[頭痛、動悸、めまい…化学物質過敏症かも]
(家庭の医学 2016年9月20日)
<原因物質はどこにでもある!>
農薬やPM2.5など、生活環境のなかの化学物質によって発症する疾患が増えて
おり、その原因は多様化しています。
代表的な例は、特定の家に入ると体調が悪くなる「シックハウス症候群」。
化学物質による過敏症は、強い症状が出て生活に支障をきたすケースも珍しく
ありません。
どのように対処したらいいのでしょうか?
私たちの身の回りには多種多様な化学物質が使用されていますが、呼吸したり
飲食したりすることで、化学物質を体内に取り込んでいます。
こうした化学物質を大量に、あるいは微量でも長期間に渡って体に取り込んだ
場合、それが体の適応能力を超えると頭痛、動悸、めまい等の症状が現れる
ようになります。
このようにいったん発症して過敏性を獲得すると、その後は極めて微量な
化学物質によっても反応してしまいます。
このような状態を化学物質過敏症と呼びます。
花粉やダニの死がいなど自然界の物質ではなく、近年増加しているのがこの
化学物質による過敏症。
多種類の構造の異なる化学物質、特に強い香料や塗装臭などに不定の症状が
誘発される原因不明の非アレルギー性疾患です。
その種類も増え続けています。
たとえば「シックハウス症候群」と呼ばれるアレルギー様反応は、家屋の
新建材、改修・改装で使われる建材や塗料、接着剤、家具などから放散される
ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などで引き起こされます。
同様の物質が原因で、児童や生徒、教職員にアレルギー反応を起こさせる
「シックスクール症候群」も問題になっています。
農業地帯で多く使われている有機リン系農薬・殺虫剤は、神経作用や
アレルギー悪化など、さまざまな毒性が指摘されています。
とくに、ヘリコプターで空中散布すると農薬が広範囲に長期間とどまることに
なり、過敏症発症に大きくかかわっています。
中国の大気汚染が原因の微粒子状物質PM2.5や、車の排気ガスも原因物質に
なります。
意外なところでは、化粧品や香水、芳香剤、タバコの煙、インクを使う
筆記具や印刷物なども過敏症状を引き起こすことがあります。
そのほか、肌に直接触れるパーマ液やシャンプー、消毒液なども原因になり、
美容師や医療従事者、化学関係の会社や印刷工場で働く人は発症のリスクが
高くなります。
過敏反応による症状はさまざまです。
目がチカチカする、鼻水やくしゃみが出る、耳鳴り、めまい、口内のただれや
乾燥、下痢や便秘、吐き気、胸やけ、膀胱炎、せき、くしゃみ、不整脈、
血圧の変動、吹き出物、しみ、かゆみ、じんましん、肩こり、関節痛、
のぼせ、生理不順、頭痛、不眠、気持ちが不安定になるなど、全身に及び、
多くの場合は複数の症状が現れます。
そして、個人差が大きいのが特徴です。
かつてシックハウス症候群は疾患と気づかれず、また理解もされず、患者は
二重の苦しみを味わうことになりました。
原因が特定された現在では症例が増えたこともあり、適切な治療を受ける
ことが可能になっています。
昨今、大学病院や国立病院機構の病院では、化学物質が原因の過敏症について
専門的な治療を行う「化学物質過敏症・環境アレルギー外来」「環境医学
外来」といった名称の科を設けるようになってきました。
化学物質過敏症に関しては、まだ全容が解明されているわけではありません。
症状が出てしまったらまずは原因と思われる物質を特定してシャットアウト
し、対症療法で症状を軽減します。
加えて生活改善や適切な運動、食事療法などで過敏症を起こしにくい体づくり
も大切です。
「今まで過敏症を起こしたことはないから」という人も多いでしょう。
しかしこの疾患は、だれにでもある日突然起こり得ます。
そして極端に言えば、身の回りのほとんどすべての物質が原因になる可能性を
もっています。
いたずらに恐れる必要はありませんが、発症のきっかけとなりやすい環境に
長時間身を置く際は予防策を講じましょう。
具体的には、大気汚染の強い地域に行くときはマスクをする、紫外線の強い
場所では日焼け止めを塗る、一度でも触れてかゆみが出た物質には近寄ら
ない、化学物質に触れる機会を減らす、肌にやさしい自然素材のシャンプーや
洗剤を使う、香水は避ける、禁煙するなどが挙げられます。
(監修:はくらく耳鼻咽喉科・アレルギー科クリニック院長 生井明浩)
http://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/123909/