国際保健規則改正案の行方とパンデミック条約

 

WHOによると、国際保健規則の改正案が5/18に大筋で合意(agreed in principle)され、今月27日から6月1日までの総会で採択予定のようです。
本年4月17日時点での改正案は公開されましたが(厚労省ウェブサイトの注11)、最終案は分かりません。

https://www.mhlw.go.jp/stf/kokusai_who_ihr.html

https://japan-who.or.jp/news-releases/2405-39/

 

昨年2月6日付で公開されている改正案では、勧告(recommendation)の定義から「non-binding」が削除され、新13A条に「締約国は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が発生している間は、(略)それぞれの国際的な公衆衛生上の対応について WHO の勧告に従うことを約束する。」(参政党試訳)との条文があり、ほかにも43条6項など、加盟国はWHOの「勧告」に従う義務を負うかのような記載がありました。

 

昨年3月21日には、中露が共同声明で「双方は、国際機関の枠組みの中で法的拘束力のあるメカニズムを形成することにより、感染症の予防と管理、並びに生物学的脅威に対する早期警戒と対応における各国の主権的権利を制限しようとする試みに共同で反対する」(私訳)と「法的拘束力のあるメカニズム」による「主権的権利の制限」にわざわざ反対を表明するなど、各国も警戒したわけです。

https://www.gov.cn/xinwen/2023-03/22/content_5747726.htm (4の第7段落)
 

「国際保健規則改正が主権制限につながるなど、陰謀論だ」という言説もありますが、そうなら中露もわざわざあのタイミングで反対声明を出したりしません。

 

本年4月17日の改正案では、従来の新13A条などのWHOの勧告に従う義務といった直接的な表現は見当たらず、加盟国をWHOの勧告に従わせる当該条項案は、合意に至らなかった可能性が高いといえます。

第1条で「勧告(recommendation)」の定義も「non-binding advice」との表現に戻っています。

 

しかし、13条5項「WHOの要請があった場合、締約国は、自由に使える手段と資源の範囲内で可能な限り最大限の範囲で、WHOが調整した対応活動への支援を提供するものとする。」(私訳)や、「9.本条第 5 項及び本規則第 44 条第 1 項に従い、締約国は、自国の国内法及び利用可能な資源に従い、他の締約国又は WHO の要請に応じて、可能な限り最大限の範囲で、以下を通じて相互に協力し、WHO が調整した対応活動を支援するものとする。」(私訳)という条項が追加され、「可能な限り」「最大限の範囲で」WHOの要請に応じるものとされており、努力義務と解釈してよさそうですが、別の解釈をとる方もいるかもしれません。

https://apps.who.int/gb/wgihr/pdf_files/wgihr8/WGIHR8_Proposed_Bureau_text-en.pdf

 

最終的にどのような案が提出されるかは予断を許さないと言えます。
 

パンデミック条約はまだ交渉継続とされているようです。これも総会に提出される可能性があります。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page23_004456.html
https://jp.reuters.com/world/europe/4LRGBTQJVVONTIO36ONUIMDBBE-2024-05-10/