淡路島の真言宗本福寺には、水御堂(みずみどう)という一風変わった本堂があります。
コンクリート打ちっぱなしというだけでも他に例を見ませんが、なんとその本堂の上には、仏教寺院風の屋根ではなく、40m×30mの楕円形をした蓮池が乗せられているのです。1991年、安藤忠雄の作品です。
「コンクリートのお寺はありえない。大事なお堂の上に水を張るなんてとんでもない」――安藤がその設計を披露したとき、住職や檀家の人たちからは猛反発を受けました。
300あまりの檀家すべてが反対したともいれています。
しかし、当時90歳を越えていた高僧・立花大亀大僧正は「仏教の原点である蓮の中にお堂が入るのは素晴らしい。ぜひ実現してください」と安藤の案を支持したのです。
その一言で状況は一変し、前代未聞の「蓮の中に入るお寺」が世に姿を現したのでした。
一般的に、宗教建築というのは保守的で、新しさよりも伝統様式に忠実であることが要求されます。
それは建築に限ったことではなく、儀式や作法、着衣、教義など、宗教に関わること全般にいえることです。
現代の文化施設ならまだしも、平安時代からの長い伝統を持つ寺院の建造物として、あのような提案をすることは、安藤にしても相当な冒険だったでしょう。
「伝統とは、目に見える形ではない。形を担う精神である。その精神を掬い取り、現代に生かすことこそが、本当の意味での伝統の継承なのだと、私は考え、自身の建築をつくっている」(『建築家 安藤忠雄』安藤忠雄 著)
本福寺のユニークさは本堂の上の蓮池だけのことではありません。
外観を覆うコンクリートの無機質なグレーと、堂内に溢れる鮮やかな朱色のコントラストは、まるで俗と聖の対比を表現しているかのようです。
ネットで「本福寺」または「水御堂」で画像検索すると、その素晴らしさの一端を見ることができます。
一見、安藤のスタイルは、クライアントや一般の人の意見、要望を無視あるいは超越して、自分の夢を追いかけているかのように見えるかもしれません。
しかし逆に、多くの人の感性を信じているからこそ、より深く本質的な構想を、勇気をもって提案できるともいえるのではないでしょうか。
┌──────────┤書籍のご紹介├┐
□『建築家安藤忠雄』安藤忠雄著
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