ミステリーというジャンルを読まない。
たぶんあれは謎解きや犯罪心理のスリルを味わうためにあるものだと思うが、その愉しみのために架空とはいえ殺人や傷害という設定を作り出すことがどうも受け入れられないからだ。
多くの作品を作る中でのひとつ・・・という位置づけなら百歩譲れるが、そのジャンルに特化して書き続ける人の方が圧倒的に多いので、やっぱり理解しがたい。

同じように、何かを肯定するために何かを否定するという方式で物を語る態度にも疑問だ。
何かを上げるために、他のものを下げる…たとえば、「Aはすばらしい、Bと違って」という言い方。
そうやって恣意的に高めて作り上げられた「美しいドラマ」には非常に興ざめする。
アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)/角川書店


¥596
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これは「夢と予感(予兆)に導かれ、まだ見ぬ地へ宝物を探しに行く少年の話」を軸に、世界や時間、人間の人生を含めた森羅万象のあり方についての哲学が語られる本。おそらくイスラム教の教えをベースにした概念と理解した。本文中には人生の格言となりそうな魅力的なフレーズが満載なのだが、終始ブレずに、一貫するイスラム教思想の流れの中にどれも登場するため、安易な抜粋では本質を掴みきれない。短くベタにまとめるなら「宝物を探す過程」こそが遥かに彼にとっての宝物だった、という結末。 

この本は「星の王子さま」と並列な印象に置かれる(らしい)。たしかにどちらも本文中にいかにも魅力的で、部分的に抜粋したいと思う人生の格言めいたフレーズが満載だからだろう。しかしながら、本質は全く異なる。 
星の王子さまの「格言」が出てくる文脈、背景はホントしょーもないもので、「いいことば」を一つ言うためにいくつもの不愉快な設定を言う。何かの価値を高めるために、その周囲のものをこき下ろす…というやり方なのだ。そしてそんな文脈を忘れて、いいことばだけが抜き出されて一人歩きしていく。 

これはイスラムの世界観、人生観に基づいた物語なのだと思った。 
読み続けるうちに、自分の持っている価値観や概念、森羅万象の位置づけはひとつのパラダイムに由来するものにすぎないと気付かされた。イスラムもまたひとつのパラダイム。どっちが正解というわけではない。この世もまたパラレルなものだ。 

アルケミストとは錬金術師という意味。 
ものごとにはすべてそれぞれの運命があり、何かが進化するときにまわりの全てのものが進化する。大いなる者の力を感じ、身を委ねながら森羅万象の運命、自分の運命を理解すること。それをするものが錬金術師だとまとめられる。貴金属としての金を手に入れることしか興味を持たない者には、この世にかくされた大いなる秘密はわからないまま、錬金術の真意がわからないまま。 
そこでは「自分の運命は自分で切り開く」という言葉は少し異質に感じる。この本において、人生において努めるということは、宇宙と自分の心に身を委ねて自らの中に小宇宙を見出すという自助努力なのだ。主人公はまずは自分の見た「夢」から出発し、この境地に至る旅に出た。 

決して主人公は「世界を感じられる選ばれし者」ではない。誰しもがそういう志でいるならば錬金術師になれる可能性を物語は説いているし、主人公にも選民意識はない。 
ただただ自分の心の声を聞くことにひたむきに、世界に謙虚にひざまづく姿が印象的だった。 
そういった思想の文脈を押さえないままに、この物語に登場する魅力的なフレーズを私のパラダイムに寄せて格言として取り上げるのは控えるべきだろうと思う。 
物語に登場する錬金術師になりたいイギリス人の言動も、異質なものだった。 
良し悪しではなく、この人もまた違うパラダイムに生きている。 

この本を読んで思い出したのは、ノーベル平和賞を受賞したパキスタンの少女マララに宛ててパキスタン・タリバン幹部ラシードが送ったとされる手紙だった。そこでは、「タリバンがなぜマララを攻撃したのか?」についての一見解が示される。 

"あなたは教師とペンと本さえあれば世界を変えられると言った。私もそれには同意する。しかしどのような教師、どのようなペン、どのような本なのだ? 預言者ムハンマドによって私は教師として世に送られ、教科書にコーランが送られた。崇高で敬虔な教師の預言的なカリキュラムが世界を変えられるのであって、悪魔的なものや不信心者のカリキュラムではないのだ。 
あなたは、ジャーナリストが「なぜタリバーンはこの教育を恐れるのですか」と生徒に訊かれ、「本に何が書いてあるかを知らないからだ」と答えた例を挙げた。あなたと全世界に対して、なぜ彼らがアッラーの本を恐れるのかと言えばそれが何かを彼らは知らないからだ、と言っておく。 

タリバーンはアッラーの本に書いてあることを求め、国連は人間が作った本に書いてあることを求める。我々はコーランによって全世界の人々をその創造主と結びつけ、国連は僅かな悪の創造主のために全世界を奴隷にする。 

あなたは不公平な国際機関のステージで正義と平等を求めた。あそこはたった5つの不正な国が拒否権を持ち、残りの国々は非力なのだ。周りの国がどんなにイスラエルに反対しようとも、1つの拒否権で正義の喉元を脅かすのだ。 
あなたが世界に向けて語りかけている場所、そこは新世界秩序を目指すものだ。しかし旧世界秩序のなにが間違っているというのだ?彼らはグローバルな教育、グローバルな経済、グローバルな軍隊、グローバルな貿易、グローバルな政府、そしてついにはグローバルな宗教まで作り上げようとしている。私が知りたいのはそこに預言的な導きの入り込む余地はあるのかということだ。国連が非人道的や残虐だと言ったイスラームの戒律、イスラームの法の入り込む場所があるのだろうか?" 

