コロナの中のワルキューレ | Mevrouwのブログ。。。ときどき晴れ


長文です〜


今 いや 今後もしばらくは

ワグナーのフルオペラを上演できるのはドイツだけなんじゃないかと思い、

思い切ってベルリンまで行くことにした。

 

オランダからドイツへ旅行するためには

48時間以内に受けたコロナ陰性証明の提示が必要。

お金もかかる。第一もし陽性だったら? 

いやそれならそれで自主隔離して周りに迷惑をかけないようにしなければならないのだが

 

とにかくオペラのチケットは買ってしまったのである。

ホテルも列車も予約した。

無症状でもコロナテストをしてくれて陰性の場合には英語の陰性証明書を発行してくれる医療機関を探して申し込んだ。

145ユーロ。

ベルリンに発つ日の前日の朝にテストを受けに行く。

国外に旅行したい人たちは私だけではない。

畑の中にある施設の駐車場には結構車が停まっていて、

入り口には数名が並んでいた。

テストは喉から綿棒で表面の粘膜を少し採取する方法。 

あっという間に済んだ。

その夜メールで結果が届いたが、やはり陰性で、ホッとしてその証明書を印字してチケットと共にカバンに詰めた。

 

翌朝早く起きて家を出てベルリン行きの列車に乗り込んだ。

国境あたりで警官数名が乗客の顔を見ながら歩いていったが、

陰性証明見せろとかパスポート出せとか全く要求されず。

せっかくお金かけて証明書をもらったのにな、と拍子抜け。

だがベルリン着いてホテルにチェックインする時に陰性証明出せと言われた。

持ってきた甲斐があった、と嬉々として提出。

これがないと泊めてもらえないようなのでやはり証明書は必要であったのだ。

 

さてそしていよいよDeutsche Oper Berlinへ。

お客は1860収容のホールに770人のみ。

クロークも開いてるし、バーも営業してる。

ただし全員マスク着用しており、

さらにアクリルのフェイスシールド付けているスタッフもいる。

オケ含む演者以外は客もスタッフも全員常にマスク着用。

5時間くらいの間、飲み物を飲む時以外マスクつけっぱなしなのである。

カプチーノ飲んでから席へ。指定席制。

2階ロジュのカテゴリーでいえば下から3番目の席。

だが座ってみると、舞台の視界はとても良い。

6人座れる枠に私含め3人のみ。あとの二人は年配の男性。

 

 

 

Die Walkure 

Deutsche Oper Berlin

8 October 2020

Conductor Donald Runnicles

Director Stefan Herheim

 

Siegmund Brandon Jovanovic 

Sieglinde Lise Davidson

Wotan John Lundgren

Hunding    Andrew Harris

Fricka    Annika Schlicht

Brünnhilde   Ninna Stemme 

 

忘れないうちにこの舞台の様子を書いておこう。

トレーラーはこちら

 

 

 

1幕目

どうもフンディンクの家は難民の仮の住処というような感じ

人々がスーツケースを🧳持って行き交う通過点のようなところのようだ。

ヘアハイムは収容所跡にうずたかく積まれたスーツケースの山にインスパイアされたらしい。

つまり壁や家具が全てスーツケースの堆積なのだ。

ヘアハイムはまた現代の難民問題も併せて提示している。

様々な姿の人々がひっきりなしに通り過ぎていく。

ただ、皮肉なことに現在はコロナで旅ができない。

だからスーツケースを持って行き交う人々に、観客は何かしらの郷愁を抱いていたはず。

 

舞台の中心に謎のピアノがあって、(まるで今で言う駅ピアノみたいか? )そのピアノ色々やってくれる。

まずピアノの鍵盤の蓋にノートゥングが突き刺さっている。

でジークリンデがピアノに乗ると下から炎が🔥立ちのぼりピアノが持ち上げられジークリンデが雷に打たれたかのように倒れる。

登場人物がピアノから出入りすることも多く、どうやら音楽が物語を生み出すという表現かと思う。

 

ここにはまた知的障害があるらしいフンディンクの連れ子みたいな黙役がいて、始終ナイフを振り回している。

 


真っ赤なドレスのジークリンデとガタイのいいジークムント。そして右側にいるのがフンディンクの息子。
ジークリンデは強い女で、恋の喜びに打ち震え興奮する。

 

 

狼(多分ホントはハスキー)が歩き回ったりしてヴォータンが現れたことを示唆したり。

ジークムントは今までにないほど堂々としていて、ジークリンデを誘惑する。

すると、ピアノから白い布が出てきて天井につられてきのこ雲のようになった幕に樹木や満月や狼の目が映写される。

二人の恋の盛り上がりが映像で示唆される。

 

