私は、次の日も街に出ていた。







これで3日連続だ。


私は取り憑かれたかのように連日街に出ては雑踏の中を歩いていた。


今日は
雨はやんでいるが、雲が少し残っている。
湿度があるためか、肌寒さがまとわりついてくる。



私は雑踏の中を歩いていた。




人々のレスを聞くと、なんだか落ち着く。


レスの流れ…それは川の流れを見ているような感覚だ。





こうして人々のレスの流れを聞いていると、やっぱり人間ってのも自然の一部なんだなと思った。



人間と自然は切り離して考えるものじゃない。


以前、清華に会った時に感じた印象…



動物って本来利己的なものだ。力が強い動物程、その力を自分の為に行使出来る。



つまり自然界において、力を自分の為に行使するのは自然な営みなのだ。



でも、例えば子馬を襲うライオンは、親馬の必死の抵抗をうけるし、例えば熊が里に降りて来て、人間を襲えば駆除される。


猪が畑を荒らせば罠にかけられる。



そう、防衛もまた、自然の営みなのだ。






しゃしゃしゃしゃしゃしゃ



!このレスは!


見つけた!



三日目にしてようやく見つかった。横道に逸れなければもっと早く見つかったのかも知れないが。



そう、私は、清華に操られている女を探していたのだ。

何を今更ってわけじゃない。

私は、一つ実験をしてみたかったのだ。


私には確信に近い予感がある。それを確かめたかった。



私はそのコに声をかけた。





こんにちは。
今からどっか行くの?


別に。
女は私を一別した後、無視して行こうとした。

なにこいつ…ウザ。

レスが聞こえた。


やっぱりこういうのは苦手だ。
私は、ナンパなんてしたことがない。どうやって呼び止めたらいいんだろう。
こんな時、レスポンスはまるで意味をなさない…



!あっ

あのさ、今からパーティーあるんだけど、一緒に行かない?君みたいなかわいいコが来てくれたら助かるんだけど。






いいよ。いっても。


やったね!
じゃあいこっか!


私は、レスポンスにより女の心の変化がわかった。

どうやら私をカモにすることに決めたようだ。



自分がカモにされるとも知らずに。


このビル。さあ入って。私達はビルに入った。


このビルの上の階でやってるんだ。



女をエレベーターに乗せると、階を指定するボタンを押した。



?え、Rって、屋上じゃない?なんで屋上?


まあまあ、屋上パーティーなんだよ。いったらわかるよ。

チン


屋上についた。



そこは何の変哲もない誰もいない屋上だった。ちなみにここは恵と話した場所だ。



…ここがパーティー会場?
なんで嘘ついたの、てか、マジキモいんだけど。警察呼ぶよ!

女は完全に警戒している。



ごめんな、嘘ついて。ミイラ取りがミイラになるってこのことだよな。

は?

私は女に触角を伸ばした。




ピシューッ!


女から冷気が放出される


一本だけ刺したんじゃ、吹き出す心圧に弾かれる


この冷気を、私が取り込む!
私は全ての触角を彼女の孔という孔にさしこんだ。

シューッシュウウウ…


自転車のタイヤに空気を入れている感じ。
ガスライターにガスを入れている感じだ。


ううッ

あの時と同じだ。清華に心圧を注がれた時と同じ感覚だ。冷たい空気が入り込んでくるようだ。


ああああ~


女は虚ろな表情を浮かべている。


あっ

あんっ

ああああっ!


