衆院補選東京15区の政見放送日時(深夜早朝)は適法なのか

(長文です)

 

1 政見放送(テレビ)が深夜1時台・4時台・早朝6時

衆院補選の東京15区の政見放送は、以下の日時に放送されました。放送時間は1つの国政政党ごとに9分間です。
問題なのは、テレビ放送の時間が、民放で深夜1時40分、深夜4時25分、NHKでも早朝6時00分という時刻が設定されたことです。
・NHKテレビ 4月25日(木) 6:00~6:30

・フジテレビ 4月22日(月) 4:25~4:55

・ニッポン放送 4月22日(月) 1:40~2:10

・NHKラジオ 4月19日(金) 12:30~13:00   


政見放送及び経歴放送の予定(衆議院議員補欠選挙(東京都第15区))(東京都選挙管理委員会事務局ウェブサイト)

 

2 国政政党候補者の政見放送する権利

政見放送する権利は、公職選挙法150条1項で認められた、国政政党の候補者の権利です。

「候補者届出政党の候補者は、…公益のため、その政見を無料で放送することができる」と定められています。

国政政党の候補者でなければ衆院小選挙区の選挙で政見放送できないのは、平成6年の法改正で定められたルールであり、最高裁では平成11年11月10日に合憲とする大法廷判決が出されており、このルールで衆院小選挙区の選挙を行ってきました。

 

衆院小選挙区の候補者で政見放送をできるのは、公職選挙法上の「候補者届出政党」、いわゆる国政政党に限られます。

今回は、東京15区では、参政党、立憲民主党、日本維新の会の3つの政党の候補者のみでした(無所属や国政政党でない候補者はできません)。

したがって、国政政党である参政党の候補者にとって、衆院補選で政見放送がテレビで放映され、多くの有権者に知られることは、公職選挙法のルールにのっとれば当然期待すべきことでした。

しかし、その放送時間が、真夜中や早朝に決定されていたことは、大きな問題です。

 

3 政見放送の日時を決定するのは誰か

では、政見放送の日時は、誰が決定するのでしょうか。

 

政見放送の日時は「放送の回数、日時その他放送に関し必要な事項は、総務大臣が日本放送協会及び基幹放送事業者と協議の上、定める。」(公職選挙法150条9項)との規定により、「政見放送及び経歴放送実施規程」〔平成6年11月29日自治省告示第165号〕が定められています。

 

そして放送時間帯の決定は、NHKと基幹放送事業者(いわゆるテレビ局)が決定して、選管に通知することになっています(同規程12条1項)。

 

4 政見放送の時間帯への配慮義務 

それでは、テレビ局は、今回のように深夜や早朝に放送しても許されるのでしょうか。

 

この規程12条2項には、「日本放送協会及び基幹放送事業者は、政見放送の予定の日時を定めるに当たっては、当該選挙の期日の2日前までに政見放送が終了するように努めるとともに、政見放送がなるべく効果的に行われるように、放送時間帯の決定について配慮しなければならない。」と規定されています。

 

つまり、2つのことが決められています。

① 選挙期日の2日前までに政見放送が終わるよう努める

② 政見放送がなるべく効果的に行われるように、放送時間帯の決定について配慮しなければならない

 

ここで①については、今回、投票日の2日前までに放送されています。

問題は②です。放送時間帯について、「なるべく効果的に行われるように」「配慮しなければならない」とあり、NHKと放送事業者は、こうした「配慮義務」を負っていることが明白です。

では、今回の放送時間帯が「効果的」だと「配慮」されましたか。配慮義務が尽くされたのでしょうか。

 

深夜1時40分、深夜4時25分、早朝6時開始のテレビ放送が、「効果的」な「配慮」とはとても考えられません。

東京15区(江東区)居住の有権者が、月曜のその時間帯にテレビを見る人は極めて稀であり、どう考えても、多数の有権者が見る時間帯ではありません。

 

5 同時に行われた島根1区・長崎3区の政見放送の放送時間帯はどうなのか

他の衆院補選では、テレビも午前10時台、午後3時台、NHKも午前7時半と、日中の時間帯に放映されています。

 

(島根1区)※放送されたのは自由民主党と立憲民主党

・NHKテレビ 4月25日(木) 7:30~7:50

・さんいん中央テレビ 4月22日(月) 15:15~15:35

・山陰放送 4月19日(金) 10:30~10:55
・NHKラジオ 4月19日(金) 12:30~12:50

 

