歴史の迷宮に踏み込んで 歴史の謎を読み解く視点 (2)
文字を持つ文化と無文字の文化
前回はゲルマン民族の大移動について述べたが、大移動という「事件」はゲルマン民族自身によって記録されたことではない。文字を持っていた侵入を受けた側のローマ人の記録である。その中では、ゲルマン民族は「野蛮な」民族として描かれているのだが、もしゲルマン人が記録を残していたらどんな記録を残したであろうか。気候変動が原因かもしれないしそうでないかもしれないが、何らかの理由で生活の場を求めて南下しただけと言うかもしれない。実際、戦闘部隊の移動だったわけではなく、女性や子供を含む民族の移動だったわけだから、最初から戦うつもりがあったわけではないだろう。もちろん侵入を受ける側からは迷惑千万に思われただろうし、キリスト教も知らない田舎者という捉え方で見られただろうが。フン族の扱われ方も然りであろう。そして同様のことはどの国のどの時代にも起こりうることで、日本にも多々あったはずだ。
日本ではいつの時代から文字が使われるようになったのだろうか。残されている最古の記録は『古事記712年』、『日本書紀720』などとされている。しかし、日本で読み書きが行われていたのは『古事記』の時代をかなり遡るであろう。聖徳太子の時代に「冠位十二階603」、「十七条の憲法604」が書かれたという記録があり、また聖徳太子が遣隋使に託した書は隋の煬(よう)帝(てい)を怒らせるという「事件」になった。一般の民衆がどうだったのかは分からないが、読み書きできる階層の人々が存在していたことは間違いない。さらに遡ること卑弥呼の時代、彼女が魏に使者を送り、「親魏倭王」の金印(これは現在まで見つかっていない)と詔書を受け取っている(239「魏志倭人伝」)。字の読めない相手に詔書や金印を与えるのは無意味であろうし、受け取る側も読めなければ必死に読もうと努力するであろう。金印と言えばもっと古いのがあるが、それが北九州の志賀島で発掘された「漢委奴国王」印。漢の武帝から57年に授かったものとされている。卑弥呼の時代は弥生時代ということになるが、すでにこの時代そしてそれ以前の時代に文字の読み書きができる人々がいた。稲作を持って大陸から渡来した人々がいたわけだから、この人たちが後世に何も残していないとしても、弥生時代は文字社会であったと推測してよい。
そうは言っても倭人伝で記された場所、倭には文字としての記録は残っていない。文字を残している中国や朝鮮半島の記録を手掛かりにする他ない。文字を持たないことであまり正当ではない扱いを受けたとしても、ということになる。倭人伝、卑弥呼に使用された文字などもそれを端的に物語っている。倭人が話す音を漢字に当てはめたわけだが、「倭」は小人、あるいは身を低くして卑屈な様子、「卑」はいやしいことを表すなど、とても光栄に思える字をあててくれてはない。もともと、中国を中心にした中華思想では、倭に限らず北狄(ほくてき)、西戎(せいじゅう)、南蛮(なんばん)、東夷(とうい)と呼ばれていた周辺の国々はまともには扱われていなかったので、当然のことかもしれない。
ところで、文字を持っていたとしても正当ではない扱いを受けた人たちもたくさんいる。一例として蘇我氏を挙げよう。蘇我氏の絶頂の時期は蘇我馬子の時代であろう。聖徳太子とともに『国記』、『天皇記』を編集したとされているが、これらは大化の改新645の最中に焼失したと言われている。もし焼失しないで残っていれば日本最古の歴史書として貴重なことも書かれていたはずだ。蘇我氏の「実像」はもとより、古代の日本の姿がもっと立体的に掴めたかもしれない。一時代を築いた豪族ではあるが、蘇我氏は『古事記』や『日本書紀』にはほとんど登場しない①。『古事記』、『日本書紀』が大化の改新で蘇我氏と争った中臣氏(藤原氏)一族の主導で著わされたもの② と言われているので、政敵に対する対応としては無理からぬことかもしれない。もちろん『国記』や『天皇記』の中に中臣氏や中大兄皇子(後の天智天皇)にとって都合の悪いことが書かれていた可能性もある。
文字に残されたものはそれだけで強いインパクトを持つ。そして、文字を持つ人々が文字を持たない人々を不当に扱うだろうというこ
も容易に想像できる。文字を残さなかった人々の声なき声に耳を傾ける視点を持つというのが、もう一つの私の歴史に臨むにあたっての
