「筆という名の刀」 第5章〈その4〉 | アディクトリポート

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トイレベンチャー/アディクト著
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ルインズウォー(遺跡戦争)/アディクト著

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筆という名の刀/アディクト著

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「筆という名の刀」は最終章が審査を通らず、サイトでは4章までの公開です。
第5章〈その1〉
〈その2〉
〈その3〉

〈その4〉

デジ絵との出会い

 達樹がデジ絵とかデジ絵師を知ったのは、ほんの偶然だった。
 2007年の深夜、フジテレビで、『デジ絵の文法』という番組が放送され、たまたまその1回目と2回目を目にしていた。その時は、「へえ、こんな世界もあるんだな」くらいにしか思わなかったが、今にして思えば、なぜかこの番組のことはよく覚えていた。
 この年の達樹は、また失業状態に逆戻りだった。もう四十歳近い自分には、その年齢に見合うだけのバイトや仕事といったものがなく、これはもう、あてがわれた仕事をこなして、決まった時給制で収入をもらうという労働形態では、自分はとうていやっていけないところまで追い詰められているのだと痛感した。
 それで、なにか他の人よりすぐれた、自分の才能や能力を生かした仕事に就く以外に残された道はないだろうと気づき、では自分の一番の才能はなんなのかと自問自答すると、やはり絵が描けるということでしかありえないと気がついた。
 それで達樹は例の深夜番組を思い出し、7月に同番組が一本のDVDにまとめてられて発売されると知って、これをあわてて買い求めてみた。
 テレビで偶然見かけた時には流し見していたが、さすがにお金を出してDVDでの鑑賞となると、達樹も元を取ろうと必死で集中することになった。
 一度見通しただけで全てが理解できたわけではなかったが、それでも大学の必修教科で水彩画と油絵、選択授業で日本画まで幅広く学んでいた達樹としては、全く絵の世界に疎い視聴者、ちょうど番組で紹介された何人かの完全独学組デジ絵師の仕事始めの頃よりは、理解の度合いも、読み取る観点も、かなり勝(まさ)っているだろうくらいの自負はあった。
『デジ絵の文法』を見終えてまず最初に達樹が抱いた感想は、これはずるい!というものだった。
 大学ではそれぞれの絵によって、使う絵の具から筆までことごとく異なり、さらに絵を描きつける素材も、紙から布まで多種多様だった。ところがデジ絵では、全てがタブレットと専用ペンですまされて、しかも水彩画風と油絵風が混在できる。
 もう一つずるいと感じたのは、いくらでもやり直しができるから、基本的に失敗というものが存在しないということだった。
 達樹が日本画の教授に習った時には、その教授が絵の究極といえば水墨画で、それは文学でいえば俳句や短歌のように、無駄な部分を全てそぎ落とした表現だからなのだと教わった。果たして達樹も水墨画のまねごとを試したことがあったが、一度描いたところは二度と修正やごまかしがきかない、書道に通じる真剣勝負に、なるほどこれは手強いものだと、あの教授の言葉を納得もした。
 それがどうだろう。デジ絵では、何度でも気に入るまでやり直しがしたい放題だし、これまでの伝統的な画家なら当然最も気を遣う、輪郭線からのはみ出しにも、はみ出た部分は後からいくらでも消去や修正が効くから、全く無頓着でいられるのだ。これなら作業時間が思い切り短縮できる。
 DVDを全て見終えた達樹は、とにかくこれは便利なものが発明されたし、自分もせっかく絵心があるのだから、この発明の恩恵にぜひともあずからせてもらおうと、早速機材から買い求めることにした。
 誰かがグラフィック志向ならWINよりMACだといっていたようなことを思い出し、わざわざデジ絵のためだけにハードとソフトを買った。スムーズな作業には豊富なメモリが欠かせないとか、プロなのだからPhotoshop(フォトショップ)も、初心者向けのエレメントではなく高価なクリエイティブスイーツにしようだとかを、パソコンに詳しい友人の言いなりで買いそろえたら、総額はあっという間に50万円を超えてしまった。
 それでもDVDの特典映像から察するに、デジ絵師は1年も仕事をすると、仕事場の環境、機材や部屋に始まって、果ては着ているものからメガネまで、確実に買い換えられるくらいには、経済的な成功も手に入れられるようだから、達樹もプロのデジ絵師になればすぐに儲かって元が取れるだろうと、楽観的に考えていた。

つづく

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