飲み会が終わる気配はなく、そのうち、惣ちゃんがDVDをごちゃごちゃ触り始め、なんか面白いのない?というので、くだらないのならこれは?と言って『テッド』を見せたら、それでいいや、ということになり、しばらく眺めた。こういうアメリカンジョークみたいなやつは英語がわかんなくちゃ面白くもなんともないな、と惣ちゃんがいうので、確かにそうだと思った。
・・・
そのうち三人ともだんだん無口になって、『たみおのしあわせ』を見ているうちに、三人とも眠ってしまったようだった・・・
・・・
・・・
つづく