□『ダブル・ジョーカー』 柳広司 角川書店

 『ジョーカー・ゲーム』と一緒に、文庫化を待ちきれずに買ってしまいました。もちろん立て続けに読みました。

 陸軍という組織の中にあって、士官学校出でない民間人を候補生として採用し、「死ぬな、殺すな」をモットーとして掲げる情報勤務要員養成所、通称「D機関」。出身者の有能さで、諜報員の有用性は証明されたものの、民間人で構成されるD機関に大して、当然陸軍内部には大きな反感が生じます。
 D機関の対抗馬として、陸軍大学校出身者を候補生とする通称「風機関」が設立され、二者が同じ任務で対決するのが、書籍タイトルにもなっている「ダブル・ジョーカー」。同じ陸軍中佐である、風機関設立者の風戸との比較で、D機関を設立した結城の底知れない不気味さが際だちます。結城中佐の過去に何があったんだ。
 そんな結城中佐の過去を知る人(敵国軍人)が出てくる話や、長期間敵地に潜入するスパイの話、スパイをネタにした大がかりな詐欺を未然に防ぐ話、陸軍内部にあって敵国に協力する者を始末する話が収録されています。

 エントリーのタイトルにも引きましたが、D機関のモットーは「死ぬな、殺すな」。それは人道的見地から来るものではなく、平時にあっては「人の死」が人の注意を集めてしまうから。見えない存在であるべきスパイにとって、人を殺す、自死するというのは最悪の手段であり、そうならないように活動すべきだ。その見方に立って、通信手段として不自然な死体を残す敵国の協力者を、自分たちの仕事の邪魔になるからと始末するわけで。
 『ジョーカー・ゲーム』でも描かれていたそういう考え方や、「自分にはこのぐらいできて当然だ」という思いだけで訓練や任務をこなす一種傲慢で、でもどこか満たされないD機関員たちが面白いです。
 何ものにもとらわれず、ただ自分のみを信じて任務に臨む彼等でも、不慮の事故に遭うこともあれば、知らないうちに一緒に働く相手を信じすぎてしまうこともある。ただのスパイアクションや謎解きには留まらず、名前や素性、個性をを一切なくして、自尊心だけで生きていく彼等の心理描写が上手いなぁと思います。

 『ジョーカー・ゲーム』と同じく、読みやすく楽しめる作品です。
 結城中佐の過去話や、日米開戦後の話とかも読みたいなぁ。書いてくれること希望。

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