あれから亜希子と連絡が取れない




エステニア製薬の女をたくさん呼んで貰う件は、どうやら無理だったみたいだ。



恐らく、清華に見つかったのだろう…




まあいい。その件は半分くらいしか期待していなかった。






それよりも今日だ。私は今日、全てのケリをつけるつもりだ。


今日が訪れる前に、一つ山が欲しかった。けどもう割り切ろう。



私は街に来ていた。


今日の街はいつもとは様子が違う。



とんでもない数の人々で賑わっている。


恐らく数十万人は集まっているであろう。



今日は広島でも最大規模の祭り





11月にある恵比須講祭りだ。



イカ焼きや焼き鳥のいい匂いがする。



私は祭りの雰囲気が好きだ。


イカ焼きを買って食べた。



私の目的、それは数十万人は集まっているであろう人々の中から転送者を見つけ出し、心圧を抜き取ってやることだ。


ちょっと歩いただけで
また二人見つけた。


この人混み全て探せば、相当数見つかるだろう。


私は荒業に出た。




ばた…



ばた…




何人もひとが倒れていく



私に心圧を抜き取られた女達が気を失ったのだ。

イカ焼きを食べながら
私はまるで手慣れたスリや窃盗犯のように、次々と転送者達から心圧を抜き取っていった。

私は心圧を抜き取ることを作業化していた。


今日1日でもう15人抜き取った。


抜き取れば抜き取る程に私の能力は増大していき、今では既に街の一区画程がレスポンスの射程圏内に入るようになっていた。触手も20メートル以上伸ばせるようになり、転送者を見つけ出し心圧を抜き取るペースは加速度的に増していった。


私は勝負に出たのだ。これだけ大規模に行動すれば、さすがに清華も動くだろう。



清華が動くまで片っ端から転送者を見つけ出し心圧を抜き取り続けるつもりだ。



今の私なら今街にいる転送者全員を見つけ出し、心圧を全て抜取ることも時間の問題だ。



ギイ…ギイ…


!!

このレスは清華!


その時がきた。
とうとう動いたか。


どこだ?どこにいる?


見つけた。


200メートル先の案内所の辺りをこっちに向かって歩いて来てる!





私はニヤリと笑った。


清華…私には元からお前より優位に立てる能力があるんだよ。



お前…まさか一人で来たわけじゃないだろうが、この人混みの中、どうやって私を見付けるつもりなんだ?




私にはレスポンスがある。この状況なら清華には絶対捕まらない自信がある。


お前の居場所は筒抜けだ。しかしお前には私の正確な場所は分かるまい。

お前が近づいたら逃げるだけだ。

絶対捕まらない鬼ごっこだ。





私は清華から離れるように動いた。



さて、まだまだ抜き取ってやる。また50メートル先に転送者を見つけた。よし、いただきにいくか。




ガシッ




!?


私は見知らぬ男に腕を掴まれた。



あんたゆうって奴だろ。


は?



私のお腹がヒンと鳴った。



男のレスを聴いて青ざめた。


男には先程
ケータイに画像付きメールが送られてきていた。

その画像とは私の顔写真。

そしてメール本文には私の個人データが載せられていた。


メールの最後の文章はこうだ。


この男を捉えよと。




ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ…




ヤバい…まさか




私はレスポンスによりここら一帯の人間のレスを聴いて驚愕した。


今この瞬間に
この男に送られたものと同じ内容のメールを何十人…いや…何百人が受信していた。



まさか…!この祭りに来ている人間の一体何割が

どれだけ清華側の人間が紛れているというのだ?




この区画にたまたま偏っているとは考えにくい。
いたるところに
清華の息のかかった者が張り巡らされていると考えられる。




すでに何人も私を見てケータイメールと照らし合わせている。


清華…なんて奴だ。私が祭りに来ることを読んでいた

そして待ち伏せていた!

清華の息のかかった者数万規模で!


私は敵の胃の中に自ら飛び込んだようなものだったのだ。


私が派手に動き回るのを待っていたのだ。
そして気を失った女達の場所から私の大まかな位置を割り出し、このタイミングでここら一帯の息のかかった者達にメールを送信した。


私は転送者はわかるがその先はわからない。

そこをつかれた。


私はまんまと泳がされたわけだ。




うん、多分あいつ。
あれ?あそこにいるのメールの奴じゃね?
間違いないあいつだ。
もしもし?見つけたんだけど
ゆうって奴見つけたよ!あそこいるよ!
今、弥生ビルの前にいるんだけど


どんどんバレていってる…しかも仲間を呼ばれている…


何十何百という視線がレスが、突き刺さる




私は改めて清華の恐ろしさを実感した。
いつもやることのスケールが予想の上を行く。。


でも清華…私は覚悟は出来てるよ。

こないだとは違うんだ。覚悟が出来たんだ。今日、お前と…




私は腕を掴んでいる男に目をやった。


確かに俺がゆうだけど、何?


