《妄想物語 番外編》ほどけぬにがみは のみほして① | みんなちがってみんないい

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田中圭くんを中心に
過去や現在大好きなもの
日常の中で思う事
発達障害の息子の事
そして
おっさんずラブ春牧onlyで
二次創作を書いています

大好きなものを大切にして
自分と違うものにも
目を向けてみる

皆違って皆いい
好きなものを好きと言おう

本社の会議が終わり、偶然のタイミングで牧に会った。いや、ほんとは朝も見かけていた。
牧は何だか元気がないように見えて気になった。

久しぶりの本社での会議……。
もしかしたら牧に会うかもしれない…。
そう思っていたのは確かだ。

しかし、以前も何度か本社に行ったが、牧に会うことはなかった。
だから、油断していたのかもしれない。
朝見かけてしまった俺は、明らかに動揺してしまい、会議の時でさえ、あいつの顔がちらついて離れなかった。

もう、牧と別れて10年くらい経つのに、俺はなぜ、まだ動揺するのだろう……。


確かに牧が春田と
ルームシェアしていると聞いた時、
牧が春田の事を好きだと知った時、
まだ、あいつに未練があった。

【いつか、一緒に仕事出来たらいいね!】
と無邪気に言っていた昔のあいつを思い出し、
もしかしたら、恋人に戻れるかもしれないと
期待している俺がいた。


それなのに何故、春田なんだ。
何故…よりにもよって、俺と同じ職場で働いている奴を好きになった?
俺への当て付けか?

いろんな思いが巡った。

春田は、俺と正反対にいる奴だ。
馬鹿正直で真っ直ぐで、損得を考えないからいつも、営業成績は一番下。
お客様に寄り添い過ぎて、あたふたしてる場面をよく見る。
机の上は汚いし……。

何で俺と全然違う奴を好きになった?
それが答えなのか?

いや……、俺と似ている奴だったとしても
それはそれで腹が立つんだろう。
似ている奴なら、俺でいいじゃないかと……。

結局、あの時はしばらく嫉妬と後悔に支配されて、ちょっとした仕事のミスでも怒鳴り付けた。
仕事の事で怒ったふりをして、ほんとは、言えない想いをぶつけていたと思う。

そんな事をすればするほど、あいつは離れていくというのに……。


だが、牧の揺らぎない春田への想いと、
それゆえに春田から身を引こうとしている
あいつの辛そうな顔に気付いてから、
俺は本来の感情が、揺らいでしまった。

自分の気持ちを押し殺して、すれ違う牧と春田を向かい合わせようとした。

ただただもどかしかった。
お互いにお互いを想っているのに、何故気付かない?

牧は春田がもう、牧を恋愛対象として好きになっているのに気付かない。
春田自身もその事実に自分で気付かない。
端から見れば、分かりやすいくらい、お互いに想っているのに……馬鹿だ。

あまりにももどかしくて、牧にも春田にも、おせっかいを焼いた。
役に立ったのかはわからないが、1年以上かけて2人は結ばれた。

それからの俺の感情が自分でもわからない。
俺は牧に対してどんな感情を持っている?
牧は俺にとって、どんな存在になったんだ?


わからないまま、ここまで来てしまった……。
でもあいつがシンガポールに行ってからは、直接会う事もなく、瀬川やマロが春田を冷やかして話題を振る時以外は、牧を感じる事もなくなった。
考えないようにして、だんだん忘れていけばいいと思っていた。

なのに、やっぱり俺はまだ本当の意味で牧を吹っ切れていなかったのだろうか。


それにしても、牧は何を悩んでる?


春田は昨日、【牧の好きなチョコは?】なんて、元恋人の俺に、相談と言う名でのろけてきた。
わかっている……春田が本当に悩んでいる事は。
計算して物事を言うタイプではない。
ただ、デリカシーがないだけだ。
それでもなんか少しイラッとして、わざと牧との過去を持ち出した。
案の定、春田は敵意剥き出しにしてきた。
俺は笑い飛ばしながらも、安心した。

牧は春田に愛されていると確認出来たからだ。

だから喧嘩した訳でもないだろう。
だとすれば…、また牧の悪い癖が出ているに違いない。

あいつは一人で不安になって考え込んでしまう。
そして、考え過ぎた挙げ句に自己完結して一人で結論を出してしまう。

……なんて偉そうに言ってるが、それに気付いたのは、別れてからだ。
俺はあいつの気持ちをわかってやれないまま、別れてしまった。


『武川さん!』


牧は、本社にいるはずのない俺に会って、明らかに動揺していた。



つづく