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atamanonaka

頭の中

光るUSBポートを見て、円形の座布団を正しく敷き直し、パソコンの前に座る。
片足をたてたり、あぐらをかいたり、腰痛の原因はわかっている。
赤チェックのフリース素材の膝掛け、まるでOLのようだ。
数時間ぶりに起動したデスクトップには犬の写真を貼っている。
知らない見た事もない犬の写真は、ネット上で拾ったものだ。
ページをひらいていると、もちろん見えないが、ネット上での感情などはこの写真を使ってリセットすることになっている。
誰かの悪口で戻しそうなとき、自慰をしたあとの虚しさ、世界の貧困にたいする哀れみ、全ての感情はパソコンのシステム終了と同時に、ゼロ、ということにしたいと思っている。
長時間、パソコンにむかっている上で欠かせないものはハンドクリーム、少し高価なもの。
視覚・聴覚のみの単調な作業はやられるのだ、体も、心も。
アルミ製でできたゴールドのキャップ、薄いピンクで精液のような肌触りのジェル、roseと筆記体で書いてある、キャバクラでバイトする女子大学生のようなハンドクリームだ。
キャバクラ本職の方は尊敬している、ハンドクリームでいうところの研究を重ね続けチャレンジし続ける病院処方のものに値すると思っている。
グーグルクロームを開いて、ブックマークの一覧を眺める。
どのサイトにアクセスしようかなんて考えることもない、時間はあるのだ。
1、上から順にマウスをクリックしていくこと。
その間をぬってitunesを開く、今日の寝起きのテンションからいって選曲はかなり難しいものになるだろう。
すべてのアルバムジャケットを見ながら、どの曲がいいか考えてる間にも、タブをどんどん増やしてページを読み込ませておく。
特に動画は待つのが嫌だから、再生ボタンまで丁寧に押しておく。
メイコさんからの返信はピピッという一回の着信音でわかった。
「ご飯いかない?」
俊敏に携帯電話を握りしめたがケバブみたいに重なったCD-Rの上にそのまま置いた。
今は出かける気分じゃなかった。
一刻も早くBGMを決めて、雪のなかで泣きたかった。
雨が降っている、外は。
きっとそうだと思って布団にくるまったまま、私は息をはいた。
私のいきが頭までかぶった毛布の壁のなかで漂い、柔らかな空間をつくる。
足の指先から全身にしみ込んでいく冷気を、下品な足技で布一枚巻き込んで防いでいる。
真っ暗闇の中で光る携帯電話の画面にしかめっ面をむけ、右上の設定タブに触れた。
タッチの反応が悪いときは、指に湿度がないときなんだよ、とメイコさんに言われたのを思い出した。
照度を下げてピアニストのような気分で液晶を叩く。
一瞬の間をおいて、また携帯壊れるかなとつぶやいてみる。
目的もなく毎日を過ごすことは辛い。
辛い辛いと毎日思ってちゃ駄目だとわかってるから、なおさら現状を打破できずにいることの悲痛さが増して、ますます体を縮こませることになってしまう。
「re: なにしてる?」
メイコさんからのメールの返信をしてなかったんだと、受信ボックスをみて確認した。
返信するのは二日遅れになってしまった。
それでもメイコさんは私に連絡をしてくれる数少ない友人だ。
出会いは七年前、当時のアルバイト先のお店に、私よりもあとに入社してきた。
たまに私の所属する店舗にヘルプに来てくれるようになって、同級生だったし、仲良くなった。
昔から寛容で、私みたいな子に構ってくれる人助けのプロなんじゃないかと思う。
七年間のメイコさんの人助け率はすごい、聞いてる私が疲れてくるほど。
メイコさんには丁寧にお返事をかかせてもらう。
「ただいま、寂しがりやの酔っぱらいです」と。
たぶん、本日の活動はこれで終了、私の1日は終了。
重たい脂肪だらけの肉体を嫌々叩き起こし、窓をあけてみる。
磨りガラスの外は雪。
雪だった、外は。


むきあっている時間、
ほんの数秒のなか。

二度ほど視線を交わした。

これで全部だった。

流れていく人の波にそっとはいた息。
一瞬で見つけた。

思ってたより難なくできた。

これで終わり。
これで終わり。

この達成感のために頑張った数ヶ月が愛しい。

水のように切っても切っても断面の絵は見えない。

何も求めてなかったから、
これで終わり。
さりげない視線のやり方に気を使おうと、わたしはゲームをしているかのような軽い感覚で思ってみた。

まず、目をそらさない。

あからさまに笑ってない顔で目をそらしたら嫌な気分になるだろう。

そりゃそーなんだけど、誰でもだけど。

失敗してもいい相手で試すわけだし。

眼力はすこしつよいかもしれない。

弱々しい目でみよう。

さあ実戦、フル装備はできている。

通路側に体を向け、足を揃えて仁王立ち、ではなく、少し膝を曲げて女子らしくみえるように。

さぁこい、彼。
いつも通路ですれ違ってた。

彼の名前も彼の所属も知らない。

ただオシャレな人だなと思って見てた。

ここはファッションビルだし、たくさんのテナントが入ってるし、そんな珍しくもない毎日みる光景だった。

わたしは素敵な人をみると変に顔がこわばったり、空回りするような性格で第一印象は最悪だ。

今日もすれ違ったのに、あからさまに避けてしまった。

むこうは、わたしが避けていることさえ知らないだろうし気にするほどのことでもないのに。

ほらまたからまわってる。

ため息まじりに喫煙所の前まで小走りした。

寒い、地下の休憩室は空調がおかしいのだ。

指と指の間にハンドクリームを執拗に塗りつけながら彼を考えた。

どこの店のどの役職のどこに住んでてどこにむかうのか。

まるで恋人探しをしているかのような気分だ。