ユーミンの歌に見送られながら手術室を去る。下半身の感覚がないままゴロリと転がるように移動式のベッドに移され、個室に移動した。
術後、麻酔が切れるまでだいたい4〜5時間かかるため、個室のベッドで休んでくださいとのことだった。一時間経ったら、水分補給してもいいらしい。ベッドにはなんと電気毛布がセットされていて、自由に温度調節していいですよとスイッチを手渡された。この電気毛布がとてもありがたかった。寝返りは、自分でできるようであればしてもいいし、手伝いが必要だったり、水が飲みたいとかトイレに行きたいとか何かあればすぐにナースコールを押してくださいと言われた。
暇だろうからと本を持ってきていたが、なんだか風邪を引いたときのような熱っぽさと寒気があり、電気毛布にくるまってじっとしていた。麻酔が効いている下半身が特に寒く、感覚がないから電気毛布を温かいとも感じられなかった。でもこれがなかったら寒くて寝ていられなかったと思う。ありがとう電気毛布。
時計のない部屋だった。ふと目が覚めると美味しそうな匂いと食器の音が聞こえたから、きっとお昼なのだろう。たぶん11時くらいに電気毛布にくるまり始めたから、退院までまだまだ時間がある。暇だ。私は昼飯抜きの身分なので、寝るしかない。
暑苦しさで目が覚め、下半身が温まりはじめていることに気づく。膝から下も、重いけれど動く。Siriがチクチクと痛むような気もしてきた。喉も乾いたし気を紛らわすために本でも読もうかと思うが、水筒も本もロッカーの中だから、ナースコールを押さなければいけない。どうしようかな。
迷いながらきっとまた寝ていたのだろう。ノックの音がして起きると、もう4時間経ったらしい。Siriに当てていたガーゼを替えてもらう。感覚も戻っているし、ベッドから立ち上がると意外と普通に歩けた。トイレで小の方をしてみてくださいと指示があり、普通に出たのでそのまま着替えて、15時半ごろ無事退院となった。
この段階では、痛みは10段階中4くらいだったと思う。ジクジクと痛むが、耐えられないくらいではない。痛み止めを3日分と注入軟膏を20日分処方され、明日また来てくださいと見送られた。
慎重に慎重に車を運転し、コンビニで夜ご飯と朝ご飯を調達しつつ、病院から5分くらいの場所にある近代的なビジネスホテルにチェックインする。
時間が経つにつれ、痛みは増してきた。近代的すぎてホテルの入り口が分かりにくいし、なぜか階段しかないし、早く横になりたいのにフロントのお姉さんはもたもたしている。かといって具合の悪そうな様子を見せたらこいつコロナか?と疑われそうだから、いや〜腰をいわしちゃってねぇ!という顔でヨチヨチと階段を登る。
部屋に入って、とりあえずベッドの上で全てが済むように水や食料やスマホやティッシュやゴミ箱をセットして、亀のような遅さでパジャマに着替えて横になった。
Siriの穴に力を入れるとヒィと声が出るほど痛む。力を入れないように調節しながらとにかくゆっくり動かなければいけない。ベッドの下に落ちたスマホを拾うにしても、寝返りを打ち(ヒィ)、足を少しずつ少しずつベッドの下に下ろし(ヒィ)、前屈みになりつつ(ヒィ)、手を伸ばし(ヒィ)、スマホを拾う(ヒィ)。Siriの穴の動きなんて日頃意識したことがなかったけれど、私の日々のあらゆる動作を影で支えてくれていたのかと驚いた。
Siriの穴の疾患というだけで、他の部位の切り傷や出来物にはないような恥ずかしさがあるのはどうしてだろう。Siriの穴は、乱れた食生活や運動不足によりいじめられながらも、黙って傷を受けて働いてくれている。考えていると、その不憫さに涙が出そうになった(果たして出なかったが)。痔に対する世間の風当たりに、痔の社会的身分の低さに怒りが湧いた。Siriの痛みと麻酔で頭の方もおかしくなっていたのだと思う。
また長くなってしまったので今日はここまで。明日は地獄の一夜。