(長崎3区)※放送されたのは立憲民主党と日本維新の会

・NHKテレビ 4月25日(木)7:30 ~ 7:50 

・長崎放送 4月21日(日)15:00 ~ 15:25
・長崎文化放送 4月23日(火) 10:51 ~ 11:16 

・NHKラジオ 4月19日(金) 12:30 ~ 12:50

https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2024/04/1713343185.pdf

 

6 候補者の「政見放送の権利」の侵害ではないか

このように、東京15区の衆院補選では、政見放送の時間帯について、政見放送及び経歴放送実施規程12条2項の効果的な配慮が全くされず、むしろ大多数の有権者が見ることができない時間帯に決定されました。

これにより、NHKと放送事業者が放送時間帯決定に関する配慮義務に違反し、国政政党候補者が有する、公職選挙法150条1項に基づく政見放送を行う権利が侵害されたのではないか、と考えざるを得ません。

 

皆様はどうお考えになりますか。

深夜1時40分、深夜4時25分、早朝6時開始のテレビ放送で、政見放送が効果的に行われるよう配慮されていますか。

私はとてもそうは思いません。

 

今の政見放送は、NHKと民間の放送事業者が、放送日時を一方的に決定することができる仕組みになっています。

したがって、不合理な時間帯にならないよう規程で、「配慮義務」が課せられていますが、その配慮義務が守られなかった、ということになります。

 

放送事業者(テレビ局)側の言い分はあるのでしょうか。衆院補選があることは1か月以上前の3月15日には確定していました。それぞれの局で、30分間の放送1回だけを行うのに、時間枠が取れなかったという言い訳は通用するのでしょうか。


私がこの問題が重要だと思うのは、既に国政政党として名前が知られている既存政党はともかく、参政党は、国政政党となって初めての衆院選であり、国政政党として初めての政見放送だったわけです。

それなのに、他の衆院補選の選挙区とも全く異なり、東京15区だけ、深夜早朝の時間帯に放映されており、政見放送実施規程の配慮義務も完全に無視されています。

 

どういう理由で東京15区だけ深夜1時台・4時台・早朝6時という時間帯が決定されたのでしょうか。

これは、公職選挙法の政見放送の効果を無にするに等しく、テレビ局が、国政政党(参政党)の候補者の政見放送の権利を侵害したのではないか、と私は考えます。

 

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〇公職選挙法〔昭和25年法律第100号〕

(政見放送)

第150条 衆議院(小選挙区選出)議員…の選挙においては、それぞれ候補者届出政党…の候補者は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び基幹放送事業者(…)のラジオ放送(…)又はテレビジョン放送(…)の放送設備により、公益のため、その政見(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては、当該候補者届出政党が届け出た候補者の紹介を含む。…)を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は次に掲げるものが録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。
一 候補者届出政党

(略)
2 前項各号に掲げるものは、政令で定めるところにより、政令で定める額の範囲内で、同項の政見の放送のための録音又は録画を無料ですることができる。
3 (略)
4 第1項の放送のうち衆議院(小選挙区選出)議員の選挙における候補者届出政党の放送に関しては、当該都道府県における届出候補者を有する全ての候補者届出政党に対して、同一放送設備を使用し、当該都道府県における当該候補者届出政党の届出候補者の数(12人を超える場合においては、12人とする。)に応じて政令で定める時間数を与える等同等の利便を提供しなければならない。
5~8 (略)
9 第1項から第5項までの放送の回数、日時その他放送に関し必要な事項は、総務大臣が日本放送協会及び基幹放送事業者と協議の上、定める。(略)

 

※なお、「候補者届出政党」の定義は公職選挙法62条1項が引用する86条1項で定められています。

 

○政見放送及び経歴放送実施規程〔平成6年11月29日自治省告示第165号〕

(政見放送の予定の日時の通知等)
第12条 日本放送協会及び基幹放送事業者は、あらかじめ政見放送の予定の日時を定めて、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に通知しなければならない。
2 日本放送協会及び基幹放送事業者は、政見放送の予定の日時を定めるに当たっては、当該選挙の期日の2日前までに政見放送が終了するように努めるとともに、政見放送がなるべく効果的に行われるように、放送時間帯の決定について配慮しなければならない。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000895713.pdf