呪われた一族と呼ばれたプロレス一家の悲劇を描いた作品。同時代の人間ではないので、何があったかつゆとも知らずに観に行きましたが、なんかすんごい話でした。父親の夢を追うべく育てられた兄弟たちの活躍と、彼らを次々に襲う悲劇。その悲劇の大半は、父親の夢に端を発していると、どうしても思ってしまうな~。描かれる人たちのほとんどが鬼籍に入っているので、これが事実だったかはわからないんだけど、兄弟の誰もが本人たちの持っていた希望や夢を叶えられないまま一人を除いて夭折しているのがとても切ない。

 ザック・エフロンが演じる主人公は兄弟の長兄、なんだけども実は彼の上にも幼児期に亡くなった男児がいて、それもあってか過剰に長男的というか、父の求める息子像に忠実であろうとして、でも弟たちのこともとても大事で、そして努力は負けないけど、才能や華やかさで弟たちに後れをとって、というなんとも切ない役どころでした。もはや存命なのはこの方だけで、その視点で描かれている映画であるということは注意しないといけないんだろうけど、お兄ちゃん本当に苦労性で同情を禁じ得ない。大事な弟たちが次々と世を去って、一人になってしまったという悲嘆は胸を締め付けるものがありました。兄弟とずっと一緒にいることが、彼の望みだったのに。

 プロレスでの栄光を望み、一番花のあった次男は、興業先で客死、そのあとを追ってチャンピオンを目指すことになった三男は身体的精神的苦痛から薬に走り、バイク事故により下肢切断、音楽活動を希望していた四男もプロレス界入りするが怪我に悩まされギターも弾けなくなり絶望して自ら死を選び、下肢切断を押して復帰した三男も結局自らの手で人生の幕を引く、という悲劇の連続はかなり来るものがあるけれど、それでようやく長男が父と決別することを決め、父の影響下から出て生きることができたというのが、少しだけ救い。

 三男が死を選んだあとのシーン、自分の足で、裸足で庭を歩いて行って、川を越えたところで兄弟たちと再会するシーンが(それはもう長男のせめてもの願望でしかないのだろうけれど)、とても美しかったです。

 

 実際には本作には一切描かれない兄弟がいたとか、興業で日本に結構来ていたっぽいところとかは、かなりカットされていて、お話的にはそれでとても美しくまとまっているのだけれど、往時のプロレスファンの感想は気になるところ。それらしい人、ちらほら劇場で見かけたので……。ジャイアント馬場とかアントニオ猪木とかは全然出てきません。

 

 あとばっきばきに鍛え上げたザック・エフロンね……筋肉ってそんなにつくんだ……。どうしてもそちらに目が行ってしまうけど、いろいろ複雑な気持ちを抱える長男の演技が素晴らしかったです。

 

 

 

 

 実在人物をモデルにした映画ということで、ちょっと『テッド・バンディ』を思い出したりもした。『アイアンクロー』は群像劇っぽくもありますが、長兄に絶対的にフォーカスしているので、一人の人物に焦点を当てた映画の主役、というところが共通してた、かな? というかそのぐらいしか共通点ないか。あと髪型……? 『テッド・バンディ』もすごかった覚え。ザック・エフロン、いい役者さんですよね……。