態度である。
①森浩一『記紀の考古学』 著者は考古学者であるが考古学の研究から見えてくる遺跡や出土品を手掛かりにして、様々な古代の書物に書かれた「真実」を解明しようとしている。大変に刺激的で説得力のある著作を世に出している。
②梅原猛 『神々の流竄(るざん)』 哲学者。大胆な推理を駆 使したエネルギッシュな著作。大胆過ぎて少し危うさもある。
1.菌の一般的なイメージ
菌の代表は黴(かび)と茸(きのこ)だ。
黴という漢字は、小さいという意味の「微」の中に「黒」を入れてつくられている。
カビは小さくて、多くは黒っぽく見えるからだろう。
菌は元々はキノコを意味していたらしい。
菌糸が太く長く大きく育った種類のものがキノコだ。
黴菌(ばいきん)という言葉があるが、カビとキノコを合わせた中国音だそうだ。
バイキンというと現在はもっぱら、病原菌と同様に有害なものというイメージで使われているし、また実際に有毒・有害な菌が多数存在するのでもっぱら有難くない呼び方で使われてしまったようだ。
ところで、素人には分かりにくいが「菌」と呼ばれていても実は細菌(バクテリア)の仲間もあるようでややこしい。
菌と細菌の違いは、菌は植物ではないが植物的で動かず、植物の根のように菌糸を伸ばし栄養を摂りいれ、胞子で子孫を増やす。
細菌は動物的で動き回り、細胞分裂で仲間を増やす。
分類すると黴、キノコ、酵母菌は菌類だが、納豆菌、乳酸菌、結核菌、赤痢菌、大腸菌、などは細菌。
マメ科の植物がチッソを同化するときに協力している根粒菌も実はバクテリアの仲間だ。
だから、根粒バクテリアと表記している本もある。
納豆バクテリアとか聞くと納豆好きの私も尻込みしそうだが。
問題です:今はやりのビフィズス菌は菌でしょうか?それとも細菌でしょうか?
今後の問題としては、細菌やその他の土中生物にも目を向けなければいけないのだが、今回は菌の話にとどまろう。
2.菌と農業
今回の話題の中心になる菌は黴やキノコとは少し違い、土の中で植物の根と協力関係を作る菌だ。
植物の根と菌が共生関係にある状態は「菌(きん)根(こん)」と呼ばれ、菌根を作る菌は「菌(きん)根(こん)菌(きん)」と呼ばれる。
植物と菌類の関わりについての研究は1990年代ぐらいまではあまり盛んに行なわれていなかったようだが、最近になってかなり研究が進んできたように思われる。
しかし出版された本のタイトルから見る限り、その研究の方向は「森林と菌」がほとんどで、農業との関係ではあまり進んでこなかったように見受けられる。
「林の中にはハンペンがあるんですよ」、自然農法で活躍する「おーけー農園」を訪ねたときに、発せられた興味深い言葉だ。
畑にも「ハンペン」ができないか試しているとのことで、枯葉を集めて菌を培養している容器を見せてもらった。
後日、「うちの畑でもハンペンができましたよ」、との報告があった。
菌の種類によっても異なるが、1cm3の土の中に何と37mとか、1gの土に50mもの菌糸が張り巡らされているのだそうだ。
「菌根菌」から伸びた菌糸の大きな塊がオーケーさんの言う「ハンペン」の正体だ。
農業と菌の関係があまり進まなかった背景には、農業という人間の営みそのものに原因があると推察される。
畑の中に菌の塊ができる農業というのは考えにくい。
一般の農業は勤勉にも頻繁に土をかき混ぜる。
土を耕して堆肥や肥料を入れる、種を撒く。
収穫するなどでまた土を掘り起こす。
次の作物の植え付けのために土を整備するなどで、また土をかき混ぜる。
菌根の形成を妨げる活動だ。
その他にも、肥料を与えることで菌に生態上の影響がでるだろうし、農薬を撒くなどすれば生存を脅かされる。
菌根の働きは農業という人為的な活動から影響を受けやすい。
研究しようにも、データを得ようにも極めて困難をともなう。
畑で「ハンペン」できるのは、オーケーさんがいかに自然と自然のままに付き合う農業を行っているかの証しだろう。
菌根の研究者は、おーけー農園をはじめとする自然農法の畑に出かけ、農業と菌根菌について調査して欲しいものだ。
それでは、菌根菌は植物の生育にどのような影響をもつのだろうか。
答:ビフィズス菌は細菌です
3.菌の役割
(1)分解者としての菌類