シュウウウ…シュン


心圧を全て抜き取ることに成功した。



私は女から触角を抜いた。


うっ




私は清華の心圧に取り込まれそうになるのを抑えつけ、なんとか正気を保っていた。


これが、…清華の心圧か。

私は体中に力がみなぎっていた。


莫大なエネルギーだ。


そう、清華の心圧を自分のものにしたのだ。


操られている女を探していたのは、このエネルギーを抜き取るため。


以前、清華に心圧を直接注入された時は、私は心が折れていたので、清華の心圧は毒のようなものでしかなかった。

だが今の私にはねじ伏せて取り込める自信があった。




この調子でどんどん心圧を取り込めば、いずれ清華に対抗出来るレベルまで強くなれるかもしれない。






私は清華と再び対峙出来るかもしれない方法を手に入れた。



鳥肌が立ち、武者震いをした。

自分のポテンシャルにゾクゾクとした







続く。







恵と会った次の日、





私はまた街を歩いていた。





ぽつ




私の肩に雫が落ちた。



雨が降り出した。



しまった


洗濯物干してるままだ。



まあ、いい。もう一回転させよう。



びしょ濡れの衣服を更に干し続け、雨が止みまた乾くまでをもう一回転と私は呼んでいる。

よくあることだ。


レノアしてるから雨水も大丈夫。


だと思ってる。


それにしても
冷たい…今日の雨は冷たい。



私はコンビニでスイッチ式の黒い傘を買った。





こんな時は、人々のレスも全体的にトーンが暗い




けど、ちょっと暗いくらいのもんだ。基本、だから自殺…とか自暴自棄になる人間が増える程ではない。当たり前の話だが。




明らかに多いんだ。死にたがっている人間が。今すぐってわけじゃないが、もういやだ、もうダメだってレスがちらほら聞こえる。


昨日も何十人と見かけた。


けど、そんな声一つ一つ気にかける余裕は私にはない。



そんな中、

一つのレスに気が止まった。






これは
明らかな殺意。


…どうやら清華に操られているわけでもない。


レスの発信者は男だった。
男は傘をさしておらず、小雨とはいえ雨を気にすらしていない風だ。


まあ、誰かムカつく奴を殺したい気持ちくらい、誰にでもあると思う。それは全く健全な心理だ。

ただ
普通は実際に行動を起こさないだけで。


でもこいつの場合はヤバい。




無差別だ。
誰でもいい、
出来れば女子供がいい…

どす黒いレスが渦巻いている。
本気だ。


今からやるつもりだ。


私は鳥肌が立ってゾワゾワした。
人のレスを聞いてこんな気持ち悪い気分になったのは初めてだ。



さすがにこんな奴をほっとけない。


通り魔とかマジでクズ野郎だなこいつ。





こいつ、もうターゲットを決めたようだ。男の目の前を歩いている中学生くらいの女の子だ。

人通りの少ない所までつけていってやるチャンスをうかがうつもりだ。


私はその薄汚い殺意に殺意を覚えた。


私はその男の背後に回った。
傘を畳み
右後方から接近し、

無造作に傘立てに突っ込むように
男の右脇目掛けて
左手で傘をガス!と突くと、一回目は外れて脇腹を突いた。

ぐっ!
男が小さくうめいた。

そして二回目で差し込まれた
と同時にワンタッチ傘を開き、そのまま通りの壁際まで
まるで校門を閉めるかのように思いきり引っ張り込んだ。


なっいっ!
えっ?なっ?
パニック状態の男ことなど気にもとめず、

そのまま強引に
引き込みながら男が着ていたジャケットの右ポケットに右手を突っ込み、びっくりして反射的にそれを抑えようとする男の右手首を傘を放した左手で掴んだ。


壊れた傘が
男の脇から はらりと濡れた地面に落ちた。



前を歩いていた女子中学生は、気付かずそのまま歩いていった。


お前騒ぐな。騒いだら右腕の骨、折るよ。

私は耳元で囁いた


なんだお前!いた!
わ、わかった。わかったから止めてくれ!

男は懇願した。


私は男のジャケットの右ポケットから折りたたみナイフを抜き取ると、手を離した。



通りを歩いていた人達が私達を見てざわついている…


私は、落ちた傘を拾い

ヒロシ久し振り!ごめん驚かして。いたずらが過ぎたかな?
ちょっとあそこのカフェでお茶でもしようよ。

と、旧友と再開したかのように振る舞った。

私達は近くのカフェに入った。





何で俺の名前を…俺のこと知ってるのか?
何が目的だ?


いや、全然。お前のことなんて知らない。あの場を取り繕うのに適当に呼んだだけ。(もちろんレスポンスにより名前を知り得ていたのは言うまでもない)

目的かあ…

強いて言うなら取材?お前の。


取材…?
ヒロシは怪訝な表情で私を見た。



俺、お前みたいな奴と実際会って話してみたかったんだ。


それより
お前、

あの後、とんでもないことしようとしてなかった?通り魔とか。

はっ?何言ってんだ!
(何でバレたんだ?)


