『喜劇 愛妻物語』
2020/9/13 MOVIX三郷 シアター⑤ E-8
試写状をなくしたため、
本公開後に実費で鑑賞。
同じ日に
を鑑賞後の3本目。
迫力の戦争映画
ホラー
に続き、下世話な喜劇
——と、全く毛色の異なる映画3本のハシゴは収穫で、
どれも寝落ちしませんでした!
とにかくなにしろ、『喜劇 愛妻物語』は、
『ミッドウェイ』『妖怪人間ベラ』とは打って変わって、
大いに笑いましたよ。
どうして笑えたかというと、
笑いの質が、
私が忌み嫌う三谷幸喜作品みたいに「やらせ」や作為ではなく、
恐らくは実話、実体験に基づくホンモノだから。
これはもう、
もしかしてひょっとして、
脚本/監督の足立紳の実体験を綴っただけかも。
最初に笑ったのが、
「(家庭用プリンタで)カラーで印刷しないでよ」
だったが、
とにかく全編「あるある」ネタで埋め尽くされ、
感心して鑑賞を終えました。
その反面、ズバリと本質も突いていて、
主人公(濱田岳)は売れないシナリオライターだが、
作品が認められて企画が進もうとしても、
必ず予期せぬ障害が生じて、
企画が頓挫してしまう。
これはなぜかというと、
本来は作品の核となる、
根幹部分であるはずのシナリオと、
それを紡ぐ主役のはずのシナリオライターが、
実際の制作現場では添え物や脇役に押しやられ、
軽視/過小評価が延々と続くため。
脚本家で真にクリエイティブな人なら、
小説やマンガ原作に頼らず、
自分オリジナルで話を創り出せるし、
パクリや亜流に陥ることもないんですよ。
ですがそういう完全独自路線って、
自信のない共同製作者たちの不安をあおるばかりで、
成功実例がないからと敬遠されてしまう。
だから真にクリエイティブな脚本家だって、
実現する企画は『喜劇 愛妻物語』みたいに、
うんと卑近な、庶民あるあるネタにならざるを得ないわけ。
もう少し具体的に言うと、
足立紳氏には、
『インターステラー』(2014)
級のオリジナル脚本をものにする才能があったとしましょう。
しかも『インターステラー』は、
兄クリストファーと弟ジョナサンのノーラン兄弟の共同脚本なのに、
しかも前段として『メメント』(2000)
『ダークナイト』(2008)
『ダークナイト ライジング』(2012)があったからこそなのに、
足立氏の場合は、
監督の兄弟や共同脚本家の助けもいらず、
独力で前例なしに、いきなり最終決定版の究極脚本を書き上げたとしましょう。
それを読んだ映画関係者が、
「これはすごい脚本だ!ぜひ映画化しよう!」
となるかといえば、さにあらず。
「予算がいくらかかると思ってるんだ。好き勝手に書きなぐりやがって」
「デタラメに無責任に書くなんて、邦画界の常識をまるでわかってないぞ、こいつは」
「資金回収のメドが立たない=ヒットが確約できない作品なんて、作るわけねえだろ!」
と芸術/創作的見地はガン無視で、
もっぱらソロバン勘定=経済的見地からだけで値踏みされ、
買いたたかれる。
そういうんじゃなくてさあ、ほらあのヒット作とか、
このヒット作みたいなやつで、
もっとこう、庶民観客にウンウンと頷いてもらえる、
できればうんと安上がりでできるやつをさ
↓
というわけで、
『喜劇 愛妻物語』みたいな小品しか実現しない。
わかります?
『インターステラー』級の脚本が書けても、
実現するのは『愛妻物語』がせいぜいという皮肉。
そこらへんもまた、業界事情を偽らず絶妙に伝えていますよ、
この映画。
こういう真相までさりげなく指摘しながらもしかし、
そうした構造不況に大胆に立ち向かうわけでもなく、
表向きは、その変えようのない現実に引きずられたまま、
もっと卑近な「あるある」ネタで埋め尽くしどおしで終わる。
それでも絶望、ドン底で終わらせず、
かすかな希望にすがって前進する姿で映画を結んだことは、
大いに評価できるんじゃないでしょうか。
俳優陣について触れておくと、
水川あさみって、
主演の映画だと、実にいい味出すんですよ。
玉木宏と共演の『殴者 NAGURIMONO』(なぐりもの・2005年9月23日公開)とか、
たしか『愛妻物語』と同じMOVIX三郷か、
2005年5月開館
MOVIXさいたま
2004年9月17日オープン
——のどちらかで、
駆け込みで何の予備知識もなく観ましたが、
意外な拾いものでビックリ。
今でも記憶に残っています。
『喜劇 愛妻物語』でも配役が絶妙で、
濱田岳も水川あさみも、
その他の「あんな人」も
「こんな人」も、
ドンピシャリなキャスティング。
レビューは大ウケ☆5つ評価とドッチラケ☆1つ評価に二極化してるが、
観客の心理状態や置かれた境遇に大きく左右されているよう。
私はこういう映画を、
しかめつらで「けしからん、笑えん」と受け取らず、
「いやあ、笑えた笑えた、たいしたもんだよ」
とまっすぐに受け取れる観客で居続けたいものです。
あなたはこの映画を笑える人か、
はたまたクスリとも笑えない人か、
ご自身でお確かめください。