国際保健規則改正の内容について

 

昨日6月1日(日本時間6月2日)、WHOは、WHO総会において国際保健規則の改正で合意し、パンデミック条約は1年交渉継続と決定したと発表しました。
なお、国際保健規則改正案に対しては、加盟国は10ヶ月以内に拒絶・留保の意思表示をすることができ、12ヶ月後に効力が発生します(規則59条)。


第77回世界保健総会 – 毎日の更新: 2024年6月1日

 

International Health Regulations (2005) 2024年6月1日付

https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/WHA77/A77_ACONF14-en.pdf

 

この改正には、改正案の通知時期など、重大な手続的な問題が残っている可能性があります。

それとは別に、個人的に一読して、国際保健規則の改正内容は、以下の点が主なポイントに見えます。

 

・国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に加え、「パンデミック緊急事態」(pandemic emergency)の創設(12条、1条)

・WHOがワクチン配分生産調整メカニズムを主導(13条8項)

・締約国の協力支援義務(13条9項)、WHO支援、能力開発、資金協力義務(44条2項の2、付録1の4項)

・IHRの実施委員会の創設(54条の2)

 

つまり、WHO勧告自体は「non-binding advice」(拘束力のない助言)のままですが、改正により、各締約国に対し、WHOへの協力・支援、能力開発、資金提供の義務などが課されています。

これをどう解釈するかが問題です。私は、努力義務に過ぎず、あくまで各国の意志と判断に委ねられていると解すべきだと考えますが、政府がこの改正内容を理由に、WHOの要請や勧告を安易に受け入れるようになると、ますます国家の主体的な判断が失われかねません。少なくとも、WHOの権限を強化し、締約国に負担を課す方向の改正であるといえるでしょう。

 

しかも、IHRの実施委員会の創設により、締約国は、WHOから国際保健規則(IHR)を実施するためにますます圧力をかけられる(これを対話や調整と表現されようとも)ことになりかねません。

 

また、「パンデミック緊急事態」の創設によって、WHOが要請や勧告のできる範囲がより広がっています。

 

この改正について、手続的問題、内容の問題といった観点から、大いに議論が必要です。

 

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(主な改正条文の試訳)

 

12条4項の2:事務局長が第4項に従って、ある出来事が国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成すると決定した場合、事務局長は、第4項のa)からe)までの小項に含まれる事項を考慮した上で、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態がパンデミック緊急事態を構成するかどうかも決定するものとする。

 

13条8項:WHOは、パンデミック緊急事態を含む国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の間、締約国を支援し、対応活動を調整するものとする。医療製品への公平なアクセスを促進するため、この支援には、必要に応じて、相互に合意された条件での技術移転などを通じて医療製品の公平な割り当てと分配を促進するメカニズムやネットワークとの調整が含まれるものとする。前述のメカニズムとネットワークには、地域的なものや関連する国際協定に基づいて設立されたものが含まれるが、これらに限定されない。

 

13条9項:本条第5項および本規則第44条第1項に従い、締約国は、自国の国内法および利用可能な資源に従って、また他の締約国またはWHOの要請に応じて、可能な限り最大限に協力し、WHOが調整する対応活動を支援するものとする。これには以下が含まれる:
(a) 本条第8項に概説されている措置の実施においてWHOを支援すること。
(b) それぞれの管轄区域で活動する関連する非国家主体と連携し、奨励して、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に対応するために必要な医療製品への公平なアクセスに貢献すること。
(c) 公平なアクセスを支援するため、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に対応するために必要な健康製品に関する政府資金による研究契約の関連条件、および該当する場合はこれらの製品および技術に関する価格政策に関する情報を公表すること。

 

44条2項の2:本条第 1 項 (c) に従い、締約国は、次の事項について協力することを約束するものとする。

 (a) 既存および将来の二国間、準地域、地域および多国間の資金調達メカニズムを含むすべての関連ソースを通じて資金を動員し、必要に応じて、また第 13 条第 1 項 bis に概説されている国内資金を補完して、特に開発途上国が本規則の実施において互いに支援できるようにする。

 (b) 既存の資金調達機関および資金調達メカニズムのガバナンスおよび運用モデルが、本規則に関連する開発途上国のニーズおよび国家の優先事項に対応するように奨励する。

 (c) パンデミックの予防、準備および対応に関連する将来の国際協定で確立される可能性のある調整および/または資金調達メカニズムを通じて、本規則の実施を支援するために必要な資金を確保する。 

(d)発効から2年後に本項の規定の有効性を検討し、現在または将来の国内資金、既存および新規の二国間、準地域、地域および多国間の資金調達メカニズムでは満たされていないIHR実施の資金調達における特定されたギャップに対処する。これには、必要に応じて、特に開発途上国に対象を絞った補足的な資金を提供し、本規則で要求される能力を構築、強化、維持するための専用資金調達メカニズムの設立を含む。

 

付録1の4項:第44条に基づき、締約国は、最大限可能な範囲で、WHOを支援しつつ、中核的能力の開発、強化、維持に協力し、相互に支援することを約束する。

 

 

※6/3 内容を一部訂正しました。