(1)腹痛を訴え学校を休んでいる小学校3年生の男の子

 

 A君は小学校3年生の男の子です。

 

 7月の初めに腹痛を訴え、学校を休み始めました。

 近くの小児科に受診したところ、「お腹が動きすぎている」と言われ、薬を処方されました。内服すると症状はやや改善しましたが、再登校には至りませんでした。

 

 学校を休んだまま夏休みに突入しました。

 夏休みに入ると腹痛はほとんど認められなくなり、休み中は何の問題もなく過ごしていました。宿題もしっかりすませて、学校再開を迎えました。

 

 学校再開後、最初の1週間は問題なく登校していましたが、2週目に入ると再び腹痛を訴え学校を休むようになりました。その後もA君は学校休み続けています。

 

 お母さんの観察では、金曜日になると腹痛は軽くなるようです。土曜日、日曜日は比較的元気なのですが、月曜日になると腹痛を訴えて学校に行けません。

 

 このような経過で、A君は私たちのクリニックを受診しました。

 

 

(2)学校にストレスがある?ない?

 

 A君は、腹痛を訴えて診察室に入ってきました。顔色も少し悪そうです。

 腹部の診察では、腸蠕動の亢進はあまり目立ちませんでしたが、下腹部に圧痛がありました。

 

 便の性状を聞くとやや軟便気味ですが、便の回数は1日1回程度だそうです。

 

「学校を休んでいる時は家で何をしているの?」と聞くと

「オンライン授業がある時にはそれを聞いているが、ない時はスマホをしている」と答えました。

 

 「人間関係や勉強面でのストレスがあるの?」といくつかの質問を交えながら聞いてみるのですが、特に学校生活上のストレスは明らかではありませんでした。

 

 A君は身体疾患が学校に行けない原因なのでしょうか?

 

①夏休みや土日には症状が軽減すること

②過敏性腸症候群や便秘症など、持続的な腹痛の原因となりやすいような身体疾患の特徴は特に認められないこと

③学校に行けないのに、スマホは問題なくできること

 

などからは、何らかの心因の関与が疑われます。

 

 更に聞くと、

 

・学校を休み始める前から、学校から帰ってくるとスマホを1日4、5時間やっていた。

・宿題の取り掛かりが悪かった。

 

などの事実が判明しました。

 

 学校を休み始める前から、スマホ依存状態になっていて、学校を休むことにより更にスマホの時間は増えていました。

 

「スマホをやりたい」という思いが、「腹痛」や「学校を休むという行動」に関連している可能性も否定できないと考えました。そこでA君に以下のように提案しました。

 

「学校を休んでいるのだから、体も心も休養しなければなりません。学校を休んでいる間はスマホやゲームは禁止にしましょう。学校に行くようになったら、スマホやゲームを再開しましょう」

 

(3)「疾病利得」としての不登校

 

 不登校のケースでは学校におけるストレスや心理的な葛藤が背景にあることが多いと思います。しかし、そのようなストレスや葛藤がほとんど認められないケースもあります。

 

 A君のように身体症状を訴える場合もありますし、「学校に行きたくない」と特に理由を説明せずに主張する場合もあります。

 

 このようなケースの一部に、

 

①学校を休み始める前からゲームやスマホの時間が長かった

②学校を休んでいる間もある程度勉強をした後は、スマホやゲームの制限をされていないので、1日のスマホやゲームの時間が学校休み始める前よりも増えている

 

などの例にしばしば遭遇するようになりました。これらのケースは学校を休むことが疾病利得となっています。(疾病利得とは病気になることによって、自分が何らかの利益を得ることが出来る状態のことをいいます。A君は腹痛を訴え学校を休むことにより、休む前よりスマホを長時間できるようになりました)

 

 学校におけるストレスや心理的な葛藤があまり見受けられないケース、学校を休むことが疾病利得になっているようなケースには、スマホやゲーム時間の制限が必要なのではないでしょうか?