小さい頃の記憶があまりない。
もっと言うと、最後にお客さんが来た事を覚えていない。ただ忘れっぽいだけなのか、一度も来たことがないのか正直わからない。それに、そんな事考えて必死に思い出そうとしても、気づくといつも決まってどうでもよくなっているのである。
何年も何年もこの店で働いてきた。正直毎日毎日が同じ日々でしかなく、これからの人生を考えると正直うんざりしていた。
カウンター前の椅子に腰掛けながら、窓の外に目をやる。そこから見る景色は、人間が呼吸し、朝日が昇りやがて日が沈み、月が夜道を照らすように、ごくごく普通のいつもの光景である。
そう、いつもの。
「ん?いつもの?」
ふと何かに気づく。道路向かいの喫茶店には、お昼ということもあり、ちらほら客がいる。窓際に座っている黄色いTシャツをきた客。そして、その奥にいるパソコンをひたすら叩くおじさん。他の2.3人もいつも見るお客さん。
そして、常にカウンター前をひたすら歩き回る店員。それは、毎日毎日見る景色。
「ただの常連さんか。別におかしいことはない。」
店の外に目をやる。道路に車は走ってない。喫茶店の左に目をやる。ビルの日陰でいつも井戸端会議をしているおばちゃん達。
「あの人たち、毎日あそこで話してるな。
おばちゃんって話題が尽きないな、すげー」
そこに、我が昆虫ショップの前をいわゆる最近の若者が通る。うちの店に見向きもせず。
やはり、いつもの光景。
決しておかしいことはない日常の風景であ、、、。脳に生まれて初めて雷が落ちた。
「おかしい。やっぱりおかしい。今のにいちゃん、さっきも、、、」
気づいてしまったのである。目の前で不思議な事が起こっている事を。
この時はまだ、暇つぶし程度に探偵ごっこをしているだけだった。