私は掴まれた手を払うと、そのまま歩いていった。



待てよ!


男は私を逃がすまいと回り込んできた。


私は男の頭を掴んで無理矢理地面に押し付けた。



待てと言われて待つかよ。


顔を地面に押し付けながら
そう言い残し、私はその場を後にした。



それからも次々と絡まれたが、私は極力相手にしないよう、それでも立ちはだかる奴は顔を地面に押し付けて進んでいった。


そして目の前にあるビルの中に入っていった。



このビルに入ったのはたまたま目の前にあったからだ。しかしこのビル、偶然にも恵と会ったビルだ。


このビル…何かと縁があるな。




私はこのビルに入った。

私がこのビルに入っていったのは目撃者がいるだろう。そのうちどんどんここに人が集まる

いずれ清華もここに来るはず


望むところだ。



私のレスポンスはこのビル全てを覆い尽くせる。


どうやらビル内の人間は清華の息のかかった者はいないようだ。


私は屋上に上がった。


屋上は風があって肌寒かった。

見渡すと
夜景がキレイだった。



キレイな街だ。


夜景を見ると思う。人間も捨てたもんじゃないなと。人工物でも自然の美しさに負けてないなと。


あー



来たな。




清華がビルの下にいる。



上がってこいよ。さあ



私の思いに応えるように、清華はこのビルに入ってきた。





エレベーターが上がってきた。






チン




エレベーターから清華が出てきた。






やあ。
久しぶり。


俺はお前を見くびっていたようだな。
あの時、心が折れていたと思っていたが、
まさかこんなことをやれるとは。


まあ、色々あってさ。


おかげで大損害だ。私の計画が、恐らく1ヶ月は延期することになりそうだよ。本当にやってくれたな。


そっかあごめんね、
それよりも清華、やっぱりお前は一人できてくれると思っていたよ。うん、お前とはもう一度ゆっくり話がしたかったんだ。


計画ってなんだ?



人の貯金を散財させる計画だ。
あと一年と3ヶ月で、1000兆の金を散財させる。今はまだ達成率は三割程か…


そうか…こんなこと言っても止まらないだろうけど、お前のやってることはすでに日本にとんでもない影響与えてるぞ。


ああ、知ってるさ。面白くなってきたところだ。景気がよくなったと勘違いしてる奴らも、そろそろ気がつく頃だろう。


すでに手遅れかもな。周りに乗せられて消費癖が付いてしまった奴らは勝手に自滅するだろう。もうほっといても日本が破滅するのは時間の問題かもな。

…清華
俺さ、お前のこと、許せないんだけど、なぜか憎めないんだ。なんて言うか、俺と似てるっていうか、俺にないものを持ってるっていうか。



なんだそれ、言ってること矛盾してないか?



あは!そうだね。言葉にすると矛盾してんね。でも、お前なら俺の言いたいことはわかるだろ?



そうだな。多分わかるよ。




清華、俺、お前に聞きたいことがあるんだ。


なんだ?



美音ちゃんってお前の何だったの?



腹違いの妹だ。




そうか…兄弟だったんだ…そうだったんだな。



すごい納得したよ。顔は全然似てないけど、なんか似てたんだ。お前と美音ちゃんは。



でもお前…つまり妹を殺したんだな…



そういうことになるな。







なんで?なんで妹を操ってたの?なんで俺に暗示解かれたからって殺したの?


清華は眉間にシワを寄せた。









お前、美音が好きだったのか?

清華は質問には答えなかった。代わりに質問してきた。


好きだったよ。
大好きだった。



そうか、
美音もお前のこと好きだったみたいだ。

暗示と己の感情の狭間であいつは苦しんでいた。









清華…お前…
もしかしてお前も美音ちゃんを…


清華は何も言わなかった

しかし私はレスポンスにより清華の気持ちは分かってしまった。





俺、かなり力付けたよ。それでもまだお前には勝てそうにないけどな。
まあ、お前と面と向かってびびらずにいられるくらいにはなったよ。
お前一体なんなんだ?どうしてそんな心圧を持ってるんだ?




