[線維筋痛症と「眩しさ」]
(読売新聞 2017年9月21日)(心療眼科医・若倉雅登のひとりごと)
米国の人気歌手、レディー・ガガさんが線維筋痛症だと公表したことで、
原因不明のこの病気が脚光を浴びています。
線維筋痛症は、欧米では1950年代から知られていましたが、日本では一部の
医師しか認識しない時代が長く、ようやく2003年に厚生労働省が研究班を
発足させました。
私がこの病気に注目しているのは、眼球そのものに問題はなくても、
眩しさや目の痛みのために目を開けて見ることができない 眼球使用困難
症候群の重症例に、しばしば体の痛みが起き、線維筋痛症と診断されている
例があるからです。
この11月の日本神経眼科学会(横浜市)で、最重症例の眼球使用困難症候群
8例について報告します。
全例私が診察しました。
皆、終日、弱い光でも目から入ることを拒絶せざるを得ない生活をしている、
重症な方々です。
部屋を暗くして両眼を閉じ、それだけでは足りずにアイマスクや遮光眼鏡を
かけ、外光が入る部屋ではカーテンや帽子が欠かせない、という状態です。
それほどまでに光を防御した格好をしていてさえ、日中は外出ができません。
8例の内訳は、男性3人、女性5人で、年齢幅は26歳から67歳、40歳未満の
方が6人います。
この中で、からだの痛みの強い人が5例、頭痛を持つ人が2例あり、うち
2例は線維筋痛症の診断も受けています。
線維筋痛症は、痛い部位が次々と変わる慢性疼痛が特徴で、関節痛、頭痛、
筋肉痛、疲労感、 倦怠感、めまいなどの身体症状が出ます。
光や音やにおい、気温や気圧の変化などを契機に痛みが強くなるという現象も
よくみられます。
わずかな光に強い眩しさを感じる「 羞明(しゅうめい)」がある例も多く、
米国の報告では70%を占めます。
先に挙げた5例の中心症状は羞明です。
一方、線維筋痛症側からみれば、合併症に羞明がある、と解釈します。
これは、もしかすると同じ病気を異なる立場から見て診断しているということかもしれません。
また、線維筋痛症は、慢性疲労症候群や化学物質過敏症などと臨床症状に
類似点が多いようで、これも、そういう解釈ができるということなのかも
しれません。
いずれも感覚系が過敏な状態にあり、感覚をコントロールする神経機構に
不調が存在するという共通項があります。
日本リウマチ財団のホームページによると、線維筋痛症は日本では一般人口
あたり1.7%の有病率(患者数約200万人)。
今年 8月24日のコラム でおかしな制度だと指摘した難病指定基準の「人口の
0.1%」を超える高頻度ですから、国は難病に指定していません。
一方、実際に医療機関を受診している患者数はわずか4千人前後という数字が
あり、医師の無理解や診療拒否が背景にあると思われます。
これは、痛み、しびれ、眩しさといった、測定しにくく、画像診断がほとんど
役立たない感覚異常を軽視してきた国や医療界の姿勢と無縁ではないで
しょう。
この国が「患者の訴えを最も重視する患者本位の医療」になかなか行き着け
ないことを端的に示している好例といえると思います。
ガガさんの勇気ある公表が、海を越えて、日本におけるこの理不尽な姿勢を
改める契機になればいいと思います。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170920-OYTET50012/?catname=column_wakakura-masato