第二回「生殖補助医療」へのこだわりの起点(2)
(前回からの続き)それから教授と二人でしばし英訳タイムに入りましたが、これはもはや英語力、英語の感性の問題で、非常にきれいでセンスのある英語を使いこなす教授に英語が苦手な私が意見を述べる余地は全くありません。それよりも、そもそも教授は日本生殖医学会のトップだった方ですから、1000%私が出る幕ではありません。

でもその時はなけなしの英語の感性と呼ばれるものを使い「Assisted Reproductive Technologyの日本語訳」を本当に真剣に考えたのです。 

「そのまま訳したら補助生殖医療となるし、生殖補助医療案を採用すると、現在使われている生殖医療という言葉を割ってしまうことになるし、やっぱり補助生殖医療かな。」
「でも日本語にすると先頭の補助が強すぎて聞こえるな。」
「生殖医療という言葉から離れてみると、ニュアンス的にも生殖を補助する医療だから、わたし的には生殖補助医療かな。」‥等。

10分か15分ほどたってからでしょうか、結局予定通り私がどう言ったかは全く関係なくおもむろに教授がしっかりした口調で言いました。

「よし、京大は生殖補助医療の案の方でいく。ありがとう!」

「はい。(....と言われても私は何もしてないけど....)」
  
そして週がかわったある日のことです。教授が廊下で出会った私を呼び止め言いました。

「きみね、あれね、やはり生殖補助医療の方になったよ。他の教授もみんな同じ意見で、京大の案を出す前にほぼ決まっていたような状態だったんだ。」
 
「あっ、そうですか!お疲れ様でした!(....やっぱり。補助生殖医療だとちょっと補助が強すぎるからな~....)」
 
話はこれで終わりです。何のことはない話ですが、私にとってはこの教授室でのほんの10分間のやりとりがきっかけで、「生殖補助医療」という日本語が誕生した時に立ち会えたという思いが今でも残っているのです。(次回に続く)