よく知られているように、生物の世界は生産者、消費者、分解者に分類される。
生産者は植物。葉緑体を持ち、地中の水と空気中の二酸化炭素(無機物)を原料にして、太陽エネルギーの力を借りて光合成をする。
そのときにデンプンなどの炭水化物(有機物)が生産される。
有機物は炭素の長いチェーン、(-C-C-C-・・・・・・-C-C-・・・)を持つ。
これが、地球上に生きるすべての生物の栄養になる。
これに対して、消費者は植物が作る有機物を栄養として食べる草食動物、さらにそれらを食べる肉食動物に分けられる。
有機物は植物から動物の体内に移動することになる。
分解者は、生産者や消費者が枯れたり死んだりしたもの、またそれらが出す老廃物や排泄物など(有機物)を分解し、最終的に水と二酸化炭素(無機物)にして自然界に返す役割を持っている。
分解者には、ミミズやだんご虫、ヤスデ、ダニなどの小動物、細菌、菌などが属している。
細菌や菌は、この分解者のグループの最終的な位置にいて、分解の最終の仕上げをする。
前にあげた納豆菌、乳酸菌、結核菌、赤痢菌、大腸菌などの細菌類、黴やキノコ、酵母菌などの菌類がそれに当たる。
つまり、これらの細菌や菌は有機物が持つ炭素の長いチェーン(-C-C-C-・・・・・・-C-C-・・・)を炭素1個の二酸化炭素CO2にまで切っていき、それらを再び植物が光合成に利用することになる。
(2)菌根菌の主な役割
そして、菌類の中でも菌根菌は植物の成長との関係でとても重要な役割を担っている。
菌根菌は植物の根と協同作業をする。
菌根菌が根の細胞に付く。
根に付いた菌根菌の菌糸は植物の根から有機物を提供してもらう。
それで終われば単に寄生しているだけだが、菌根菌は植物に様々なお返しをする。
①炭素循環における役割
すでに触れたように、菌類などが空気中に二酸化炭素を放出させることで植物の光合成を可能にしているわけだが、土中にも水に溶ける炭酸水素イオンHCO3―や
炭酸イオンCO32―つくることで炭素分を根からも吸収できるようにする。
ある研究者は、菌根菌が根に付いた植物は菌根菌が根に付いていない植物と比べると、光合成が促進されることを報告している。
このため、植物の地上部における成長も際立ってくる。
茎の中の維管束が大きくなり、葉脈の直径が倍近くまでになり、葉の厚さが1.5倍以上になるまで成長することなどが観察されている。
②窒素循環における役割
植物の成長に必要な栄養の代表は「窒素・リン酸・カリ」と言われているが、この中の窒素を植物が取り込むのにも菌根菌は大きな働きをしている。
土中の窒素は、アンモニアやアミノ酸、硝酸のイオンの形で存在するが、これらを菌根菌が土中から吸収し植物に受け渡している。
③その他の栄養の引渡しにおける役割
植物が必要とする元素は16種類に及ぶ。
主なものは、炭素、窒素、水素、酸素、そしてさらにリン、カリウム、カルシウム、イオウ、マグネシウム、鉄が挙げられる。
菌根菌の菌糸は実に数メートルも伸びるものがある。
植物の根が届かない場所から、栄養を運ぶことができる。
また、菌糸は植物の根に比べると非常に細いので、植物の根には入っていけない岩の隙間などにある栄養素を摂りいれ、植物に送り込むことが可能だ。
植物は様々なミネラルなども受け取る。だから野菜も栄養と味わいも豊かなものになるわけだ。
さらに、植物の根毛が何かの原因で切れてしまった場合には、菌糸が根毛の役割をすることもある。
興味深いことだが、根の役割は菌根菌を付着させる器官にすぎないという説もある。
根と菌根菌の共生は植物の成長にとって不可欠といえる。
このように、土中にある様々な栄養分が菌根菌を通して植物に取り込まれていくのだが、
一例としてリンの取り込みについて見てみよう。
リンが根の先端から7cm離れたところにあるとしよう。
このリンを菌根菌が植物に送ることが実験で観察されている。
また、土中にあるリンは水に溶けにくい状態にある。
この場合、菌根菌は自分から有機酸を分泌して、リンを水に溶ける状態に変える。
このことを通じて植物の根はリンを吸収できるようになる。
こうなると、菌根菌は単なる栄養の引渡しをしているというより、栄養を供給しているといっても過言ではないほどの貢献をしていることになる。