そのびしょ濡れの恰好、人々を物色するような異様な目つき……特に女や子供ばかり見てたな。ちょっと人間観察してたら誰でもお前に目が止まるって。


てか、そんなことはどうでもいいんだ。なんなら俺がお前の心を読めるということにしといてくれ。(通り魔しようとしてたら心を読める奴に止められたなど、こいつも言えるわけがないだろう)


(この男何者なんだ?普通じゃない)


俺が聞きたいのは、お前のことだよ。
俺が何者かなんてどうでもいいんだ。
なんでお前は人を殺そうと思った?



…理由なんかないよ。殺したかったから。
衝動を抑えきれなくなるんだ。食欲や性欲
みたいなものかな。


お前らにはわからないよ。
お前ら、例えばこれから食事は点滴のみで、ご飯食べるなって言われて我慢出来るか?自分が病気になって…とかじゃない、ある日いきなり日本の法律が変わって、肉食は法律で禁止されてるからダメだって言われて我慢出来るのか?菜食主義になれるのか?



こっそり食べるだろ?



この苦しみ、お前らにはわからないよ。
欲のないつまらん人間どもにわかるわけがない。
ああ、愚民どもに分かるわけがないさ!


きっと俺は神の使いなんだ。


増え続ける人間を間引きするために俺は生まれたんだ。



俺はその意志に従ってるだけだ。




…こいつのレスはくだらない。しょうもない。人殺しを思い付きで正当化しやがって。神がどうこうなんて今思い付いたくせしやがって。


猟奇的な殺人欲求なんて私は持ってないが、こいつが引き合いに出した強烈な
空腹や性欲を満たすことを理由に犯罪なんてしないよ。

状況によっては
ちょっと悩むかもしれないが、一線は越えない。何故なら、その行為によって悲しむ人がいるから。それを想像したら、衝動は萎える。
禁止されてるから我慢するんじゃない。誰かが悲しむから我慢するんだ。


何より自分が自分で嫌になるよ。
ましてやそれを開き直ってるこいつは心底クソ野郎だ。

欲望に振り回されてるくせして開き直ってるどうしようもないクズやろうだ。こーゆー奴見ると本当に頭にくる。





私はこいつのレスがある意味清華と少し似ていたと思って興味を持ったのだが、よくレスを聞けば全然違う。
こいつは醜い性癖に振り回されているただの小悪党だ。


いや…


同類なのか。清華もこいつも。



人を殺す奴は殺した方がいい。それがみんなの為だ。

自分の欲求を満たす為に大多数の人間を不幸にする奴なんて、殺した方がいい。

お前も、清華も、粛清されるべき悪党だ。

お前らみたいなのを野晒しにしていたら、


平和が崩れる。
安心が奪われる
笑顔が奪われる。

悲しみ
怒りや憎しみが生まれる


混沌とした世界になってしまう。


嫌だ。絶対嫌。これ以上大切な人達を失いたくない。

大切な人を持ってる人は絶対お前らみたいなキチガイが跋扈するカオスなんて望んでない。


なら、大切な人を持ってない人は…




そして私は…
失いたくない大切な人は何人もいる。でも、私の存在は周りに迷惑をかけている。


私も死ぬべきなのだろうか。






さて、そろそろ出ようか。


私達はカフェを出た。


どこ行くつもりだ?




まあまあ、ついて来て。




ここ。
お前を警察に突き出すよ。

そこは交番だった。


なっ!

バカな!俺はまだ何もやってない!なんだ?あんなチャチなナイフ一本持ってただけで犯罪か?捕まるわけないだろ!やめろ!


あはは。何そんな慌ててんのさ?本当にそう思ってるなら堂々としてろよ。ヒロシ君。



ヒロシ…今回は未遂に終わったが、
こいつは今年に入ってすでに三人殺している。しかも女子供を狙ったものばかりだ。


指紋やDNA鑑定して貰って潔白を証明すればいいよ。

私は3月21日と5月10日、後8月4日には人を殺してませんってな。

家宅捜査して貰っても証拠の遺品やパソコンに画像コレクションなんか出てきませんてな。


!逃げっ


ずぶ


ぎゃあ!

