日本の友人から『ウェットフライの釣りがよくわからない』という言葉を耳にする。日本でイワナやアマゴ狙いの小渓流での釣りではウェットフライを使う場面が少ない、あるいはウェットフライの釣りに不向きなのかもしれない。
自分も当初はドライフライの釣りばかりをやっていた。
そういう自分がウェットフライに嵌ったのは過去一度のきっかけだった。
日々の多忙な仕事の合間のわずかな時間を見つけて、しかも大阪から長時間の運転で釣りにでかける。しかし、実際に川に着いて釣りをはじめても、ドライフライに対しての反応が無い。こんな非効率的な話があるか?やってられんわと思ってしまった。
それなら、水中に潜む魚を引きずり出すような、沈める毛鉤のほうが釣れる確率が高いはず。
そんなある日、三重県の川に釣りに行った。
その川はダムの上流と下流が釣りの区間に設定されている川で、アマゴだけでなくニジマスも放流している場所だった。
夕方近くなってから、魚がライズをはじめた。あちこちで魚の波紋が起きている。
しかし、ドライフライには反応しない。手持ちの毛鉤をあれこれ換えてみたが、それでも反応しない。根本的にドライフライが合っていないのだ。
しかたがないので、毛鉤箱の中にひっそりと一本あったウェットフライ、たしかオレンジ&パートリッジだったと思うが、それをティペットに結んで上流から流してみた。一投目でニジマスが釣れた。その後も、上流から流す毛鉤に何度も何度も釣れた。
そのうち、魚に毛鉤が見切られたのか、アタリが止まった。
そこで、次に、川の流れを読んでまっすぐに丁寧に毛鉤を流した。すると、再び釣れた。このとき、ウェットフライはこういうものかと、なにかを掴んだような気がした。
それからはウェットフライを学ぶことに集中した。竿もウェット向きのサワダの竿を入手し、ヘタクソながらもウェットフライを何種類も巻いた。
その頃からウェットフライをできるだけ使うことを意識して、ドライフライとウェットフライの使用頻度は1:1程度だった。
もう20年ぐらい前の話である。
ある冬の日、天川の冬季管理釣り場で釣りをした。大小の石が複雑な流れを作っている。管理釣り場だから当然魚は必ずいる。
石と石の間の流れの淀みに毛鉤を投げ入れ、その下流へ流れに沿ってラインを引き出して毛鉤を流していくと、かなりの確率で魚が釣れた。同行した友人に対して申し訳ないぐらいバンバンつれた。それと同時にウェットフライの威力を知ることができた。
以後、次第にドライフライを使うよりはウェットフライを使う割合が増えていった。そして、いつのまにかウェットフライしか使わなくなった。その後、渡米したが、今では、数本数種類のウェットフライだけで丸一日~数日の釣りは間に合ってしまう。
あれからかなりの時間が過ぎたが、ウェットフライの釣りに関して、いろんなことに気付いた。
ウェットフライの釣りは、ナチュラルドリフトなんてそれほど考えなくてよい。ドラグがかかってようが、毛鉤がラインにひっぱられていようが別にかまわない。魚はそんな状態でも食いついてくる。むしろ、ラインにテンションがかかっているほうがアタリがわかりやすい。
キャスティングにしても、ドライフライの釣りの場合、細く紡錘形の鋭いループ、いわゆる「タイトループ」が理想とされ、そのほうが推進力が生まれ遠くに毛鉤をなげることができる。それに対して、ウェットフライの場合は、二つの毛鉤、ドロっパーシステムを使っている場合が多いので、毛鉤がラインに絡まないようにタイトループとは真逆の”ワイドループ”で毛鉤を投げるのが理想である。しかも、魚が居着いているであろう場所に直接毛鉤を投げるというよりは、手前の流れから毛鉤を水の流れに乗せて送り込むので、ロングキャストなど必要はない。最低限の流れに届くだけのキャストさえできれば良いのである。
気難しいキャストやループなど気にすることなおく、キャストしたあとに忙しなくメンディングもあまりしなくて良く、毛鉤を流れに乗せて送り込んで回収するだけのなんと楽な釣りか。
#20より小さい、老眼が出てきている人には苦行でしかない小さい毛鉤を巻くにしても最小サイズでおよそ#16。
まとめると、
魚が絶対いる場所、冬季管理釣り場や流れのある管理釣り場、キャッチアンドリリース区間などで、まず、『ウェットフライでも釣れるんだ』という経験をするのが大切だと思う。これが一番大事。
それ以外にないかな。
このブログを書いてきたことで、なにもウェットフライの釣りのほうが優位であるとか、かっこいいとか、そんなことを主張するつもりはない。釣りなんて所詮趣味で遊びなんだから、好きなやり方で好きなようにやればいいのである。せっかく忙しい日常から逃げ出して、あるいは、家族の白い目を気付かないように釣りに行くのだから、気楽にやればいいだけの話である。