さらに彼女はフンディンクの息子の喉を切ってジークムントにむしゃぶりつく。

ジークムントとの禁断の恋に刺激されて畜生と化し、

子供を殺して不倫関係を作って家を出て行こうとしていたというところか。

まあ、とにかく、彼女は最初からどっかに行きたいわけだが。

 

2幕目

冒頭、下着姿の男がプロンプターボックスから楽譜を持って出て来る。

そしてこの男がピアノを弾き始めるとピアノの中で寝ていたジークリンデとジークムントが目を覚ます。

どうやらこのオペラを作っているのはこの男つまりヴォータン。

 

 

さらに次のシーンではヴォータンがピアノを弾くと中からブリュンヒルデが古式ゆかしい衣装で登場する。

それは安芝居のなりであって、もちろん茶化している。

 

 

 

で、次に塔のたった看板女優フリッカが登場。

白い毛皮付きのドレスコートで白いトランクを持っている。

あたしを差し置いて妾腹のワルキューレばっかり舞台に出してけしからんと言うわけであろう。

 

フリッカもまた物凄い迫力のある女!
 

結局ヴォータンは自分の脚本から数ページを破りとる。

 

かくしてジークムントがヴォータンに武器を叩き割られてフンディンクに槍で突かれるのだが、

この時かなりの苦渋の唸り声を上げながら地を這う。

 

 

3幕

舞台の上で男女数組がいちゃついているところへ騎行のテーマが突如流れ始める。

女たちは急いで羽のついたヘルメットをかぶる。つまりワルキューレ。

彼女たちは楽譜(リブレット?)をめくりつつ慌てて芝居をする。

男たちは実は死んだ兵士。自分たちが連れて帰った英雄の魂は城を守らずゾンビになってしまっている。

その中にはジークムントらしき姿も。

やがてゾンビはワルキューレ達を追い回し犯す。

フンディンクの子どももゾンビになって出てきて継母に復讐しようとする。悪ノリだ。

 

ヴォータンの怒りを受けてブリュンヒルデとジークリンデはピアノに入って奈落へ隠れる。

 

最後ブリュンヒルデが炎に包まれるシーンは

ブリュンヒルデがピアノの中に横たわり

ピアノから出てきた布にオレンジ色が映写されることで表される。

 

 

ラストシーンはハープで炎のキラキラの余韻が表現されてる中で

ピアノの中から今度はジークリンデが現れ赤ん坊を産み落とし、

それを痩せた猫背の男(ミーメか?)が連れ去っていくシーンがエピローグとして付いている。

このミーメはよく見るとベレー帽をかぶって鷲鼻のお面をつけている。

つまりこいつはワグナーなのだ。

なんじゃこりゃ、である。

 

 

とにかく演出はビッミョー!

だけどまあこれまでにない舞台とは言える。

 

ステージはさておき、演奏は文句なく素晴らしいものであった。

オーケストラの強弱が大胆で、これはそういう狙いかそれとも観客半数を考えた音響のためかは定かではない。

 

ダヴィドセンを生で聴けたこと、

シュテンメのブリュンヒルデとジョバノヴィッチのジークムントを聴けたのは僥倖と思う。

 

ダヴィドセンの声はベルベットみたい。

高音も無理なくヒステリックでもない。

温かく、低音に厚みがあってアルトも歌えるんじゃないかという感じ。

ジョバノヴィッチはこれまでのヘルデンテノールと違って声に深みがあると感じた。

声自体が低めなのかもしれないが、だからといって高音がかすれるなんてこともない。

この演出のジークムントは影を背負ってる印象はなくて、(というのもこの演出では、世の中の全ての人たちは何一つ確固たるものがない状態でうつろう旅人に過ぎないという前提であるから、彼一人が影のある人間ではないのである)

よって朗々と歌う男がピタリとハマる。

シュテンメのブリュンヒルデは歌唱も演技も役者に不足はない!この人ほんとに可愛い。

ヴォータンとの掛け合いがまた良かった。

 

お金も手間も自分にしてはすごくかけたけど来て良かった。

ずっとマスクなので多少うっとおしいけど安全な印象。

咳する人いないし。

お客は半数だから視界いいしフォアイエ空いてる。

 

演奏後、観客席から演出にブーが飛んでいたが

歌手やオケは素晴らしかったので、ブーなんか言うべきじゃないだろ〜と思った

 

 

舞台写真は最後のカーテンコールのものをのぞき、すべてDeutsche Oper Berlinから拝借しました。