ほら、逃げようとするから。


私は逃げようとする男の二の腕を掴み、指を食い込ませた。


本当は今ここで全身の骨バキバキにしてやりたいんだけど、お前は電気を頭に流されて死ね。



私は、ヒロシを警察に突き出した。



街で人間観察してたら穏やかじゃない男を見つけ、声をかけたら通り魔殺人の犯人だと自供したもので。

と警察に説明した。




あーあ、また人助けしちゃったな。



そんなつもりなかったんだけどな。



私はそんなつもりで連日街を歩いていた訳じゃない。



でもまあ、あの女子中学生が殺されてたら胸くそ悪かった。



ところで
ヒロシの奴、神がどうとか言ってたな。


神か…もし本当にいるなら、なんで俺にこんな能力与えたのかな。
おかげで普通に生きれないじゃないか。


神様のバカ。


壊れた傘をさして私は家に帰った。



続く。



過去編
清華と出会うまで



現在編

人助け
けどそれは理由がある
別に人助けがしたいわけじゃない








思いって何だろう。


姿形のないもの。



けど、人々の心の中に確実に存在する何か





私達はいつの時代も世界をイメージし、その中で自由を求め、時にイメージに縛られ、時にイメージを逸脱し、

また新しいイメージを作り出す。
そして常にイメージの枠の中に居場所を求める




私達はイメージの中で生きている。
イメージの中でしか生きられない。




私は街を歩いていた。






人々の喧騒、人々のレス…





2ヶ月前の私とは比べ物にならないくらい、人々のレスが脈を打って鮮明に聞こえる



あの時、みんな似たようなこと考えてるなと思ったものだが、人は集まると、例え全く他人同士が居合わせただけだとしても、似た波長を描くようになるみたいだ。


それが居心地のいい人、居心地の悪い人といるみたいで、

似たもの同士が集まるっていうのは、そういった理由があるのだろうなと、レスを聴くことによって再認識した。

つまり一緒にいるだけで似てくるのだ。



私は、雑踏の中を歩く人々を見て

この五人はグループ。この二人は恋人同士。といった具合に何となくわかるようになっていた。さらにそのグループがまとまっているか、ただの寄せ集めなのかもわかる。


グループが出来ると、それに馴染めない人間も必ず出てくる。

明らかに馴染めてない人
馴染めてるフリをしている人
抜けようとしてる人
変えようとしてる人

様々だ。





今までとは確実に見方が違ってきた。





ん…?


…場にそぐわない…



一つの不安な悲壮なレスが飛び込んできた。



それは一人の男…




この男…


今から死のうとしてる


男は生気の欠片もない表情で


目の前のビルの中に入っていった。



どうやら
このビルの屋上から飛び降りて死ぬつもりのようだ。





ビルの屋上で男は意を決した。


フェンスをよじ登ろうとした瞬間



まあまあ、そんなに気合い入れないで。

私は声をかけた。



なんだ?あんたこのビルの関係者か?


いや、ただの通りすがりのものだけど、


やめときんさい。自殺なんて。


!何言って…

私の表情を見ると男は言い直した。

何でわかった?



