磯崎君の電話はいつも突然だ。
先輩、神宮、行かないっすか
何年も用件はこれだけである。前の前の会社でたまたま席が隣同士になっただけの知り合いで、いくつかボクの方が年上なので、先輩扱いしてくれるのだが、別に特別にお世話した記憶もなく、お世話したといえば、週に二度も三度もらーめん香月に付き合ったことくらいである。なので、先輩、といわれると、実は少し恥ずかしい。
彼と行くのは神宮、ドラゴンズ戦、レフトスタンド、と決まっている。ボクも彼もドラゴンズファンだからだが、ボクの場合は、「藤井?だれ?」くらいの知識しかなく、タイガースファンと名乗っても差しさわりがないレベルである。彼も、藤井は知っていたようだが、特に詳しいわけでも、ドラゴンズが勝たなきゃ機嫌が悪くなる、というのでもないから安心だ。
あとはビール飲んで、少しだけ野次って、ゲームが終わればその場で解散である。
磯崎君はとてもかわっていて、普通なら年に一度しか会わないんだし、「最近どうっすか」とか「仕事順調っすか」とか、聞きそうなもんだが、そういう話は一切関心がないらしく、「声、小さいっすよ、もっと大声で!」くらいしか言わない。相変わらずどこに住んでいるのかも知らないし、本当はあの会社に今もいるのかどうかも知らないが、特段変わった様子もないので、ボクも何も聞かないことにしている。
で、試合は点の取り合いで結構面白かったが、2時間くらいならちょうどいいかも、と思った。
ボクは千駄ヶ谷なので銀座線の彼とは球場で別れた。また来年、といって別れた。