他のミネラルの供給も類似した仕方で行なわれているわけだ。
さらに菌根菌は、人間が体内に摂りこむと危険なもの、例えば重金属などを植物が取り込むことを抑制する役割まで果たしてくれているとも言われている。
4.農業を菌類の活動から見直す
(1)土作りにも菌は貢献する
菌類が農耕用の土壌作りにいかに貢献しているかを説明している本がある。
菌は有機物を分解する過程で糖類を作り出す。
この糖類が土壌粒子を接着して、土壌団粒を形成する。
通気性がよく、水はけもよく、しかも保水性が良い理想的な土が作られることになる。
仮りに砂地であっても菌類が働いているところでは、菌が作り出す糖分によって砂地が団粒状の土に変わっていくそうである。
砂漠の緑化の主役も、実は菌類だという可能性がある。
(2)植物間の相性という現象
福岡正信はじめ、自然栽培を実践する人は、植物と植物の間には相性の良し悪しがあると指摘している。
以下は、千葉のおーけー農園さんの観察の例である。
ハコベは母子草と共にしか生えていない。
クローバとカラスのエンドウはとても良好な関係にあり、豆の育ちが良くなる。
イチゴはニンニクとの相性が抜群で、一緒に育てると両方とも大きく育つ。
米の裏作としてレンゲ草を植えると翌年の米の収穫量が上がる。
この地上から観察できる現象も、実は我々からは見えていない土中の植物の根と菌の相性や、ある種の菌と別の種類の菌の相性に関係がるのかもしれない。
かなり以前には自然栽培の信奉者の中には、肥料を与えていない畑で豊に実る作物を見て説明に困り、「見えない力、エネルギーXがある」と、何か神秘的な言葉で説明しようとする人もいた。
しかし、これからは菌類、そしてこれも肉眼では見えない細菌類、その他微生物の働きから説明される必要があるだろう。 (※注 あとがきをご覧ください。)
(3)肥料・除草剤と菌について
①菌根共生を壊す肥料
言うまでもなく、植物は無機物を取り入れて有機物を作り、菌類は有機物を無機物に還す。
肥料を使うことは、化学肥料であれ十分に熟成させた有機肥料であれ、直ちに植物が摂りいれられる無機的な栄養を土に入れていることになる。
ということは、上で述べたような菌の活動、菌と根の協力関係を省くことができる。
だから、養分が豊富な温室などでは植物は菌根なしに成長できるために、菌根共生は見られないらしい。
植物の根も、栄養が手近にあるために必要最小限にしか伸びなくなる。
風雨や虫に弱い虚弱な植物が出来上がる。
さらに、熟成していない有機肥料を土に入れる場合には、菌類は有機肥料の有機物を無機化する活動にエネルギーを注ぎ、根との協力関係を結ばなくなる。
有機物を植物の根からもらう必要がないからだ。
また、有機肥料の持っている過剰な窒素化合物は植物が吸収した後で有害な物質に変わる可能性があるのだから、有機肥料を使うことも考えものである。
②除草剤は必要というイメージ
野菜を育てるためには雑草のない「クリーン」な土が必要だというイメージは、野菜を育てるには肥料が必要だというイメージと共に根強く頑迷だ。
やはり、雑草が生えていると栄養が雑草に奪われてしまう、という考えが根本にある。
雑草、野菜、花などという分類は人間の必要性から植物を分類しているにすぎない。
人間が消化できない草、毒性を持つ草は雑草、花が美しくない草は雑草、などと勝手に分類しているにすぎない。
同じ植物なのであり、もちろん菌根菌にとってはどれも植物なのだ。
菌根菌の菌糸は一つの植物と結びつくだけではない。
幾つもの植物の根と共生関係を結ぶ。
植物の種類が多ければ多いほど菌糸のネットワークは豊かに広がっていく。
アドベジのサイトの巻頭にある「雑草の中でたくましく育つネギ」を再度ご覧ください。
栄養は植物間で奪い合いをしているのではない。
むしろ菌を介して土中の栄養は豊富になり、植物間で分け合う関係にあると言えるのではないか。
相性の良い植物の関係は、この分け合う関係が良好なことに拠るものと考えられる。
ある種の雑草を抜かれるたり、取り除かれたりするだけでも菌根菌の菌糸は痛めつけられて、菌と植物のネットワークは弱ってしまうだろう。
明らかな弊害があるにもかかわらず、除草剤はなぜ使われるのか。
除草剤の会社が利益をあげられるから?
農業の「伝統」だから?
