(1) “子どものICU”が舞台の医療ドラマ

 

PICU 小児集中治療室

フジテレビ系列

毎週月曜 午後9時~9時54分

吉沢亮さん主演

 

 “子どものICU”が舞台の医療ドラマです。

 

 視聴率も第1話10.3%、第2話7.5%とそれなりの数字が出ています。

 

 吉沢亮さんのかっこよさが話題になっていますが、PICUのリーダー役の安田顕さん演じる植野医師にも注目してほしいと思います。

 

 

(2)植野医師のモデル植田育也先生

 

 植野医師は、日本のPICUのパイオニアの一人である埼玉県立小児医療センター小児救命救急センター長の植田育也先生をモデルにしているようです。

 

 植田先生は、1991年に千葉大学医学部を卒業後、千葉大関連施設での小児科研修を経て、1994年から1998年にわたりアメリカ・オハイオ州のシンシナティ小児病院にて小児集中治療に従事。帰国後、それまで臓器別に専門化されていた日本の小児医療体制のなかに、新たに救命治療に特化したPICUの分野を持ち込みました。日本各地でPICU開設に尽力し、小児集中治療の基礎を築いた第一人者です。

 

 長野県立こども病院、静岡県立こども病院のPICU設立、運営に携わった後、2016年に埼玉県立小児医療センターに移動し、小児救命救急センターを開設しました。

 

 静岡県立こども病院在籍中の植田先生はドラマの中で植野医師が行っていたように地域の医師にPICUの意義を説明し、24時間365日どんな患者さんも受け入れて、地域の信頼を集めていきました。(私も病院勤務中には大変お世話になりました)

 

 

(3)ドラマと現実の多少異なるところ

 

 ドラマの中の植野医師と現実の植田先生には多少異なる点があります。スタッフの充実度です。ドラマでは少ないスタッフでPICUの運営を開始しましたが、植田先生はある程度の人数が集まってからPICUの運営を開始しました。

 

 多くの医師を雇うと経営的に成り立たず(赤字になってしまう。特に小児救急医療では恒常的に赤字になりやすい)、さらに肉体的・精神的にたいへんな救急医療を志す医師はあまり多くないため、救急医療は少数の現場の医師の犠牲的な精神で運営されることが多かったと思います。しかし、それでは志があっても途中で燃え尽きてしまい、それがスタッフの減少や仕事の大変さをもたらし、悪循環となっていました。

 

 少ないメンバーで献身的に救急医療に立ち向かう、ドラマとしては盛り上がるでしょうが、それでは救急医療を志す医師はなかなか増えなかったと思います。

 

 植田先生はきちんとした交代制のシフトを敷けるだけの人員を集めることの必要性を病院上層部に説明し、同意を得て、静岡県立こども病院のPICUを立ち上げ、運営していったようです。病院上層部は行政担当部局の理解を求め、予算を確保したのだと思います。

 

 植田先生のリーダーシップがあってこそのことだとは思いますが、植田先生の思いに答えた当時の静岡県立こども病院の上層部、静岡県の担当部局の支援があったからこそ静岡県立こどもPICUは軌道に乗ったのだと思います。

 

 ドラマ「PICU」には、そんな「PICUの成長の歴史」が背景にあるのです。

 

 

(4)子どもたちの命を救うために必要なこと

 

 子どもたちの命を救うのは医師や看護師さんなどの医療スタッフだけではないと思います。

 

 医療の必要性、どのような制度があれば医療がうまく機能するかを医師がいくら訴えても、行政担当部局や政治家の理解が乏しかったら、持続可能な医療は行われません。

 

 ドラマ「PICU」を、まだPICUがない県の行政担当部局や政治家の方々に是非とも見ていただきたいと思います。

 

 そして、自分たちの県の子どもたちの命を救うためには何が必要かをみなさんで考えてほしいと思います。