過去編
清華と出会うまで
現在編
人助け
けどそれは理由がある
別に人助けがしたいわけじゃない
思いって何だろう。
姿形のないもの。
けど、人々の心の中に確実に存在する何か
私達はいつの時代も世界をイメージし、その中で自由を求め、時にイメージに縛られ、時にイメージを逸脱し、
また新しいイメージを作り出す。
そして常にイメージの枠の中に居場所を求める
私達はイメージの中で生きている。
イメージの中でしか生きられない。
私は街を歩いていた。
人々の喧騒、人々のレス…
2ヶ月前の私とは比べ物にならないくらい、人々のレスが脈を打って鮮明に聞こえる
あの時、みんな似たようなこと考えてるなと思ったものだが、人は集まると、例え全く他人同士が居合わせただけだとしても、似た波長を描くようになるみたいだ。
それが居心地のいい人、居心地の悪い人といるみたいで、
似たもの同士が集まるっていうのは、そういった理由があるのだろうなと、レスを聴くことによって再認識した。
つまり一緒にいるだけで似てくるのだ。
私は、雑踏の中を歩く人々を見て
この五人はグループ。この二人は恋人同士。といった具合に何となくわかるようになっていた。さらにそのグループがまとまっているか、ただの寄せ集めなのかもわかる。
グループが出来ると、それに馴染めない人間も必ず出てくる。
明らかに馴染めてない人
馴染めてるフリをしている人
抜けようとしてる人
変えようとしてる人
様々だ。
今までとは確実に見方が違ってきた。
ん…?
…場にそぐわない…
一つの不安な悲壮なレスが飛び込んできた。
それは一人の男…
この男…
今から死のうとしてる
男は生気の欠片もない表情で
目の前のビルの中に入っていった。
どうやら
このビルの屋上から飛び降りて死ぬつもりのようだ。
ビルの屋上で男は意を決した。
フェンスをよじ登ろうとした瞬間
まあまあ、そんなに気合い入れないで。
私は声をかけた。
!
なんだ?あんたこのビルの関係者か?
いや、ただの通りすがりのものだけど、
やめときんさい。自殺なんて。
!何言って…
私の表情を見ると男は言い直した。
何でわかった?
あんたこのビル入ってく時の表情が尋常じゃなかったよ。
…いいんだ。ほっといてくれ。
俺は全てを失った。もう生きてく意味がない。ここで終わらせるんだ。
ひゅるっ
そう…まあ、俺はあんたのこと何も知らないし、知ったところで何か背負うつもりもない。
止めないよ。まだ死にたいのなら。
私は男の元を去った。
あれ…なんか頭の中がスッキリして…さっきまであれほど最悪な気分で、死ぬしかないと思ってたのに…
でもどうしよう…なんて取り返しのつかないことをしてしまったんだ…
とりあえず帰るか…
男はビルを降りて行った。
ふん、
勢いなんて所詮脳内分泌物が作り出した一過性のもの。新鮮な血液で洗い流せばリセットされるもの。
そんなまやかしの勢いなんかで死ぬことは許さない。
死ぬなら冷静に死ね。
今の男、どうやら転送者により貯蓄を散財させられ、さらに会社の金にまで手を出したようだ。
確かに情けなさすぎて死にたくなるな。でも、それは人生で最悪の状況とまではいかない。男が変われば、人生やり直せる可能性は十分にあると思う。
頑張って欲しいとも思わないし、死んで欲しいとも思わない。
死ぬ気でやれば何でも出来るとも思わない。
ただ、死ぬなら私のレスポンスの届かないところでしてくれ。そう思っただけだった。
私は、また街を歩いていた。
すると、また自殺願望のレスが聞こえた。
自殺志願者に1日で二人も出くわすとは…
レスの元を辿ると、ある一人の女の子だった。
私はずっと、優しさって何だろうと考えてきた。優しさとは見返りを求めないもの。それは間違いない。しかし甘さと優しさは微妙に違うし、エゴと優しさも微妙に違う。
甘さはその場しのぎ的、そして共依存的だ。
エゴは相手に変化を強いる。
優しいって言葉
にんべんに憂うと書く
人は憂う人の隣にいることだけしか出来ない。