現状では、除草剤を使わない農業は、一般の農家や農協から白眼視されている。
あとがき
何の因果で菌の話にのめり込んでしまったのだろう。
生物といえば、高校時代の生物の時間はもっぱら居眠りの時間だった。
今読んでいる本は様々な化学物質名や化学式がたくさん出てくる。
大学時代に化学を専攻していたとはいえ、今や在籍したという以上の記憶はない。
しかも40年以上前の話で、化学式などを見ると頭が痛くなるという体たらくだ。
しかし今現在の問題意識からすると、さらに頭痛薬を飲みながらでも難しい本を読み進めなければいけないようだ。
「菌と農業」については、昨年の10月ぐらいに書こうと考え始めたのだが、本を読んで準備することと忙しさにかまけて、ようやく一段落。
しかしつい先日、「菌や細菌をまとめて『エンドファイト』と呼び、これを農業に活用する試みが注目を浴びているんですよ」、という情報をおーけー農園さんから頂いた。
知らなかったのは迂闊でした。
だけど私の考えてきた方向性は間違えではなさそうだ。
少しほっとし、また勇気付けられました。
頭痛薬を飲みながら「エンドファイト」の勉強を始めます。
菌の代表は黴(かび)と茸(きのこ)だ。
黴という漢字は、小さいという意味の「微」の中に「黒」を入れてつくられている。
カビは小さくて、多くは黒っぽく見えるからだろう。
菌は元々はキノコを意味していたらしい。
菌糸が太く長く大きく育った種類のものがキノコだ。
黴菌(ばいきん)という言葉があるが、カビとキノコを合わせた中国音だそうだ。
バイキンというと現在はもっぱら、病原菌と同様に有害なものというイメージで使われているし、また実際に有毒・有害な菌が多数存在するのでもっぱら有難くない呼び方で使われてしまったようだ。
ところで、素人には分かりにくいが「菌」と呼ばれていても実は細菌(バクテリア)の仲間もあるようでややこしい。
菌と細菌の違いは、菌は植物ではないが植物的で動かず、植物の根のように菌糸を伸ばし栄養を摂りいれ、胞子で子孫を増やす。
細菌は動物的で動き回り、細胞分裂で仲間を増やす。
分類すると黴、キノコ、酵母菌は菌類だが、納豆菌、乳酸菌、結核菌、赤痢菌、大腸菌、などは細菌。
マメ科の植物がチッソを同化するときに協力している根粒菌も実はバクテリアの仲間だ。
だから、根粒バクテリアと表記している本もある。
納豆バクテリアとか聞くと納豆好きの私も尻込みしそうだが。
問題です:今はやりのビフィズス菌は菌でしょうか?それとも細菌でしょうか?
今後の問題としては、細菌やその他の土中生物にも目を向けなければいけないのだが、今回は菌の話にとどまろう。
2.菌と農業
今回の話題の中心になる菌は黴やキノコとは少し違い、土の中で植物の根と協力関係を作る菌だ。
植物の根と菌が共生関係にある状態は「菌(きん)根(こん)」と呼ばれ、菌根を作る菌は「菌(きん)根(こん)菌(きん)」と呼ばれる。
植物と菌類の関わりについての研究は1990年代ぐらいまではあまり盛んに行なわれていなかったようだが、最近になってかなり研究が進んできたように思われる。
しかし出版された本のタイトルから見る限り、その研究の方向は「森林と菌」がほとんどで、農業との関係ではあまり進んでこなかったように見受けられる。
「林の中にはハンペンがあるんですよ」、自然農法で活躍する「おーけー農園」を訪ねたときに、発せられた興味深い言葉だ。
畑にも「ハンペン」ができないか試しているとのことで、枯葉を集めて菌を培養している容器を見せてもらった。
後日、「うちの畑でもハンペンができましたよ」、との報告があった。
菌の種類によっても異なるが、1cm3の土の中に何と37mとか、1gの土に50mもの菌糸が張り巡らされているのだそうだ。
「菌根菌」から伸びた菌糸の大きな塊がオーケーさんの言う「ハンペン」の正体だ。
農業と菌の関係があまり進まなかった背景には、農業という人間の営みそのものに原因があると推察される。
畑の中に菌の塊ができる農業というのは考えにくい。
一般の農業は勤勉にも頻繁に土をかき混ぜる。
土を耕して堆肥や肥料を入れる、種を撒く。
収穫するなどでまた土を掘り起こす。
次の作物の植え付けのために土を整備するなどで、また土をかき混ぜる。
菌根の形成を妨げる活動だ。
その他にも、肥料を与えることで菌に生態上の影響がでるだろうし、農薬を撒くなどすれば生存を脅かされる。
菌根の働きは農業という人為的な活動から影響を受けやすい。
研究しようにも、データを得ようにも極めて困難をともなう。
