これまでは不育症検査の項目の内、
子宮形態検査、内分泌検査と夫婦染色体検査について書きました。
今回は不育症1次スクリーニングの内、抗リン脂質抗体検査について書きます。
以前から、全身性エリテマトーデス(SLE)や膠原病、
リウマチの患者さんに流産が多いということが知られていました。
これらの患者さんは免疫のバランスが悪いので、自己免疫疾患といわれます。
しかし、すべてのSLEや膠原病、リウマチの患者さんに流産があるわけではなく、
近年ではこれらの患者さんのなかでも、
抗リン脂質抗体を持つ方が流産しやすいことが分かっています。
抗リン脂質抗体が流産因子であり、
不育症のリクス因子であると判明したので、
生児を得られない不育症の方で、抗リン脂質抗体を持つ方を、
抗リン脂質抗体症候群という病名で呼ぶようになりました。
抗リン脂質抗体は自己抗体の1つです。
抗リン脂質抗体を持つ人は血栓ができやすく、
胎盤に血栓ができると胎児に栄養や酸素がいかなくなるので、
流産となってしまうのです。
それ以外にも抗リン脂質抗体は、
絨毛細胞や胎盤に対して直接的に作用することも発見されています。
絨毛や胎盤が炎症をおこしたり、免疫に関与するタンパク質(補体)を活性化させたり、
胎盤の形成に直接的に作用したりするのです。
不妊症1次スクリーニングでは、抗リン脂質抗体の内、
①抗カルジオリピン抗体とβ2-グリコプロテイン1の複合体抗体(抗CL β2GP1)
②抗カルジオリピン免疫グロブリンG抗体 (抗CL IgG)
③抗カルジオリピン免疫グロブリンM抗体 (抗CL IgM)
④ループスアンチコアグランド
を調べます。
カルジオリピンはリン脂質の1種です。
ループスアンチコアグランドとは、
リン脂質とプロトロンビンとの複合体に対する自己抗体で、
抗リン脂質抗体のひとつです。
健常者血中には存在せず、抗リン脂質抗体症候群や、
自己免疫疾患などで陽性になります。
この不妊症1次スクリーニングの抗リン脂質抗体検査の結果、
抗リン脂質抗体が陽性であった場合には、
12週間以上の間隔をあけて再検査します。
抗リン脂質抗体は一過性、非特異的に陽性(偽陽性)となることも多く、
ある一定の期間をおいて複数回調べることが必要です。
2006年に再検査の間隔の基準が変更されて、6週間から12週間となりました。
再検査しても陽性が持続する場合には、抗リン脂質抗体症候群と診断します。
抗リン脂質抗体症候群と診断された場合には、
低用量アスピリンとヘパリンカルシウムのの投与が基本的な治療法となります。
低用量アスピリンは血小板に作用して血液を凝固しにくくします。
発症の報告はありませんが、胎児の動脈管早期閉鎖につながるとの記載もあるので、
インフォームド・コンセントが必要です。
一般的には基礎体温の高温中期から服用を開始し、
月経がない場合にはそのまま継続して飲み続けます。
服用の用量は国際的に1日に60mg~100mgと決まっています。
日本の薬の添付文書では妊娠27週の終わりまでの服用と記載されてはいるものの、
妊娠35週まで継続するクリニックが多いようです。
アスピリンは古くからあり、安全性も有用性も確立しているので、
その点では安心できるお薬です。
ヘパリンは血液の凝固作用を妨げる働きの他に、
抗リン脂質抗体の働きを阻止する働きを持っています。
1日2回の皮下注射が必要なので、自宅での自己注射となります。
副作用として血小板減少症を起こすことがあるので、
投与開始から2週間程で血液中の血小板数を確認し、以後継続する必要があります。
ヘパリンをいつから投与するかは医師によって見解が異なるようです。
胚移植日から投与しても着床率、妊娠率が上がるわけではなく
意味がないという医師もいれば、
ヘパリンが抗リン脂質抗体の作用を様々な局面で阻止するので、
妊娠が判明する前から投与するのが良いという医師もいます。
そのために施設により投与開始時期が異なるようですが、
いずれにしても胎盤形成が行われる妊娠初期に投与しなければ
効果が期待できないとされています。
ヘパリン療法としては、妊娠判明前または胎嚢が確認できてから投与開始し、
半減期が12時間ほどと短いので、
陣痛開始、破水など分娩の直前まで使用できます。
またヘパリンには胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群などの
胎盤血管障害の予防効果もあるようです。
卵子提供プログラムで正常胚を移植したのに、
着床しない、妊娠しない、流産してしまうという方は、
抗リン脂質抗体検査を受けることをお勧めします。
クリニックのご紹介もできますので、ぜひアクトワンにご相談下さい。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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