ちょっと気になっていたけどコロナで劇場公開中止になってしまってそのまま見ずじまいになっていた本作。劇場でかかるということで観てきました。

 人生大逆転のチャンスを目前に事故死してしまったジョーは死を受け入れられず、生まれる前のソウルが集まる世界に迷い込みます。そこで、断固として生まれようとしない頑固なソウル「22番」の生まれる準備を整えるためのメンターとして誤ってアサインされ、二人でなんとかそれぞれの望み通りの場所に行こうとするけれども……!?という珍道中。

 賢くて強くてとても怖がりな22番が生きようという気持ちを見つけられてよかったな~。ジョーのストーリーでは、何者にならなくても、なっていないように思えても、人生のいろんな場所にきらめく出来事があり、それでいいんだ、と言ってくれているようでした。若者の背中をそっと押しつつ、私のような中年には、そのままでいいんだよ、と肯定をしてくれるような、心温まる映画でした。

 ジョーは、ジャズピアニストになりたいという夢を抱きつつ、音楽教師をしていて、でもその仕事にもそれなりに真剣に取り組んでいて、カーリーという生徒にはドラムという「きらめき」を見つける手助けをしていた人で、明確な自覚はなかったにしてもそこにつながる一瞬一瞬が、ちゃんとジョー自身のきらめきだったんだよなぁ。そしてそれが、22番の「きらめき」を見つける(生まれる準備を整える)ことにもつながるんだなっていう。大きなことができなくても、夢だと思っていたことを成し遂げられなくても、そして夢を実現してしまったら期待が大きくなりすぎてて思ったほどでもなかったりしても、人生を大事に生きていくことが大事なんだな、っていう。

 ちょうどこういう内容がぶっ刺さる年齢で人生ですわ……。時々こうやって肯定してもらわないと、中年の危機に見舞われてしまう。

 あと、人はいかにたやすく他人の人生を、他人がその人生に満足していると決めつけてしまって、自分の悩みばかりにフォーカスするものか、というのもちょっと思い反省。

 

 ところで本作、映像がなかなか面白かったなと思いました。生まれる前のソウルの世界に、ソウルの導き役のような存在がいるのですが、ピカソの一筆書きみたいな感じで、その振り向き方とか形の変え方がなかなか凝っていたように思います。(ピカソよりももっと、これっぽい画風の人がいた気がするんだけどちょっと思い出せない。)あとカウンセラー・ジェリーの「だんまりギツネ~」がなんかよかったな……よかった……。

 他にも昔のSFみたいな表現があったり、そのあたりもなかなか楽しく観られました。

 

 吹替はジョーを浜野健太、22番を川栄李奈が演じていました。いずれも声優ではないので、どうかしら、と思いつつ鑑賞したのですが、どちらもすっごくよかったです! 浜野健太さんは在日ファンクというバンド活動が結構好きでして、その後役者さんとしてもお見掛けしていたのでそこまでの不安もなかったんですけど、ジョーの情熱的なしゃべりがすごいよかったな。川栄さんは絶妙に小憎らしくてかわいくて「人をイラつかさせられるからこの声で喋ってるの」という22番がぴったりでした。声優じゃない人がキャスティングされるときって、話題作りを優先していて全体のトーン台無しにすることがある気がしてたんだけど、最近はそうでもないのかな。そろそろ偏見を改めた方がいいのかもしれない。

 

 22番が思いがけなく「人生」を体験して、そこで感銘を受けたものを少しずつ取り置いていたり、感動を与えてくれた相手に、その時自分が一番大事に思っているものを分けたり、そういうシーンがよかったなぁ。新鮮な目で地上を、人生を体験している姿が、忘れがちな大事なことを思い出させてくれるようでした。