「おい、リカーーー……」



父親が、誰かと話をしている。
…私の手を握っていた女性だ。

父親は、その女性をリカと呼んでいた。

この時も何故か不思議に感じていた。どうして、自分の父親は誰なのかを認識できるのかと…。





「…ねぇ、りか…?」

私は恐る恐る、その母親らしき女性の名を呼んだ。もちろん、嫌味でも、まして悪意あってではない。
ただ、何か用があったのだ。何の用があったのかは、思い出せないけれど…。

そして、二人とも驚いた顔をしてこちらを見ているのは、よく覚えている。

父親は驚いた表情を見せた後、少し笑ったような…苦笑いしたような、そんな表情も見せた。

「リカじゃないよ、ママだよ」

父親は幼い私に優しく教えるように、言葉をかけた。

その後私は何て答えたのか、それははっきりとは思い出せない。ママ、と言い直したような気もすれば、そっかぁ、と納得して終わったような気もする。







その出来事を機に、私はそう呼ぶようになったのかもしれない。断言はできないけれど。

ただ一つ言えるのは、その女性が、間違いなく、自分の母親であるということを知った日であることは、言い切れるであろう。





この時は、親子なんてこんなものなのだろう、くらいにしか思っていなかった。いや、実際そういうものなのかもしれない。
もしそうなら、私のただの取越し苦労だと、笑い話になるだけのお話だ。