角を曲がってきたのは、自転車に乗った男の子でした。小学一年生くらいに見えます。自転車は本格的なマウンテンバイクで、おしゃれなヘルメットを着けています。カゴの中の水筒がカタカタ鳴っています。どこか遠くへ行くのでしょうか。

間違いなくこの子が先ほど話していた街中で唯一の小学生でしょう。
こちらを見向きもせず、ぎこちないですがひたすら前を向いてこいでいます。

「(今日、最初に見た人間がさっき話していた有名な(??)小学生とは。)」

思わず声をかけようかと思いましたが止めました。
この状況だと私はどう考えても最近よく各地に出没している変質者にしか見えません。

「(一人ぼっちだけど頑張れよ!)」「(いや、この街の将来のためにがんばってくれよ~!)」
心の中でそうエールを送りました。

そして小春日和の中30分ほどかけて街中を歩きましたが、結局出会ったのはその子と立ち話をしていたおばあさん2人、そして家の修繕をしていたおじいさんの計4人だけでした。

銀行の隣にある小さな公園に出ました。子供の頃みんなでよくおにごっこや缶けりをした場所です。洒落た洋館の銀行にも昔はひっきりなしに人が出入りしてました。チョークでよく落書きをした赤レンガ塀もそのままです。

突然、パーッと当時の雑踏の音や遊び声が頭の中によみがえりました。映像ではなく音です。懐かしさが一気にこみ上げてきます。

今は銀行も廃業しており公園も無人です。中央に置かれたすべり台がとてもむなしく感じます。

「(どうしてこんなことになってしまったんだろう。日本の国は発展を続けてきたはずなのに。)」

「(しかし、もしここから不妊治療施設に通うとしたら大変だな。バスも一日数本だから自家用車しかない。最寄りの施設まで片道2時間はかかるな。)」

「(これからも知恵を絞って遠方からの通院回数を減らすようなシステムを作っていかねば。こんな過疎地に居住していても最高の不妊治療を享受できるようにしたいなあ~。)」と静寂の中で思うのでした。 (次に続く)