ソーシャルスキルトレーニングは、周りとうまくやっていく方法を学ぶことです。小学校高学年や中学生へと学年が上がるにつれて、人の気持ちを考えながら行動していく必要性が強まります。人の気持ちを考えない行動をしていると、クラスから浮いてしまい、居場所がなくなったり、仲間はずれにされてしまうリスクが大きくなります。発達特性の偏りがないお子さんは周りが教えなくても自然に対応の仕方を学んでいきます。発達に偏りのあるお子さんは人との対し方を教えていかなければ適切な行動を取れないことがあります。ソーシャルスキルを十分に身につけていなくても、周囲が寛容なら問題になりませんが、周囲が不寛容な場合には不適応を生じてしまいます。不登校の事例のうち一定の割合を発達に特性のあるお子さんが占めています。不適応を起こさないためには、ソーシャルスキルを学んでおかなければなりません。

 

 ソーシャルスキルは以下のような人や場で教えてもらったり、学んだりするのだと思います。

①自分で学ぶ

②親が教える

③友達との関係で自然に身につく

④担任の先生や他の先生に教えてもらう

⑤通級教室で学ぶ

⑥放課後ディサービスで学ぶ


 まず第一に、小学生・中学生・高校生などが主人公の小説・マンガ・映画・ドラマなどを読んだり、見たりすることで、描かれている人間関係や登場人物の言動や行動などから、どのような言動や行動が周りの人を不快にさせ、トラブルの誘因になるか学ぶことができると思います。ASDのお子さんは人の気持ちを察しにくいのですが、「こういう場面でこういうことを言ったり、したりするとトラブルの原因になる」というような知識を積み重ねることにより、リスクのある言動や行動を減らしていくことが可能になると思います。ADHDのお子さんは頭に浮かんだことをすぐに口に出してしまいます。少し考えれば相手の地雷かもしれないとわかるのに・・・。このような場合も、失敗する可能性のある場面の知識があれば注意深い対応が可能になるかもしれません。

 

 二番目の選択肢として「親が教える」という方法があります。ここで注意しなければならないのは、対人トラブルは主に中学生の年代に発生するのですが、この頃に親がアドバイスをしても大抵の中学生は余計なお世話だと感じ、聞く耳を持たないことです。中学生時代やその後の人間関係を乗り越えてきた親のアドバイスは的確なことが多いのですが・・・。できるだけ小学生時代に親が必要なソーシャルスキルを伝えておく必要があると思います。ASD特性は診断レベルに至らないようなグレーゾーンの方でも人間関係に大きな影響を及ぼすように思います。お子さんにASDの特性があると思ったら、小学生時代からできるだけソーシャルスキルを身につけられるように親子の会話を増やしてください。グレーゾーンだからそれほど心配はない、と思うのではなく、しっかりと対応しておくことが不登校のリスクを減らすために必要なことだと思います。

 

 ソーシャルスキルが豊かなお子さんと一緒に行動すると、彼らのスキルが自然と身についていきます。そのようなお子さんと友達になれるように親は工夫すべきだと思います。お子さんの友達の言動や行動を観察し、自分の子供にいい影響を与えるように思えるお子さんとの関係を深めるように、よくない影響を与えるお子さんとはなるべく一緒に遊ばないように、子供に意図を悟られないように上手に対応してください。これらのことは逆から見れば、子供によくない影響を与える可能性があると同級生の親に思われれば、友達関係が狭まるということを意味しています。発達に特性のあるお子さんにはそういうリスクがあります。自分の子供が同級生の親にどのように思われているのかには注意を払ってください。私立中学校への進学はよりよいソーシャルスキルを身につける上で有力な選択肢だと思います。

 

 担任の先生からクラスの一員として学ぶソーシャルスキルも大きなウェイトを占めていると思います。クラス全体への教えが中心になると思いますが、けんかやもめごと等で同級生間のトラブルが生じたときなどは、ソーシャルスキルを学ぶよい機会なのかもしれません。ただ、担任の先生との相性の良し悪しに左右される面も大きいですし、本人がやさぐれてしまっていて先生に対する反発が大きい場合には、指導が有効でないことが多いと思います。

 

 これらの通常のクラスの一員としての機会の他に、発達に特性がある場合には通級教室や放課後ディサービス等でソーシャルスキルを学ぶことができます。利用できるチャンスはできるだけ有効に生かすべきだと思います。