本日、長崎市長の平和宣言を聴いた。
核兵器の世界的な廃絶を願う日本人牧師のことばを引用されたが、
これは素晴らしかった。
しかし、そのあと、核兵器禁止条約への日本の批准や締結を求めるばかりであり、
なぜこんなに一面的な話かできないのだろうかと、疑問に感じた。
1 核保有国に対する訴えが弱いこと
第1に、目下の状況で取り上げるべきは、核兵器保有国の核保有の廃止である。
昨年度の防衛白書記載の数値によれば核弾頭数(単位:発)の順に並べると、以下の
とおりになる。
ロシア約4330
アメリカ約3800
フランス300
中華人民共和国約290
イギリス200
パキスタン150-160
インド130-140
イスラエル80-90
北朝鮮20-30
また、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所が本年6月14日に発表した
調査結果によれば、核弾頭数は以下のとおりである。
ロシア6255(120減)
アメリカ5550(250減)
中華人民共和国350(30増)
フランス300
イギリス225(10増)
パキスタン165(5増)
インド156(6増)
イスラエル90
北朝鮮40-50(10増)
しかも、長崎市長には、イギリスの核保有増加には言及していたが、
中華人民共和国の大幅な核兵器増加には一切言及しなかったのはなぜか。
また、これらの国々は、いずれも核兵器禁止条約を一切批准していない。
まず、核兵器保有国が批准・締結しない限り、核兵器禁止条約は単なる画餅に終わる。
核兵器禁止条約を批准・締結すべきなのは、これらの核保有国であって、
日本を含む、それ以外の国々ではない。
核兵器保有国こそ真っ先に批准すべきである。
しかしながら、長崎市長は、日本政府がまずこの条約を批准せよと繰り返し求めるが、
外国に対しては、米露がまず核兵器削減に踏み出すことを求める、と述べたに過ぎない。
なぜ外国に対してはそんなに及び腰なのか。米露中仏英をはじめとする核兵器保有国
すべてが直ちに核廃絶し、核兵器禁止条約を締結せよと、なぜ言わないのか。
2 原爆被害の補償は日本政府でなく米国に求めるべきであること
また、原爆投下の真相・責任追及を行うべきであること
第2に、原爆被害の補償について、日本政府にしか求めていないことである。
原爆を投下したのはアメリカであり、まず、被害の補償・救済を求める相手はアメリカである。
なぜアメリカに求めないのか。
長崎市長は日本政府に救済を求めるだけで、真の責任者に対しては何も言わない。
原爆投下の真相を追求し、犯人を国際法違反で処罰し、せめて補償を求めるくらい、なぜ言わないのか。
なぜそんなに、核開発したグループ、核兵器使用を決定したチャーチルやルーズベルト、投下の際の大統領であるトルーマンなどに対して、何の責任追及もしないのか。
3 間接的な形であれ、いかなる核恫喝・核による威嚇を絶対に許さないことへの言及が足りない
第3に、間接的なかたちではあるが、中国共産党より、我が国に対する核兵器使用の威嚇が
示唆されたことである。
2021年8月1日の「ニューズウィーク日本版」によれば、
「中国北西部(陝西省宝鶏市:引用者注)の共産党委員会が日本を標的とする核攻撃動画を
ネット上で再公開した。この動画は7月11日に中国の動画投稿サイト・西瓜視頻に
個人のユーザーがアップし、広く拡散したもの。いったんは削除されたが、地方当局による再公開で
またもや多数の「いいね!」を集めている。」
と、個人ユーザーの日本に対する「核攻撃」を求める動画の投稿を再公開したことが述べられている。
動画では、次の主張が行われている。
「日本を核先制不使用の例外とすることで、われわれは日本と世界に警告できる。
祖国統一を含め、わが国の内政問題に日本が軍事介入すれば、核が使用され、
日本が無条件降伏するまで使用され続けることになる、と」
これは、中国共産党による公式見解や公式発表という形ではないから、中国共産党の見解とする
には当たらない。
しかし、中国政府は、我が国の領土である尖閣諸島の領海に繰り返し、中国海警の船を
連日のように不法侵入させている。
また、麻生太郎副首相兼財務相が7月5日に行なった講演で、
中国軍が台湾に侵攻する「台湾有事」の場合「存立危機事態」に該当し「集団的自衛権の行使」も
あり得ると述べたのに対し、中国政府は、外務省の趙立堅副報道局長が、麻生大臣の発言を
「誤っており、危険だ」と非難し、過去の日本の侵略の歴史にも触れて
「現在の中国はすでに当時の中国ではない。いかなる方式であっても台湾問題に介入することは
絶対に許さない」と語った。
このような背景での、宝鶏市の共産党委員会による「核攻撃」の動画再公開であるから、
日本に対して、婉曲的な形ではあるが、核恫喝がなされたこととなる。
このような危機に対し、どう対処するのか。
唯一の被爆国である日本、被爆地の市長としては、いかなる核恫喝・核による威嚇も絶対に許さない
という断固たる姿勢を示すべきではなかったか。
4 核攻撃の抑止・核攻撃への防護について全く言及も対策もしていないこと
そして、現実問題として、核威嚇・核恫喝に対する抑止的措置が必要であることは変わっていない
と考えられる、そのような相手に対して、核廃絶を唱え続けるだけでよいのか。
核威嚇がなされた場合、核攻撃がなされた場合にどう対処するのか。
反撃のための核兵器も持たず、核シェルターも備えず、住民の安全が守れるのか、何の答えも出していない。
特に、核攻撃への防護について、全く何の備えもしなくてよいのか。
二度と犠牲者を出さないというのであれば、核開発国、核保有国、核による間接的な恫喝をした国が
近隣に存在しているのである。これらの国の万一への使用に対し、なぜ何の防護措置もとらないのだろうか。
さらに、やはり現実的に使用された場合の報復措置を考えないのはおかしいのではないか。
再度核攻撃された場合には、日本も核兵器を使用することや、軍事的報復をすることも含め、
何らかの報復措置をとることを考えなければならないのではないか。
核兵器について、絶対に二度と使用させてはならないことはそのとおりである。
しかし、我が国政府に非核・非核と求め続けるだけでは、子供の論理である。
現実に、我が国を取り巻く、アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮など多くの核保有国や、
間接的な核恫喝を行った中国、さらには核開発をやめない北朝鮮など、これらの国への
断固たる主張や行動をなすべきである。
そして、いつまでもアメリカに遠慮しておらず、核使用国であるアメリカに対し、
原爆投下の真相究明・責任追及を行うべきである。
唯一の被爆国の、被爆地市長として、このくらいのことは言ってほしいと感じた。