(1)成績表で体育に1がついてしまった自閉スペクトラム症の中学校1年生男子

 

 A君は1年後期の成績表で体育に1がついてしまいました。

 

 成績表に1がつくとは尋常ではないことです。

 前回の受診時にそのことを知った私は、

 

「成績表に体育で1がつくなんて普通ではありえません。

 なぜこのような評価なのか、体育の先生に聞いてみてください」

 と提案しました。

 

 

(2)実は何回か体育の授業をさぼっていたA君

 

「体育の先生に、なぜ体育の成績が1だったのか聞いてみた?」

「はい、体育の先生に聞いてみたら、授業を何回かさばっていたので1をつけたとのことでした」

「えー?君は体育の授業をサボっていたの?それでは1がつけられるのは当たり前じゃん。それなのに体育の先生に『なぜ1がついたのか』聞いてみたの?」

「はい、先生が『なぜ体育の成績が1だったのか聞いてみて』と言ったからその通りにしました」

 私も彼のお父さんも絶句してしまいました。

 

 授業をサボることがどんな意味を持つのか、彼にはよくわからなかったようです。

 

 私も彼のお父さんも、

①授業をサボったら成績表で1をつけられるのは当たり前

➁サボっていながら、成績の評定について先生に疑問を呈するかのようにも受け取れる質問をするのは論外

③(こんなことを先生に聞くなんて)A君は本当に「空気を読めない」

と感じていましたが、彼は「授業をサボっても成績表で1をつけられることはない」と思っていたのかもしれません。小学校時代には、「気分が乗らなくて授業を休んでもそれほどのペナルティはないので、中学校でも許容される」と思ってしまったのかもしれません。

 

(3)ルールを破ると、相応のペナルティがある

 

 現在の小学校では、「嫌な授業には無理に出なくてもいい」という風潮があると思います。「苦手な授業を強要して、不登校になったら困る」と考える関係者が多いからでしょうか。

 特別支援教育の考え方が浸透した影響もあると思います。

 

 しかし、中学校でも同様のことを許容していたら、中学校の秩序が崩れてしまい、「収拾がつかなくなる」と思います。校内暴力の時代に戻ってしまうかもしれません。

 

 そのため、

①小学校時代には緩かったルールも中学校時代には守るように求められることが多い

➁ルールを破るとそれ相応のペナルティがある

③ルールを破るとアウトロー認定され、周囲の同級生から浮いてしまうリスクがある

などのことを小学生のうちに本人に伝えておく必要があると思います。

 

 A君は空気が読めなかったのではなく、「小学校時代に許されていたことが、中学校では許されなくなる」ことを察することができなかっただけだったのかもしれません。