私も、この季節に札幌から東京に引っ越して、入社式を控えて調布の独身寮に入った。京王線の国領という駅を降りて、ボストンバッグを持って夜道を歩いた。まだ冬だった北国から来て、東京はとても生暖かいというのが第一印象だった。ワクワク感ではなく、寂しいというのが本音だった。できれば、北海道に残って就職したかった。
寮の部屋には、10歳以上離れた大先輩がおられ、6畳の部屋に一緒に住むことになった。とても優しくていい先輩であったが、山形県出身の先輩は口数が少なく、きれい好きで几帳面な方だった。自由きままな学生生活を送ってきた私は、やはり窮屈であった。最初は、なじめなかった。
そして、一番きつかったのは満員電車であった。最初の一週間は、毎朝気持ち悪かった。人が多いだけで、胸がムカムカしたのである。京王線から新宿で丸ノ内線に乗って、赤坂見附で銀座線に乗り換える。朝のラッシュ時には、心身ともに消耗した。
そんな暗い気持ちの時に、小金井公園で見た桜は心にしみた。青い空が見えないくらいに桜の花が咲き誇っていた。そんな桜は、生まれて初めてだった。
もしかしたら、環境が変わって、つらいと思う人のために、この時期に桜が咲くのではないだろうか。神様が、桜の季節にしたのではないだろうか。環境が変わって、一人ぼっちでスタートを切る人のために、「お前も頑張れ!」と桜が祝ってくれているんじゃないだろうか。