企業価値担保権

 

事業性融資推進法の成立により、企業価値担保権の制度が創設されることとなりました。

企業価値担保権とは、「無形資産を含む事業全体を担保とする制度」とされており、従来のように不動産や機械や特許など個々の財産を担保に入れるのではなく、企業全体を担保に入れるという制度のようです。

 

金融機関やファンドなどが貸主、新たな信託会社が担保権者となり、借手の商業登記に登記されるようです。

担保権の実行は裁判所の監督下で事業譲渡がされるそうです。

 

事業性融資の推進等に関する法律案 説明資料

https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/02/setsumei.pdf

企業価値を担保に融資、成長融資促す新法が成立(日経ニュース)

 

 

思えば、民法の大家、我妻榮教授がかつて55年前に、企業自体の担保化について予見した文章を書かれていました。

担保物権法の教科書の、昭和43年10月の「新訂版の上梓に際して」と題するはしがき5頁の中で、次のように書かれています。

 

「私は、近代担保物権制度の進軍は、ついには企業自体を担保化するに至るであろうが、その時には、資本家、労働者、中小企業者、その他この企業に関係する多くの社会層の人々の利益のために企業を維持すべしという理論が正面に押し出され、近代抵当権の諸特質もこれと調和するための譲歩を求められるだろうと考えていたのだが、会社更生法にはこの思想の萌芽はすでに相当の成長を示しているように見えないではない。」

「ともあれ、担保物権制度を資本主義経済の進展を支える法律制度の一環として理解することは、近代抵当制度の本流と反流の調和を発見しようとする枠の中ではとうてい処理することができないものになっている。担保的な作用を営む人的・物的のすべての制度を総合し、企業の維持・発展という理想と関連させながら、之に新たな構成を与えることを試みなければならない時となっているように思われる。」

(我妻榮「新訂担保物権法(民法講義Ⅲ)」(岩波書店))

 

我妻榮教授の「民法講義」と聞くと、法律家の方々は懐かしく感じられるかもしれませんが、今から55年前に、すでに「企業自体の担保化」を想定し、そのときには、「企業に関係する社会層の人々の利益のために企業を維持すべし」という理論が強まり、貸手による担保権の要求が譲歩を求められるのではないか、という読みをされていました。

 

今回の企業価値担保権でも、単に貸主の利益だけではなく、その企業にかかわる役員、労働者、取引先、またその企業の存在によって救われている、多くの日本国民の利益のために、貸手や担保権者(ファンドや信託会社など)の利益が譲歩を迫られる、という見方は私も正しいと思います。

 

神谷代表も国会質問で指摘していましたが、この制度によって我が国中小企業の利益や国益が損なわれないよう注意しなければなりません。