WHY WE DO WHAT WE DO 人を伸ばす力 内発と自律のすすめ

エドワード・L・デシ + リチャード・フラスト   桜井茂男(監訳)

 

 勉強会でご一緒している30代の若い個人事業主の方から、紹介頂いた本を読みました。以前から「自分にとっては忘れられない一冊ですので、是非読んでみてください。」と言われていたのですが、本棚に置いたままになっていました。今まとめている内容に少し行き詰まりを感じ、ふと本棚のこの一冊が目に留まりました。

 

 一言で言って、とても素晴らしい内容で、深く心に残る部分も多く一気に読むことができました。本の中には、一貫して貫かれている エドワード・L・デシの人としての姿が見えてきます。エドワード・L・デシという人の“揺るぎない強さ” がありました。その強さが気になって少し歴史を調べてみると、その強さの背景が見えてきました。

   “人がどう生きるか”を私たちに問いかけてくる一冊です。

 

  人を伸ばす力―内発と自律のすすめ/エドワード・L. デシ、リチャード フラスト

 

エドワード・L・デシ氏について

外発的・内発的という考え方自体は昔からありましたが、それらを 科学的に定義し、実験で検証し、理論として体系化したのがデシです。 彼の研究以降、外発的動機づけ・内発的動機づけという概念は明確に整理されました。

また、自己決定理論(SDT)を構築した第一人者でもあります。

ただし、この理論が受け入れられるまでには、長い時間と大きな困難がありました。

 

     ― 自律性を貫いた心理学者の経歴・その大変さ ―

 ■ 経歴

  • 1942年 アメリカ・ニューヨーク州パルミラ生まれ
  • 1964年 ハミルトン大学で数学の学士号
  • 1967年 ペンシルベニア大学ウォートン校でMBA(経営学)
  • 1970年 カーネギーメロン大学で社会心理学の博士号
  • 1970年代〜 ロチェスター大学で研究・教育
  • 1971年 「ソマ・パズル実験」を発表  → 報酬が内発的動機づけを損なうことを実証
  • 1980〜1990年代 リチャード・M・ライアンとともに自己決定理論(SDT)を体系化
  • 1996年 一般向け著書『人を伸ばす力』出版
  • 2017年 ロチェスター大学名誉教授
  • 2026年2月 ニューヨーク州ロチェスターで逝去(83歳)

 ■ 研究人生は、心理学の常識に逆らい続けた“孤独な闘い”

 

 ① 行動主義が支配する時代に、真逆の結果を出した

 当時の心理学は「報酬で人は動く」が絶対的な常識。 その中でデシは「報酬はやる気を壊す」という真逆の結果を発表。 → 学界から強い批判・嘲笑・否定を受ける。

 ② 批判されても研究を曲げなかった

 行動主義の権威たちに囲まれ、公開討論で孤立する場面もあった。 それでも怒らず、淡々と実験を積み重ね、データで示し続けた。

 ③ SDTが受け入れられるまで20年以上

 教育・医療・職場など、どの領域も「褒める・罰する・管理する」が中心で、SDTはなかなか理解されなかった。 しかし、一度も妥協せず、自律性こそ人を伸ばすという信念を貫いた。

 ④ 若手研究者にも“自律性”で接した

 「デシは何をすべきか指示しない。私が何を探求したいかを聞いた。」 研究室の中でも、自律性支援を体現していた。

 

 もちろんこの本には、内発的動機づけ、外発的動機づけ、自律性、有能感、関係性、報酬、統制など・・・丁寧に書かれています。 しかし、その根底にはもっと深い意味があるように思います。「真の自由とは何か」 「選択をするとはどういうことか」 「責任とは何か」そして、「あなたはどう生きますか・・・」と。

 

 本の最後に旧ソ連の反体制運動家であり物理学者のアンドレイ・サハロフと妻エレーナ・ボナーの実話が紹介されています。ボナーは深刻な病気の治療のためアメリカへ渡り、治療を受けた後、再び厳しい監視が待つソ連へ帰国することを自ら選びます。

 帰国の際、彼女が語った言葉が紹介されています。

「共に・・・・・私たちはなおわれわれ自身でいるという自由がある」 

そして、デシはこのような言葉で本を結んでいます。

「政治的に統制された体制において、サハロフ夫妻は政府が政治的圧力を加えていない何百万の人よりも、もっと偉大な個人の自由を示したのであった。」

 

 エドワード・L・デシ先生が、今年の2月に逝去されていることを知りました。

この本に出会えたことを嬉しく、日本の片隅に住んでいる私は勇気を頂きました。

ありがとうございました😊