あんたこのビル入ってく時の表情が尋常じゃなかったよ。





…いいんだ。ほっといてくれ。

俺は全てを失った。もう生きてく意味がない。ここで終わらせるんだ。


ひゅるっ


そう…まあ、俺はあんたのこと何も知らないし、知ったところで何か背負うつもりもない。

止めないよ。まだ死にたいのなら。


私は男の元を去った。






あれ…なんか頭の中がスッキリして…さっきまであれほど最悪な気分で、死ぬしかないと思ってたのに…


でもどうしよう…なんて取り返しのつかないことをしてしまったんだ…

とりあえず帰るか…



男はビルを降りて行った。







ふん、
勢いなんて所詮脳内分泌物が作り出した一過性のもの。新鮮な血液で洗い流せばリセットされるもの。

そんなまやかしの勢いなんかで死ぬことは許さない。
死ぬなら冷静に死ね。




今の男、どうやら転送者により貯蓄を散財させられ、さらに会社の金にまで手を出したようだ。


確かに情けなさすぎて死にたくなるな。でも、それは人生で最悪の状況とまではいかない。男が変われば、人生やり直せる可能性は十分にあると思う。


頑張って欲しいとも思わないし、死んで欲しいとも思わない。

死ぬ気でやれば何でも出来るとも思わない。

ただ、死ぬなら私のレスポンスの届かないところでしてくれ。そう思っただけだった。





私は、また街を歩いていた。


すると、また自殺願望のレスが聞こえた。

自殺志願者に1日で二人も出くわすとは…


レスの元を辿ると、ある一人の女の子だった。



私はずっと、優しさって何だろうと考えてきた。優しさとは見返りを求めないもの。それは間違いない。しかし甘さと優しさは微妙に違うし、エゴと優しさも微妙に違う。

甘さはその場しのぎ的、そして共依存的だ。

エゴは相手に変化を強いる。


優しいって言葉

にんべんに憂うと書く

人は憂う人の隣にいることだけしか出来ない。
もちろん何か直接、力になれることもあるだろう。
しかし、他人が解決してあげられるものは一時的なものばかりだ。

結局、憂いの元を解決するには、その人が自分で立ち上がるしかない。

私の能力、


人に優しくするために生まれた能力なのかもしれない。




私は清華に対抗する為、この力を清華に勝つ為に使っていた。


それしか考えて来なかったが…


この能力、人助けをするために使えば実に役立つ。



まず悩みを持った人がわかるし、その原因も分かる。それだけで心理カウンセラーのようなことが出来る。

さらに衝動的に自暴自棄になっている人の心圧を抜き取ってあげれば、冷静さを取り戻してあげられる。


ちなみに清華に操られた人達の心圧を抜いた時、気を失ったのは圧のふれ幅が大き過ぎたため。
血圧が急に下がったら立ち眩みするようなもの。普通の人が起こす心圧のふれ幅なんてしれてる。


こんな能力を持ってしまった私ではあるが、人助けをしたいわけじゃない。困っている人を見てみぬ振りすることくらい、出来る。

勝手にすればいい。人は人。余計な干渉はいらない。




じゃあ、何で私は、この女の子の後をついて行ってるのか…





恵…こんなところで何やってんの。

そう、その女の子は恵だった。


憂さん…何でここに?


今、恵と話している場所は
さっきの男が自殺しようとしたビルの屋上だった。


このビル、自殺願望者を呼び寄せる何かがあるのだろうか。





…いや、ここらへんぶらぶらしてたら恵見つけてさ、なんか思いつめた顔してたから声かけようと思って。

てか痩せたね、恵…見違えたよ。



あれから…ご飯全然食べてなくて。


そっかあ、

いいことじゃん。恵、今まで食べ過ぎてたから。むしろまだまだ食べない方がいいね。後3ヶ月くらい。恵まだまだ尋常じゃないデブだから。




なっ
憂さん、何でそんなひどいこと言うんですか?別に痩せようとか思ってません。進さんが亡くなってから私、生きる力失ったんです。

もう生きてく意味がないんです。



バカだな恵は。



だったらなんであの時、すぐに後を追わなかった?

これまでの間、何してたよ!


死ぬならあの時に死ねよ!



いまさら、ふざけんな!

言ってやろうか?
お前は進のせいにして生きていくことから逃げてるだけだ!人間関係うまくいかないのも、生きてて楽しくないのも、コンプレックスだらけの自分のこと嫌いなのも全部進の死にエスケープしてるだけだ!進の存在に依存してるだけだ!
お前は進が死んでも何も変わってねーな!
進が死んでも進に依存してるのか?
クソバカやろう!

良かったな!死ぬ言い訳が出来て!進もさぞかし役に立てて喜んでるだろうよ!


さあ、早く死ねよ!ここで見届けてやるからよ!その巨体を地面にぶちまけて通行人みんなに迷惑かけて死ね!