もちろん何か直接、力になれることもあるだろう。
しかし、他人が解決してあげられるものは一時的なものばかりだ。
結局、憂いの元を解決するには、その人が自分で立ち上がるしかない。
私の能力、
人に優しくするために生まれた能力なのかもしれない。
私は清華に対抗する為、この力を清華に勝つ為に使っていた。
それしか考えて来なかったが…
この能力、人助けをするために使えば実に役立つ。
まず悩みを持った人がわかるし、その原因も分かる。それだけで心理カウンセラーのようなことが出来る。
さらに衝動的に自暴自棄になっている人の心圧を抜き取ってあげれば、冷静さを取り戻してあげられる。
ちなみに清華に操られた人達の心圧を抜いた時、気を失ったのは圧のふれ幅が大き過ぎたため。
血圧が急に下がったら立ち眩みするようなもの。普通の人が起こす心圧のふれ幅なんてしれてる。
こんな能力を持ってしまった私ではあるが、人助けをしたいわけじゃない。困っている人を見てみぬ振りすることくらい、出来る。
勝手にすればいい。人は人。余計な干渉はいらない。
じゃあ、何で私は、この女の子の後をついて行ってるのか…
恵…こんなところで何やってんの。
そう、その女の子は恵だった。
憂さん…何でここに?
今、恵と話している場所は
さっきの男が自殺しようとしたビルの屋上だった。
このビル、自殺願望者を呼び寄せる何かがあるのだろうか。
…いや、ここらへんぶらぶらしてたら恵見つけてさ、なんか思いつめた顔してたから声かけようと思って。
てか痩せたね、恵…見違えたよ。
あれから…ご飯全然食べてなくて。
そっかあ、
いいことじゃん。恵、今まで食べ過ぎてたから。むしろまだまだ食べない方がいいね。後3ヶ月くらい。恵まだまだ尋常じゃないデブだから。
なっ
憂さん、何でそんなひどいこと言うんですか?別に痩せようとか思ってません。進さんが亡くなってから私、生きる力失ったんです。
もう生きてく意味がないんです。
バカだな恵は。
だったらなんであの時、すぐに後を追わなかった?
これまでの間、何してたよ!
死ぬならあの時に死ねよ!
いまさら、ふざけんな!
言ってやろうか?
お前は進のせいにして生きていくことから逃げてるだけだ!人間関係うまくいかないのも、生きてて楽しくないのも、コンプレックスだらけの自分のこと嫌いなのも全部進の死にエスケープしてるだけだ!進の存在に依存してるだけだ!
お前は進が死んでも何も変わってねーな!
進が死んでも進に依存してるのか?
クソバカやろう!
良かったな!死ぬ言い訳が出来て!進もさぞかし役に立てて喜んでるだろうよ!
さあ、早く死ねよ!ここで見届けてやるからよ!その巨体を地面にぶちまけて通行人みんなに迷惑かけて死ね!
恵は泣き出した。
しかし、まあ、あれだな。
進もこんな女の為に死んでバカだな、恵なんて女の中でも最下層に属するクソみたいなもんなのによ。いくらでもましな女いるだろって話だよ。
まあ、あいつもクソみたいなもんだったからな。クソにはクソがお似合いか。はは
バチッ
ってー
恵は私にビンタした。
進さんのこと悪く言わないで!あんたなんか進さんのこと何もわかってないくせにっ
だいたい、ゆうさん、あんたのせいで私達は巻き込まれたんじゃない!あんたのせいで進さんは死んだのよ!あんたが死ねば良かった…うう…
進さん、進さんのこと大好きだった。大好きだったんだよお…なんで死んじゃったの、何で…進さん…
進さんを返して…
恵は、その場に泣き崩れた。
ほっぺたがジンジンするよ。バカ力だな。
そうだな…俺のせいで進にも恵にも迷惑かけたな…確かに俺の存在自体、迷惑撒き散らしてるよ。関わる人間どんどん不幸にしていってるかもしれない。
言い訳に聞こえるかもしれないが不幸になりうるきっかけを俺が作ってる感じなのかな。
進は自分で選んだんだよ。自分の感情を、溢れ出す感情を止められなかったんだ。俺にはわかった。
正直、俺は進が羨ましく思えたよ。
好きな人を思い死ねるなんて、最高にカッコ良くないか?