ゆう、お前こそなんなんだ?


確かに俺も相当普通じゃないよな。
俺達…なんなんだろうな。はは。


心って…何なんだろうな。ただの神経伝達の集合体だとは到底思えないよな。


なんかわかんないけど、世界全体のバランスを取る為に俺やお前みたいな特異点が生まれたんじゃないのかな。


わかんないよ?
わかんないけど、俺たち、キリストや釈迦みたいな特別な神的な存在になれると思うんだよ。成りたくもないけどさ。お前もそんな気持ちはサラサラ無さそうだけどさ。





まあ俺はまだ清華、お前には勝てない。けど、お前に何か与えてやりたいんだ。



何を言い出すかと思えば、なんだ?何を与えてくれるんだ?



人の気持ちだよ。





これ、…受け取ってくれ。




私は触手を清華に伸ばした。



つつっ


私の触手が清華の器の中に入っていった。





清華

なんで美音ちゃんを殺したんだ!俺は彼女となら新しい世界が広がっていけたのに!

俺から大切なものを色々奪った!

朱木…マーシーさん…


ちくしょう!


お前は許せない!バカやろう!






私は怒りで心圧を爆発させた。


衝撃波のような凄まじいエネルギーの心圧を清華に送り込んだ。






どうだ、どんな気分だ。俺の気持ちが伝わったか。


ピシ


私の器にひびが入った。

無理もない


今のパワーアップした心圧をさらに怒りで圧を高めたのだ。瞬間的心圧は転送者なん百分相当なのか見当もつかない。



清華は…



清華も様子がおかしい。恐らく清華は送ることはあっても送られたことは初めてだろう。しかもこの膨大な量…



初めて見せる苦悶の表情…


やめ…ろ…



ぐ…



私は心圧を送り続けた。
そして全て送り込んだ。


どうだ。清華。これが俺の気持ちだ。


俺はあれから…いや、物心ついた時から心にぽっかり穴が空いていた。いつも寂しかった。誰かに穴を埋めて欲しかった。


清華…お前なら私の心に空いた穴、埋められるのか?



今度はお前の気持ち、全部受け止めるよ。


私は清華に触手を全て差し込んだ。



ズオオオオオ!



どんどん清華から心圧を抜き取っていった。

全部受け止めるよ。

全部だせ。


あああ…


まだ…
全部受け止めるよ。




ピシ




ピシ





私は清華の心圧を全て抜き取った。





ピシ


はあ…清華、お前の敗因は熱くなれないことだ。誰かを思い、怒りをたぎらせることが出来ないことだ。

もしお前が熱くなれたら…お前は世界を照らす太陽になれたのに…



ピシ






パアアア!




私の体は足元から粉々に崩れていった。




私は鳴いた。


エネルギー全てをレスに転換した。



この街全てを覆い尽くした。


人々の心に入っていった。




最高!


これだ。私の求めていたもの。
私は放出したかった、あますところなく。
今、全て放出出来た。最高な最後だ。

今が人生で最高で最後の瞬間だ。

足元が消滅した私はその場に大の字に倒れた。


悔いの欠片もない満足げな笑みを浮かべて。

心圧を失った清華は一気圧の人間になった。



それから数ヶ月後、冬の寒さも和らいだ3月のある日


清華…気分はどうだい?

清華の心に残った私の残滓が問い掛けた。


なんかすっきりした気分だ…


最高に爽やかな気分だ。


清華は笑った。

暖かな日だまりの中で

春が来た…完







私は力を付けなければならない。清華に対抗出来るレベルまで。


あの時、
清華はまるで本気じゃなかった。清華にとっては虫ケラを指で弾いたくらいのものだったに違いない。おそらく三人分の心圧を取り込んだ今の私でも、清華からしてみれば大差ない些末な変化なのだろう。