恵は泣き出した。


しかし、まあ、あれだな。
進もこんな女の為に死んでバカだな、恵なんて女の中でも最下層に属するクソみたいなもんなのによ。いくらでもましな女いるだろって話だよ。

まあ、あいつもクソみたいなもんだったからな。クソにはクソがお似合いか。はは


バチッ


ってー

恵は私にビンタした。

進さんのこと悪く言わないで!あんたなんか進さんのこと何もわかってないくせにっ

だいたい、ゆうさん、あんたのせいで私達は巻き込まれたんじゃない!あんたのせいで進さんは死んだのよ!あんたが死ねば良かった…うう…

進さん、進さんのこと大好きだった。大好きだったんだよお…なんで死んじゃったの、何で…進さん…

進さんを返して…


恵は、その場に泣き崩れた。





ほっぺたがジンジンするよ。バカ力だな。


そうだな…俺のせいで進にも恵にも迷惑かけたな…確かに俺の存在自体、迷惑撒き散らしてるよ。関わる人間どんどん不幸にしていってるかもしれない。


言い訳に聞こえるかもしれないが不幸になりうるきっかけを俺が作ってる感じなのかな。


進は自分で選んだんだよ。自分の感情を、溢れ出す感情を止められなかったんだ。俺にはわかった。

正直、俺は進が羨ましく思えたよ。
好きな人を思い死ねるなんて、最高にカッコ良くないか?

よく恋人同士の会話でお前の為なら死ねるとかっていうじゃん?

それをまんまやったわけだからね。



進は幸せだったか、死んで不幸だったのか、それは進にしかわからないことだ。

でもお前や、進のこと大事に思ってる人間には不幸以外の何物でもないよな。


ただ、それでお前が自殺するのは筋が違う。お前が死んだらうかばれるものもうかばれなくなっちまう。ましてやお前は…


俺はな、もう立ち止まるわけには行かないんだ。誰が悪い、誰に責任がある、そういったこと考えてたら先に進めなくなっちまうからもうあまり考えないことにした。人は誰でも存在するだけで周りに少なからず影響与えるものだ。俺はその影響力が大きいだけだ。



…進はお前の為に死んだんだ。進にとって、お前は大切な存在だったんだよ。
理屈抜きで守りたい存在だったんだよ。
それだけは確かだ。


あいつのこと忘れろとは言わないよ。むしろ、あいつの分まで生きろよ。背負って生きてけよ。お前が生きてることには意味があるんだよ。


俺のこと恨んでもいいよ。恨まれる理由はあるよな。お前になら殺されても文句言わないよ。



恵は泣きじゃくっている。


…死にたくなったらいいんさい。進のこともっともっと酷く言ってやるから!
いくらでも言うことあるし!はは!


恵は泣いたまま何も言わなかった。





そろそろ行くよ。
恵もずっとここいたら風邪引くぞ。体、大切にしろよ。
じゃあ。



私は、階段を降りて行った。




恵を見ていたら、自分と被った。
私も、自暴自棄になっていてもおかしくなかった。



私はふと先程の自分の言動を省みた。

…私のやってることって何だろう。
どさくさに紛れて八つ当たりしただけなのかな。過去の自分を照らし合わせて。

相手の弱い部分や本心がわかるから、言いたい放題だもんな。


更に私が言うべきことじゃないことまで言ってしまったかもしれない。



でも正直、かなりスカッとした。



なんて奴だ。俺。

俺ってこんな奴だったっけ…
多分、こんな奴だったんだ。
ただ、自分の意見や洞察、読みに自信がなくて、あまり強くものを言えなかっただけだ。


…恵みたいな状況のコにとって、傷口に塩を塗るような罵倒は必要なことだとも思う。しっかり消毒して、膿みを出してやる必要がある。

まあ、私には麻酔かけて抜き取ってやること(心圧を抜くこと)も可能なんだけど、恵にはあえてそれをしなかったのは、やはり私が性格が悪いからだ。

そして恵は多分…

膿は出してやった。そして私の気も晴れた。後のことは恵次第。


私は無責任な奴だ。でも恵は多分…





妊娠してる。


多分としかいいようがないが


恵の体から、微かに確かなレスが聞こえたんだ。

それは、そういうことだと思う。

ガチャ!




憂さん!
私、憂さんのこと許さないから!絶対許さない!キレイになって、幸せになって憂さんのこと絶対見返してやるんだから!

進さんのこと絶対忘れないよ!私、進さんの分まで生きてくよ!

恵は屋上から大声で叫んだ。




おう、言ってくれるじゃん!キレイになれよ!いい女になったら今日のこと土下座して謝ってやるよ!楽しみにしとくよ!


私は笑いながら階段を降りて行った。


続く