(1)妊娠した妻に、「デブになったなあ」と言った夫

 

 「うちの夫は人の気持ちを察することができないんです」

 

ある30代の女性が相談のために受診しました。

彼女が挙げた夫のエピソードの一つに以下のようなものがありました。

 

「初めての子どもを妊娠して、おなかが大きくなった私に、夫は『デブになったなあ』っていったんです!」

 

妊娠すると全体的にふっくらするし、おなかも大きくなります。

しかし、それは生理的に当然の変化であり、それが事実だとしても、「太った」「デブ」などの言葉は現在の日本の文化でネガティブな意味を含有していますので、当事者の一人としてあまりに常軌を逸した発言に私には感じられました。

 

夫にとっては「冗談」や「軽口」のつもりだったのでしょうけれど、「言っていい冗談と悪い冗談がある」と思います。

 

女性は夫がアスペルガー症候群(今でいう自閉スペクトラム症)ではないかと疑って受診したのですが、確かにその疑いはあると私には感じられました。

 

 

(2)どこまでが正常範囲内で、どこからが病気なのか

 

 どこまでが正常範囲内で、どこからが病気として取り扱うレベルなのか?

 精神系の疾患の場合は判断が難しいところがあります。

 

 人間関係において、配慮のない発言でトラブルに見舞われることがよくあります。

 

 配慮のない発言をする人の一部は自閉スペクトラム症の診断基準を満たす人がいます。

 しかし、そのような発言をする人の中には自閉スペクトラム症の診断基準を一部には満たすけれど、診断するには至らないグレーゾーンの人もいます。

 

 しかし、たとえグレーゾーンでも人間関係のトラブルは生じる可能性があります。

 

 上記の男性が自閉スペクトラム症かそうでないのかは微妙なところでした。

 

 しかし、離婚を考え始めた女性に対して、

 

「配慮のない男性ですね」というのと

 

「自閉スペクトラム症の特性があると思われます。

人の気持ちを察するのが苦手な特性を持っていると思います。

悪気はないのに無神経な発言をしてしまうのです。

大目に見てあげることはできないでしょうか?」

というのとでは、どちらがこの女性や夫にとってよいのでしょうか?

 

 

(3)自閉スペクトラム症の特性がある場合にはソーシャルスキルトレーニングが必要

 

 自閉スペクトラム症の特性があると配慮の足りない言動をしがちです。

 悪気はないことが多いのですが、自分の言動が相手にどのように受け取られるのかを十分に理解せずに発言してしまうので、相手を怒らせたり、不機嫌にさせてしまうことが多いのです。

 

 これは診断レベルの人だけでなく、グレーゾーンの人でもしばしば問題になります。

 

 ですから、自閉スペクトラム症の特性のある人はグレーゾーンの人も含めて、配慮のない発言をしないように、ソーシャルスキルトレーニングが必要だと思います。