畑で「ハンペン」できるのは、オーケーさんがいかに自然と自然のままに付き合う農業を行っているかの証しだろう。
菌根の研究者は、おーけー農園をはじめとする自然農法の畑に出かけ、農業と菌根菌について調査して欲しいものだ。
それでは、菌根菌は植物の生育にどのような影響をもつのだろうか。
答:ビフィズス菌は細菌です
3.菌の役割
(1)分解者としての菌類
よく知られているように、生物の世界は生産者、消費者、分解者に分類される。
生産者は植物。葉緑体を持ち、地中の水と空気中の二酸化炭素(無機物)を原料にして、太陽エネルギーの力を借りて光合成をする。
そのときにデンプンなどの炭水化物(有機物)が生産される。
有機物は炭素の長いチェーン、(-C-C-C-・・・・・・-C-C-・・・)を持つ。
これが、地球上に生きるすべての生物の栄養になる。
これに対して、消費者は植物が作る有機物を栄養として食べる草食動物、さらにそれらを食べる肉食動物に分けられる。
有機物は植物から動物の体内に移動することになる。
分解者は、生産者や消費者が枯れたり死んだりしたもの、またそれらが出す老廃物や排泄物など(有機物)を分解し、最終的に水と二酸化炭素(無機物)にして自然界に返す役割を持っている。
分解者には、ミミズやだんご虫、ヤスデ、ダニなどの小動物、細菌、菌などが属している。
細菌や菌は、この分解者のグループの最終的な位置にいて、分解の最終の仕上げをする。
前にあげた納豆菌、乳酸菌、結核菌、赤痢菌、大腸菌などの細菌類、黴やキノコ、酵母菌などの菌類がそれに当たる。
つまり、これらの細菌や菌は有機物が持つ炭素の長いチェーン(-C-C-C-・・・・・・-C-C-・・・)を炭素1個の二酸化炭素CO2にまで切っていき、それらを再び植物が光合成に利用することになる。
(2)菌根菌の主な役割
そして、菌類の中でも菌根菌は植物の成長との関係でとても重要な役割を担っている。
菌根菌は植物の根と協同作業をする。
菌根菌が根の細胞に付く。
根に付いた菌根菌の菌糸は植物の根から有機物を提供してもらう。
それで終われば単に寄生しているだけだが、菌根菌は植物に様々なお返しをする。
①炭素循環における役割
すでに触れたように、菌類などが空気中に二酸化炭素を放出させることで植物の光合成を可能にしているわけだが、土中にも水に溶ける炭酸水素イオンHCO3―や
炭酸イオンCO32―つくることで炭素分を根からも吸収できるようにする。
ある研究者は、菌根菌が根に付いた植物は菌根菌が根に付いていない植物と比べると、光合成が促進されることを報告している。
このため、植物の地上部における成長も際立ってくる。
茎の中の維管束が大きくなり、葉脈の直径が倍近くまでになり、葉の厚さが1.5倍以上になるまで成長することなどが観察されている。
②窒素循環における役割
植物の成長に必要な栄養の代表は「窒素・リン酸・カリ」と言われているが、この中の窒素を植物が取り込むのにも菌根菌は大きな働きをしている。
土中の窒素は、アンモニアやアミノ酸、硝酸のイオンの形で存在するが、これらを菌根菌が土中から吸収し植物に受け渡している。
③その他の栄養の引渡しにおける役割
植物が必要とする元素は16種類に及ぶ。
主なものは、炭素、窒素、水素、酸素、そしてさらにリン、カリウム、カルシウム、イオウ、マグネシウム、鉄が挙げられる。
菌根菌の菌糸は実に数メートルも伸びるものがある。
植物の根が届かない場所から、栄養を運ぶことができる。
また、菌糸は植物の根に比べると非常に細いので、植物の根には入っていけない岩の隙間などにある栄養素を摂りいれ、植物に送り込むことが可能だ。
植物は様々なミネラルなども受け取る。だから野菜も栄養と味わいも豊かなものになるわけだ。
さらに、植物の根毛が何かの原因で切れてしまった場合には、菌糸が根毛の役割をすることもある。
興味深いことだが、根の役割は菌根菌を付着させる器官にすぎないという説もある。
根と菌根菌の共生は植物の成長にとって不可欠といえる。
このように、土中にある様々な栄養分が菌根菌を通して植物に取り込まれていくのだが、
一例としてリンの取り込みについて見てみよう。
リンが根の先端から7cm離れたところにあるとしよう。
このリンを菌根菌が植物に送ることが実験で観察されている。
また、土中にあるリンは水に溶けにくい状態にある。
この場合、菌根菌は自分から有機酸を分泌して、リンを水に溶ける状態に変える。