よく恋人同士の会話でお前の為なら死ねるとかっていうじゃん?
それをまんまやったわけだからね。
進は幸せだったか、死んで不幸だったのか、それは進にしかわからないことだ。
でもお前や、進のこと大事に思ってる人間には不幸以外の何物でもないよな。
ただ、それでお前が自殺するのは筋が違う。お前が死んだらうかばれるものもうかばれなくなっちまう。ましてやお前は…
俺はな、もう立ち止まるわけには行かないんだ。誰が悪い、誰に責任がある、そういったこと考えてたら先に進めなくなっちまうからもうあまり考えないことにした。人は誰でも存在するだけで周りに少なからず影響与えるものだ。俺はその影響力が大きいだけだ。
…進はお前の為に死んだんだ。進にとって、お前は大切な存在だったんだよ。
理屈抜きで守りたい存在だったんだよ。
それだけは確かだ。
あいつのこと忘れろとは言わないよ。むしろ、あいつの分まで生きろよ。背負って生きてけよ。お前が生きてることには意味があるんだよ。
俺のこと恨んでもいいよ。恨まれる理由はあるよな。お前になら殺されても文句言わないよ。
恵は泣きじゃくっている。
…死にたくなったらいいんさい。進のこともっともっと酷く言ってやるから!
いくらでも言うことあるし!はは!
恵は泣いたまま何も言わなかった。
そろそろ行くよ。
恵もずっとここいたら風邪引くぞ。体、大切にしろよ。
じゃあ。
私は、階段を降りて行った。
恵を見ていたら、自分と被った。
私も、自暴自棄になっていてもおかしくなかった。
私はふと先程の自分の言動を省みた。
…私のやってることって何だろう。
どさくさに紛れて八つ当たりしただけなのかな。過去の自分を照らし合わせて。
相手の弱い部分や本心がわかるから、言いたい放題だもんな。
更に私が言うべきことじゃないことまで言ってしまったかもしれない。
でも正直、かなりスカッとした。
…
なんて奴だ。俺。
俺ってこんな奴だったっけ…
多分、こんな奴だったんだ。
ただ、自分の意見や洞察、読みに自信がなくて、あまり強くものを言えなかっただけだ。
…恵みたいな状況のコにとって、傷口に塩を塗るような罵倒は必要なことだとも思う。しっかり消毒して、膿みを出してやる必要がある。
まあ、私には麻酔かけて抜き取ってやること(心圧を抜くこと)も可能なんだけど、恵にはあえてそれをしなかったのは、やはり私が性格が悪いからだ。
そして恵は多分…
膿は出してやった。そして私の気も晴れた。後のことは恵次第。
私は無責任な奴だ。でも恵は多分…
妊娠してる。
多分としかいいようがないが
恵の体から、微かに確かなレスが聞こえたんだ。
それは、そういうことだと思う。
ガチャ!
憂さん!
私、憂さんのこと許さないから!絶対許さない!キレイになって、幸せになって憂さんのこと絶対見返してやるんだから!
進さんのこと絶対忘れないよ!私、進さんの分まで生きてくよ!
恵は屋上から大声で叫んだ。
おう、言ってくれるじゃん!キレイになれよ!いい女になったら今日のこと土下座して謝ってやるよ!楽しみにしとくよ!
私は笑いながら階段を降りて行った。
続く