森野遥香41歳は、ここのところ明らかに機嫌が悪かった。調子づいたアホどもがスーパーのアイスケースに寝転がって写真を投稿するという事件が発生して以来、遥香の勤める店舗でも警戒態勢が敷かれ見回り巡回が強化されているからだ。これまでの見回りなら、今日のおかずはなんにしようかなー、とか、この調味料はまだあったっけなー、とか、見回りなのか一般消費者なのかほとんど区別つかない感じで済ませていたものが、最近では若者の数人組を見かけると、こいつら、やらかすんじゃね?的な目で見ている自分に気づきうんざりする。相手はアホずらとはいいつつ、99.99%は善良なお客様なのであり、それを疑いの目でみるというのは、単純なB型の遥香さんにとっては苦痛なのである。


そんな激務を終えて家に帰ると、まもなく徹が帰ってくる。へとへとに疲れて、あ”ーーー、やってらんねー、動きたくねー、とか思っているところに帰ってくる。ただいまー、と、ノー天気な調子で帰ってきやがる。公務員でもあるまいに、まだ明るい時間に帰ってくる。挙句に、ごはんは?とか言いやがる。


死ね・・・、さもなくば、帰ってこない家出でもしやがれ・・・


沸々と沸き上がる殺意に、ああいかん、こんな時に包丁持っちゃ、やばい、と台所仕事の手を止める毎日である。


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そんなことは知ったこっちゃない森野徹42歳は、相変わらず仕事から戻るや否や、即、DVDである。今日は、ニコラス・ケイジの『天使のくれた時間』とやらを観ている。てっぺんハゲのくせに、甘ったるい映画が大好きで、時々涙を流して観ている。松本潤の涙なら心ゆくまで堪能したいが、目ヤニで濁ったおっさんの涙なぞ、胸糞悪くて吐き気がする。大体、実生活では他人に冷徹な徹が、映画になるとちょっとした場面で涙を流すのは、どう考えても偽善である。現実で他人のために涙を流せないから、映画やドラマで泣いて帳尻合わせてんだよ、あんたって人は、と一度言ってやったが、そうかもね、などと平気でいいやがるから、話にならない。


あぁぁぁぁ、どこで間違ったんだろ・・・私の人生・・・ 遥香さんの心の闇は深い。


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コロッケとわかめスープの夕食を終え、疲れ切った遥香さんはリビングで横になってTVを見ている。徹が麻生久美子の『Short Films』を観ようとしたが、足で蹴飛ばして邪魔してやった。お前の思うとおりになんかさせるか!


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・・・うとうとしていたら、画面はニュースに変わり、あの胸糞悪い悪ふざけの投稿写真のことをやっていた。次から次に出てくるウジ虫どもめ、うちの店でやったら半殺しにしてやる、と、怒りが収まらない遥香さん。そうとは知らない徹は、ソースとマヨネーズを鼻に突っ込んだ写真を見ながら


ハハハ、見てごらん、アホなやっちゃ、どうしようもないね、ハハハ


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グーで殴られ、ソースもケチャップも、とても鼻には突っ込めませんね、というくらいに腫れ上がった顔でこそこそ出勤する徹を、偶然見かけた104号室の星出さんの奥さんが、いってらっしゃい、というところを、お気の毒様、と言ったのは当然のことでした。


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つづく