Moon Rise | ”Stratoblue”  航空写真家 野口克也 Blog

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空から蒼を切り取る航空写真家 野口克也のオフィシャルブログ

2月7日
さ、さて、トレッキングも大詰め。今日はアンナプルナBC(ABC)に到達できるかの日である。
ここからだと1000m以上標高差があるので、マチャプチャレBC(MBC)で様子を見てから、
という条件はつくけれど・・・
8時出発。ここからは道はすべて登り。
1時間くらいでデオラリに着。デオラリについたらジャングルを抜けて、
荒涼とした岩の間を歩くトレイルになる。
ここからMBCまではバッティさえも無い。マチャがすぐそばに見える。
そばで見ると魚の尻尾が開いていて、いまいち美しくない。
なんだか違う山に見える。調子はいい。もうタメルでくすぶっていたこと、
日本でくすぶっていたことを忘れかけてる。
3300mを越えたころからはっきりと高山を意識してくるようになる。
息苦しい、と言うことはあんまり感じないんだけれど、明らかに呼吸数が多くなってくる。
そして、足が、手が、体がものすごく重くなる。
一歩一歩が・・重い。F4に望遠を、F80に広角をつけて歩いていたのだけれど、
カメラだけはいつチャンスがあるかと思って持っていたけれど、
重い・・。F4の方をKBに預けても体が重い。
これが空気が薄いって事なのか・・文章を考える余裕も無い、
写真の構図を考える余裕も無い、ただ右足の次に左足を置く場所を考えるだけ・・・

頭でごちゃごちゃ考えると余計に酸素を使いそうで、
何で別れたんだろう?なんてつまんないことがふっとよぎるけれど考えないようにする。
いや、酸素が薄くて考えられなかった。

12時ころMBCに到着。マチャプチャレのすぐ麓。
近すぎてよく見えない。日があたっているところは暖かいが、日陰はえらく寒い。
きっと気温は寒いのだろう。

いける!まだまだ余裕がある。ABCまで2時間。高山病の症状はまったく出てない。
ゆっくりと時間をかけて昼食を済まし、ABCへむけて出発。
大きな岩が転がるモレーンを歩く。
360度5000m以上の高山のみ。
ついに来たんだという実感を感じながら雪山の反射で明るくなっている岩の間を縫うように歩く。
3時前についにABCに到着。
4130m人生の中で足で歩いてきた中では一番高い場所。
荷物を置いて着替えもそこそこにカメラを持ってロッジの裏に。



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着込めるものを全部着て、カメラとフィルムと三脚を持ってロッジの裏の大きな岩の横に座り込む。
マチャプチャレ、ガンダルパチュリ、ガンガプルナ、テントピーク、アンナプルナI、アンナプルナサウス、ヒムチュリ、5000、6000、7000、8000m級の明峰。
クライマー目指してるわけじゃないから、
名前くらいしか聞いたこと無い山々が目の前に連なる。
いや、その山々と自分しかいない。
ロッジにいるみんなは中にこもっていて、誰も出てきていない。
俺一人だけがこの景色を独占している。ここから上は人間が入り込んでいない世界。
30分いたのか2時間いたのかわからないくらいただただ、山を眺めていた。
気がつくと、太陽はアンナプルナサウスの向こう側に落ちている。
アンナプルナを越えた太陽の光がまだマチャプチャレの上の空を照らして、
蒼から朱を通って黒にいたる絶妙のグラデーションに発光している。
もう、空を回りこんだ光しかあたっていないマチャプチャレ。
その背後から明るい物体が顔を出す。満月一晩前の月・・。
まだ暗く落ちていないマチャの後ろから輝きだした月との色合いはチープな俺の文章力じゃ表現できないほど絶妙の色合いを描き出していた。

ありがとう、俺。ここまでくる体力と、行動力と、一人旅を続けられる精神力。
キミがいなかったら僕はここまできてこの光景に涙することはできなかったはず。
フィルムに焼き付けるよりも、
心の印画紙に焼き付けることの方が重要と思ってしまうのはカメラマン失格だろうか?
カメラを操作することよりこの光景にただ感動していたかった。
そして月夜。昼間の何十分の一の光だけれど、
ちゃんと山陰を、谷筋に陰を作り出す月明かり。
ロッジの裏の大きな岩の5m先は100m近い断崖になって、
氷河が広がっている。素人目にも夜落ちたらたすからなそうである。
でも、月夜が俺を誘う。
-5度。思ったよりは暖かい。
まったくもって明るい雪山の月夜を堪能してから眠りにつく。




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