このことを通じて植物の根はリンを吸収できるようになる。
こうなると、菌根菌は単なる栄養の引渡しをしているというより、栄養を供給しているといっても過言ではないほどの貢献をしていることになる。
他のミネラルの供給も類似した仕方で行なわれているわけだ。
さらに菌根菌は、人間が体内に摂りこむと危険なもの、例えば重金属などを植物が取り込むことを抑制する役割まで果たしてくれているとも言われている。
4.農業を菌類の活動から見直す
(1)土作りにも菌は貢献する
菌類が農耕用の土壌作りにいかに貢献しているかを説明している本がある。
菌は有機物を分解する過程で糖類を作り出す。
この糖類が土壌粒子を接着して、土壌団粒を形成する。
通気性がよく、水はけもよく、しかも保水性が良い理想的な土が作られることになる。
仮りに砂地であっても菌類が働いているところでは、菌が作り出す糖分によって砂地が団粒状の土に変わっていくそうである。
砂漠の緑化の主役も、実は菌類だという可能性がある。
(2)植物間の相性という現象
福岡正信はじめ、自然栽培を実践する人は、植物と植物の間には相性の良し悪しがあると指摘している。
以下は、千葉のおーけー農園さんの観察の例である。
ハコベは母子草と共にしか生えていない。
クローバとカラスのエンドウはとても良好な関係にあり、豆の育ちが良くなる。
イチゴはニンニクとの相性が抜群で、一緒に育てると両方とも大きく育つ。
米の裏作としてレンゲ草を植えると翌年の米の収穫量が上がる。
この地上から観察できる現象も、実は我々からは見えていない土中の植物の根と菌の相性や、ある種の菌と別の種類の菌の相性に関係がるのかもしれない。
かなり以前には自然栽培の信奉者の中には、肥料を与えていない畑で豊に実る作物を見て説明に困り、「見えない力、エネルギーXがある」と、何か神秘的な言葉で説明しようとする人もいた。
しかし、これからは菌類、そしてこれも肉眼では見えない細菌類、その他微生物の働きから説明される必要があるだろう。 (※注 あとがきをご覧ください。)
(3)肥料・除草剤と菌について
①菌根共生を壊す肥料
言うまでもなく、植物は無機物を取り入れて有機物を作り、菌類は有機物を無機物に還す。
肥料を使うことは、化学肥料であれ十分に熟成させた有機肥料であれ、直ちに植物が摂りいれられる無機的な栄養を土に入れていることになる。
ということは、上で述べたような菌の活動、菌と根の協力関係を省くことができる。
だから、養分が豊富な温室などでは植物は菌根なしに成長できるために、菌根共生は見られないらしい。
植物の根も、栄養が手近にあるために必要最小限にしか伸びなくなる。
風雨や虫に弱い虚弱な植物が出来上がる。
さらに、熟成していない有機肥料を土に入れる場合には、菌類は有機肥料の有機物を無機化する活動にエネルギーを注ぎ、根との協力関係を結ばなくなる。
有機物を植物の根からもらう必要がないからだ。
また、有機肥料の持っている過剰な窒素化合物は植物が吸収した後で有害な物質に変わる可能性があるのだから、有機肥料を使うことも考えものである。
②除草剤は必要というイメージ
野菜を育てるためには雑草のない「クリーン」な土が必要だというイメージは、野菜を育てるには肥料が必要だというイメージと共に根強く頑迷だ。
やはり、雑草が生えていると栄養が雑草に奪われてしまう、という考えが根本にある。
雑草、野菜、花などという分類は人間の必要性から植物を分類しているにすぎない。
人間が消化できない草、毒性を持つ草は雑草、花が美しくない草は雑草、などと勝手に分類しているにすぎない。
同じ植物なのであり、もちろん菌根菌にとってはどれも植物なのだ。
菌根菌の菌糸は一つの植物と結びつくだけではない。
幾つもの植物の根と共生関係を結ぶ。
植物の種類が多ければ多いほど菌糸のネットワークは豊かに広がっていく。
アドベジのサイトの巻頭にある「雑草の中でたくましく育つネギ」を再度ご覧ください。
栄養は植物間で奪い合いをしているのではない。
むしろ菌を介して土中の栄養は豊富になり、植物間で分け合う関係にあると言えるのではないか。
相性の良い植物の関係は、この分け合う関係が良好なことに拠るものと考えられる。
ある種の雑草を抜かれるたり、取り除かれたりするだけでも菌根菌の菌糸は痛めつけられて、菌と植物のネットワークは弱ってしまうだろう。
明らかな弊害があるにもかかわらず、除草剤はなぜ使われるのか。
除草剤の会社が利益をあげられるから?
農業の「伝統」だから?