もし、このままのやり方で清華に追い付こうと思ったら、





一体何人分の心圧を抜き取らなければならないのか…
恐らく100人分以上の心圧は最低でも必要だろう。



私の心圧がパワーアップしたことに少し浮かれていたが、こうやって何人も心圧を抜き取っていけば、清華にバレてしまうだろう。


私はそれがあったからおそらく転送者の巣窟になっているであろうエステニア製薬の女の子には直接近づいてなかったのだ。


しかし、亜希子に頼んだ一件がある。
バレるのは時間の問題だ。もしかしたら明日にもバレてしまうかもしれない。






ところで私は三人分の転送者の心圧を取り込んだことにより、清華にはかなわないにしろレスポンスが大幅にパワーアップしている。


まず、レスポンスの射程距離。今までは10数メートルだったが、今では50メートルはいける。



伸ばせる触角の距離。

今までは、ほぼ相手と密着するくらいの距離、手の届く範囲くらいまでしか伸ばせなかったが、今では軽く3メートルはいける。



そしてもちろん、気力の充実により、身体能力も向上している。

ただ、この取り込んだ心圧、何かしっくり来ないというか、

得たものがあった反面、何かを失ってしまっている。



その失ったものを再び手に入れれば、私は飛躍的に強くなれる予感がするのだが…


以前の私にあって、今は欠如しているもの…




清華への憎しみ




だと思う。


今の充実した心圧を怒りで爆発させれば、
とてつもない力が生まれそうなのだが。



私は今正直、清華に憎しみの感情は抱いてない。


大切な存在を何人も殺されたにも関わらず。

そう、何人も殺された…

思い出すだけで悲しさと悔しさで心が苦しくなる。私にこんな思いをさせているのは間違いなく清華だ。


でも


…清華と対峙した時にわかってしまったんだ。


敵とか味方とかじゃない。友達でもない。


清華と私の関係性は、

陰と陽。


氷の太陽と、激情の月




多分、私は清華を必要としているし、清華も私を必要としている。はず。

ただ、私はこの取り込んだ心圧の影響もあるのかもしれないが、清華に感化されてしまって激情が薄れてしまっている。







美音ちゃん…


私が美音ちゃんに感じたものと清華に感じるものは同じ感覚。



もしかしたら清華も…美音ちゃんに何か同じものを感じとっていたのかも知れない。





清華と美音ちゃんは、どうやって知り合い、どんな関係だったのだろう。


でもどんなに同情しても何をしても清華をこのままにしておくわけには…


いかない。










その頃

亜希子とエステニア製薬に勤めている女が電話で会話していた。


ほんとだってば!マジ気持ちいいんだから!有加も絶対虜になるよ!あいつが言うには、エステニア製薬の女をたくさん呼んで欲しいらしいよ。有加の他にも三人声かけたよ。みんな行くって!

もしもし?聞いてる?


その話、詳しく聞かせろ


は?あんた誰?有加は?



続く。













私に心圧を抜き取られた女は恍惚とした表情を浮かべてへたり込んでいる。

意識はありそうだが、なさそうにも見える。



そのままにしとくのもあれだったので、
声をかけてみた。



ねえ、大丈夫?

女は目がトロンとしていた。
私の声に反応してこっちを向いた。


…サイッコー。
あんた何したの?めちゃめちゃ気持ち良かった。ドラッグやセックスなんかよりよっぽどぶっ飛べた!

もう一回して!お願い!



よほどお気に召したようだ。でも


多分一度だけしか出来ないよ。もう無理。



え~!そんな意地悪しないで!お願い!


だから無理だって。しつこいよ!



だってチョー気持ち良かったんだもん!パーティーってこれのことだったんだね。サイッコー!


…あ、ああ。そうだよ。



!そうだ、もっとね、大きなパーティー開こうと思ってるんだ。
次のパーティーでまたしてあげるよ。
だから女の子たくさん呼んでくれないかな?出来ればエステニア製薬の女の子がいいんだけどな。どう?

エステニア製薬?
あ!知り合いいるよ!わかった!声かけてみるよ!


俺は憂。名前なんていうの?

亜希子だよ。


もちろん私はレスポンスにより亜希子の友人関係を知り得ていた。



私は亜希子と番号交換して別れた。




口から出任せで言ったことが思わぬ展開を生んだ。


もし亜希子が清華に操られた子をたくさん連れて来てくれたら、私は一気にパワーアップ出来る。






その後も二人、操られた子を見つけて心圧を抜き取った。




私は今日1日で三人の女から心圧を抜き取ったことになる。


亜希子の心圧を取り込んだ時点で私の心圧は相当強くなっていて、二人目の女に触角を刺した時、私の方が心圧の強さが上回っていた。にも関わらず心圧を抜き取れたのは、私が心圧をコントロール出来るようになった証拠なのだ。私は器の中で部分的に圧の強弱をつけることにより、自分より弱い圧も取り込めるようになったのだ。



多分、私は10人分だろうが100人分だろうが取り込めるんじゃないだろうか。




しかし、やはりというべきか…



操られている女は間違いなく増えている。

1日で三人も見つかるとは…

清華と再び合間見える日は
そう遠くない。




力を付けなければ。もっともっと。






続く。