(1)「羨み」と「妬み」

 

「ある人の能力や環境や状況が自分よりも良く、その人に比べて自分の能力や環境や状況はよくない」と感じる時、人はその人に対して「羨み(うらやみ)」や「妬み(ねたみ)」の感情を持つことがあります。

 

  「羨み」や「妬み」の感情は自分と他人を比べる心理から出てきます。「羨み」がよりポジティブな感情。「妬み」がよりネガティブな感情だと思ってください。そして、これらの感情は対象の性質、本人の性格、指向性、自己評価、相手に対する評価などによって変わってきます。

 

(2)勉強に関する「妬み」

 

 「勉強ができる」とか「仕事ができる」とか業績に関することは自らの努力で自分も相手と肩を並べることが可能、「勉強ができなかったらできないでいい」と考える人も多い、「このようなことで妬むのはみっともない」と思ったり、「周りにそう思われるのは嫌」と思ったりするので、妬みの感情にブレーキがかかりやすく、羨んでも妬むことは少ないと思います。

 

(3)容姿や恋愛に関する「妬み」

 

 「容姿の良し悪し」や「恋人の有無」などは本人の努力だけではどうにもならないことも多いので、妬みの感情を生じやすいのだと思います。生まれつきの部分が大きく、努力で何となる部分が小さいと人は「妬み」やすいのかもしれません。

 

(4)「妬み」に影響を与える「本人の特性」

 

 本人の性格、指向性、自己評価にも「羨み」や「妬み」の感情は左右されると思います。

「前向きに頑張ろう」と思うような人は「羨み」はするけれど「妬む」ことはあまりしないと思います。「羨ましい」という感情は本人の成長につながることもあります。

 

「自分はどうせダメ」と思いがちな人は「妬む」ことが多いと思います。「妬む」と「自分も頑張ってみよう」という前向きな気持ちになりにくいので、本人の成長を阻害しがちになると思います。

 

(5)相手に対する感情

 

 相手に対する好悪の感情にも「羨み」や「妬み」の感情は左右されます。相手に対するネガティブな感情があれば「妬み」やすくなりますし、ネガティブな感情がなければ「羨み」の範囲内になるでしょう。もっとポジティブな感情を持っていれば「尊敬」するようになると思います。

 

(6)「妬み」と不登校

 

 外来で不登校の患者さんを診ていると同級生に「悪口」や「陰口」を言われているのを苦にして学校に行き難くなっている事例をしばしば経験します。そのうちの一定の割合が「妬まれている」と思われる事例です。

 

「相手はあなたのことを妬んでいるのだと思います。あなたは悪意のあることを言われてつらいと思うけれど、そう言ってしまう相手の心理も理解しましょう。気にしないようにするのが唯一の解決策です」というようなことを、受診の際に少しずつ理解していってもらいます。ただし、いったん傷ついてしまった心が癒えるのには時間がかかります。

 

(7)不登校の予防のための心理教育・ソーシャルスキルトレーニング

 

 「妬み」の感情に起因する「悪口」や「陰口」が原因の不登校が一定の割合でいます。「妬まれる」可能性のお子さんには、「羨み」や「妬み」の心理について説明し、自分が妬まれても、スルーしたり、気にしないでいることのできるソーシャルスキルを身につけておくことが必要なのかもしれません。

 

 「妬み」の感情は自分が「自分がうまくいっていない」と感じる時に生じやすい傾向にあります。また、自分が大切にされていると感じている人は妬むことが少ないでしょう。本人の特性によって妬まれやすさは異なりますが、環境によっても異なります。

 

 「公立」と「私立」、「共学と」と「女子校」や「男子校」。それぞれの妬まれるリスクを考え、どの環境がわが子にとって一番よいかを考えておく必要があるのかもしれません。「妬み」という視点からの不登校の予防が必要なのかもしれません。