現状では、除草剤を使わない農業は、一般の農家や農協から白眼視されている。
あとがき
何の因果で菌の話にのめり込んでしまったのだろう。
生物といえば、高校時代の生物の時間はもっぱら居眠りの時間だった。
今読んでいる本は様々な化学物質名や化学式がたくさん出てくる。
大学時代に化学を専攻していたとはいえ、今や在籍したという以上の記憶はない。
しかも40年以上前の話で、化学式などを見ると頭が痛くなるという体たらくだ。
しかし今現在の問題意識からすると、さらに頭痛薬を飲みながらでも難しい本を読み進めなければいけないようだ。
「菌と農業」については、昨年の10月ぐらいに書こうと考え始めたのだが、本を読んで準備することと忙しさにかまけて、ようやく一段落。
しかしつい先日、「菌や細菌をまとめて『エンドファイト』と呼び、これを農業に活用する試みが注目を浴びているんですよ」、という情報をおーけー農園さんから頂いた。
知らなかったのは迂闊でした。
だけど私の考えてきた方向性は間違えではなさそうだ。
少しほっとし、また勇気付けられました。
頭痛薬を飲みながら「エンドファイト」の勉強を始めます。
1.菌の一般的なイメージ
菌の代表は黴(かび)と茸(きのこ)だ。
黴という漢字は、小さいという意味の「微」の中に「黒」を入れてつくられている。
カビは小さくて、多くは黒っぽく見えるからだろう。
菌は元々はキノコを意味していたらしい。
菌糸が太く長く大きく育った種類のものがキノコだ。
黴菌(ばいきん)という言葉があるが、カビとキノコを合わせた中国音だそうだ。
バイキンというと現在はもっぱら、病原菌と同様に有害なものというイメージで使われているし、また実際に有毒・有害な菌が多数存在するのでもっぱら有難くない呼び方で使われてしまったようだ。
ところで、素人には分かりにくいが「菌」と呼ばれていても実は細菌(バクテリア)の仲間もあるようでややこしい。
菌と細菌の違いは、菌は植物ではないが植物的で動かず、植物の根のように菌糸を伸ばし栄養を摂りいれ、胞子で子孫を増やす。
細菌は動物的で動き回り、細胞分裂で仲間を増やす。
分類すると黴、キノコ、酵母菌は菌類だが、納豆菌、乳酸菌、結核菌、赤痢菌、大腸菌、などは細菌。
マメ科の植物がチッソを同化するときに協力している根粒菌も実はバクテリアの仲間だ。
だから、根粒バクテリアと表記している本もある。
納豆バクテリアとか聞くと納豆好きの私も尻込みしそうだが。
問題です:今はやりのビフィズス菌は菌でしょうか?それとも細菌でしょうか?
今後の問題としては、細菌やその他の土中生物にも目を向けなければいけないのだが、今回は菌の話にとどまろう。
2.菌と農業
今回の話題の中心になる菌は黴やキノコとは少し違い、土の中で植物の根と協力関係を作る菌だ。
植物の根と菌が共生関係にある状態は「菌(きん)根(こん)」と呼ばれ、菌根を作る菌は「菌(きん)根(こん)菌(きん)」と呼ばれる。
植物と菌類の関わりについての研究は1990年代ぐらいまではあまり盛んに行なわれていなかったようだが、最近になってかなり研究が進んできたように思われる。
しかし出版された本のタイトルから見る限り、その研究の方向は「森林と菌」がほとんどで、農業との関係ではあまり進んでこなかったように見受けられる。
「林の中にはハンペンがあるんですよ」、自然農法で活躍する「おーけー農園」を訪ねたときに、発せられた興味深い言葉だ。
畑にも「ハンペン」ができないか試しているとのことで、枯葉を集めて菌を培養している容器を見せてもらった。
後日、「うちの畑でもハンペンができましたよ」、との報告があった。
菌の種類によっても異なるが、1cm3の土の中に何と37mとか、1gの土に50mもの菌糸が張り巡らされているのだそうだ。
「菌根菌」から伸びた菌糸の大きな塊がオーケーさんの言う「ハンペン」の正体だ。
農業と菌の関係があまり進まなかった背景には、農業という人間の営みそのものに原因があると推察される。
畑の中に菌の塊ができる農業というのは考えにくい。
一般の農業は勤勉にも頻繁に土をかき混ぜる。
土を耕して堆肥や肥料を入れる、種を撒く。
収穫するなどでまた土を掘り起こす。
次の作物の植え付けのために土を整備するなどで、また土をかき混ぜる。
菌根の形成を妨げる活動だ。
その他にも、肥料を与えることで菌に生態上の影響がでるだろうし、農薬を撒くなどすれば生存を脅かされる。
菌根の働きは農業という人為的な活動から影響を受けやすい。
研究しようにも、データを得ようにも極めて困難をともなう。
畑で「ハンペン」できるのは、オーケーさんがいかに自然と自然のままに付き合う農業を行っているかの証しだろう。
菌根の研究者は、おーけー農園をはじめとする自然農法の畑に出かけ、農業と菌根菌について調査して欲しいものだ。
それでは、菌根菌は植物の生育にどのような影響をもつのだろうか。
つづく
答:ビフィズス菌は細菌です