グローバリゼーションが絶対唯一の世界の正義ではなく、これも欧米という一大勢力が生み出したひとつの正義の形にすぎない。イスラムにはイスラムの世界の捉え方があり、自らのパラダイムを不当に浸食されている…そういった危機感と怒りというものがあるのだろう。だからといって暴力が正当化されるわけではないが。 
手紙の出典元: 
http://tyoscenery.exblog.jp/20345239/

2014年11月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:1251ページ
ナイス数:4ナイス

トップスケーターの流儀 中野友加里が聞く9人のリアルストーリートップスケーターの流儀 中野友加里が聞く9人のリアルストーリー
読了日:11月30日 著者:中野友加里


星の王子さま (新潮文庫)星の王子さま (新潮文庫)感想
なんて傲慢な物語。心底不愉快な気持ちになった。"大切なものは目に見えない"が素敵な言葉として独り歩きしているだけの本だ。なぜ王子様にとってビジネスマンがだめで点灯夫はよいのか?彼らが自分の仕事に忠実な点では何も変わらないというのに。「計算」に興味がなくて「街灯を点ける」に個人的な感慨を感じているだけの仕分けであり、これこそ彼が「忌み嫌う」"偏見と先入観にしばられた""何も分かってない""大人"そのものなのではないだろうか?一輪のバラを特別扱いするためにその他のバラ達を傷つける言葉をかけたことが許せない。
読了日:11月29日 著者:サン=テグジュペリ


ふつうに学校にいくふつうの日 (世界の絵本コレクション)ふつうに学校にいくふつうの日 (世界の絵本コレクション)感想
ちょっとあざとい内容の絵本。
作中で言うならばこの作者も自分も「先生がよろこぶと思ったお話をかく子」のタイプ。ふつうの日のおわりにふつうの男の子が先生に話しかけるシーンにとくに如実に出ている。
ふつうに学校にいくふつうの日…という、冒頭の書き出しの日本語訳が何よりもキャッチーで成功していると思う。
読了日:11月23日 著者:コリンマクノートン


自殺されちゃった僕自殺されちゃった僕感想
この本の主役は巻末の春日武彦による解説文だと思う。この数ページの前には200ページに渡る「本文」も壮大な前フリだ。そこでは死は最強のカードで多くの人をうろたえさせるが故に魅力的であるが所詮生理現象の一環であって汗や口臭や垢や便の仲間だと、ことごとく死に対する妙な幻想を一刀両断する。筆者が崇める死人たちにも一切の理解も同情も示さず、筆者のこの慟哭の一冊すら作品として「ぬるい」と言い放つ。過激だが、この本を出版しどう読まれるかというリスクを考え、これは病的な洗脳なのだと職業的理性から喚起したのだろう。
読了日:11月23日 著者:吉永嘉明


そせじ(1)そせじ(1)感想
鬼畜系漫画家の作者が双子の娘の父になり、幼児ならではの支離滅裂さ、エイリアンぷりに大いに翻弄されてる様が描かれた作品。またそのままならなさを心から楽しんでいるのが伝わる。エイリアンな大人は病的だけどエイリアンな子供は健康的…作者もおそらく違和感なく書けて、印象ががらりと変わる感じ。ちなみにはじめは全セリフが手書き文字、次に写植文字と試行錯誤していたようだが、最終的に双子のセリフだけが手書き文字のかたちに落ち着く。これがすごく良いバランスだと思う。
読了日:11月20日 著者:山野一


のはなしさんのはなしさん
読了日:11月19日 著者:伊集院光




ねこぢるの本に出会ったのが自分が14歳、ねこぢるの死は15歳の時。作品に潜む大きな闇は受け止めきれず、持て余すものだった。 気づけば自分もねこぢるが自分の意思で死んだ年齢になり、いちばん素顔が出ているこの本を読んでみた。インドでの過ごし方、出会った物や人への接し方、感じ方などに接して、この世界にどのような重みをもって存在していた人なのかを少しは感じることができたと思う。
読了日:11月19日 著者:ねこぢる


ふゆののはらで―かれくさつみ (かがくのとも特製版)ふゆののはらで―かれくさつみ (かがくのとも特製版)感想
エノコログサ、ヒメジョオンなど、冬になって枯れた草花を「はやくいってつんでこようよ なつのひのわすれものを」とクローズアップする。 かれくさの美しさは「しもがおりたらこわれてしまう」「きたかぜがふいたらとばされてしまう」繊細さ。
集めたかれくさを花束にしよう、という言葉で絵本は終わる。なんといういじらしい細やかな感性だろう。
読了日:11月13日 著者:あきやまじゅんこ


死神さんとアヒルさん死神さんとアヒルさん感想
"死神だということを考えなければ、死神さんはむしろとても感じのよい人でした"という一文にしびれた。そうかもしれないと直感的に何かわかる。優しくて暖かい世界から、急に大きな暗い穴にすとんと落ちて終わり、それが死。この本の流れもまさにそういう感じ。
読了日:11月8日 著者:ヴォルフエァルブルッフ

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