旧優生保護法に対する最高裁大法廷判決
令和6年7月3日、最高裁大法廷は、旧優生保護法の不妊手術規定について違憲判決を下しました。
最高裁は、昭和23年にGHQ占領下で制定された旧「優生保護法」のうち、特定の疾病や障害を持つ者やその配偶者・4親等内の血縁関係にある者に対する不妊手術を定めた規定について、憲法13条・14条違反であるとし、さらに民法に基づく損害賠償請求権の20年間の除斥期間の適用を排除し、原告らの国に対する賠償請求を認めました。
(※なお「GHQ占領下で制定された」と付しましたが、判決文はGHQについて触れていません)
強制不妊手術を受けた方への救済法は、5年前、平成31年4月24日に成立していますが、今回の判決で確定した慰謝料額(1300~1500万円)と、救済法に基づく一時金支給額(320万円)で開きがあり、今後法改正の可能性も考えられます。
旧優生保護法は憲法違反 国に賠償命じる判決 最高裁(2024年7月3日、NHKウェブサイト)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240703/k10014499611000.html
私がこの件について指摘したいこととして、
1 人口抑制のための産児制限運動の一環であること
旧優生保護法は、そもそもアメリカ人サンガーが提唱した「産児制限運動」の一環として、戦後、産児制限運動家たち(主に左派)の活動によって、人工妊娠中絶を合法化したものです。ただし今回憲法違反とされたものは、人工妊娠中絶自体ではなく、特定の疾病障害を持つ方やその配偶者・親族への不妊手術の部分です。
2 GHQの占領下で制定された法律であり、GHQが関与していること
人口増加策をとる戦前は、日本で産児制限は採用されず、戦後のGHQ占領下で、日本の人口抑制政策として、GHQの関与のもと、制定されました。GHQは以下のとおり、表に出ない形で関与してきました。
・産児制限運動家たちの活動支援
・産児制限に関する情報を日本のメディアを通して普及させることに尽力
・優生保護法による人口増加を抑制するための中絶適応範囲の拡大を承認
3 最高裁判事の一人も指摘していますが、衆参全会一致での成立であること
草野耕一最高裁判事が指摘するように、当時衆参全会一致で反対する議員がなく、「誰もが合憲と信じて疑わないことがある」ということです。これは新型コロナワクチンでも明らかになりましたが、その時代の「常識」とされるものが正しいとは限らないということです。
4 20年の除斥期間を排除する法理が定式化
「(損害賠償)請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されない」との一般化した法理が採用されたことで、今後20年を過ぎた請求もより争われやすくなると思います。
産児制限運動(コトバンク)
https://kotobank.jp/word/%E7%94%A3%E5%85%90%E5%88%B6%E9%99%90%E9%81%8B%E5%8B%95-838603#goog_rewarded
山本起世子「占領下日本における人口・優生政策」(園田学園女子大学論文集 第51号(2017. 1))
令和6年7月3日最高裁判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/159/093159_hanrei.pdf
「本件において注目すべきことは、本件規定の違憲性は明白であるにもかかわらず、本件規定を含む優生保護法が衆・参両院ともに全会一致の決議によって成立しているという事実である。これは立憲国家たる我が国にとって由々しき事態であると言わねばならない。なぜならば、立憲国家の為政者が構想すべき善き国家とは常に憲法に適合した国家でなければならないにもかかわらず、上記の事実は、違憲であることが明白な国家の行為であっても、異なる時代や環境の下では誰もが合憲と信じて疑わないことがあることを示唆しているからである。」(21頁)