運動だけでは不十分 筋肉強化に栄養が大切 | アクティブエイジング アンチエイジング

[運動だけでは不十分 筋肉強化に栄養が大切]

(共同通信医療新世紀  2015年9月1日)


<介護予防へ取り組み進む>
「介護予防には筋肉強化が大事」との認識が広まり、熱心に体を動かす
高齢者が増えてきた。
しかし、栄養不足のまま運動しても十分な効果は得られない上、かえって
有害な場合もある。
そこで正しい知識に基づき体づくりの効果を高めようと、スポーツクラブが
高齢会員向けに勉強会を開いたり、リハビリテーションの現場でも栄養摂取が
重視されたりと、新たな取り組みが進んでいる。



<体操してるのに>
「筋肉をつけるには、運動だけでは駄目ですよ。タンパク質やビタミンDなど
十分に栄養を取ることが必要です」
7月、スポーツクラブ「メガロス」が横浜市で開いた年配の会員向け健康
セミナー。
講師の山田実筑波大准教授の話に、参加した約130人が真剣に聞き入った。

山田准教授は、放置すると要介護に進む可能性が高い「フレイル」や、筋肉が
減って弱る「サルコペニア」など、高齢者の心身をめぐる新しい用語も紹介。
「85歳を超えると介護の要因は衰弱がトップ。ただフレイルの状態なら、
運動と栄養で元気になれます」

参加者は講演前に体のチェックを受けていた。
筋肉量が少ないと判定された女性(81)は「週4日も体操に通っているのに。
魚や肉が嫌いなせいかしら」と少しショックを受けた様子。
別の女性(67)は「新しい言葉はよく知らなかったが、今日の話を参考に、
できるだけ元気で過ごしたい」と話した。



<戻る可能性>
フレイルは、日本老年医学会 が昨年、従来「虚弱」と訳されてきた英語の
FRAILTYの新たな訳語として提唱した。
筋力が落ちて転倒しやすくなるといった体の問題に加え、認知機能の低下など
精神面や社会的問題も含む概念。
虚弱との違いは「適切な対応によって再び健常な状態に戻る可能性がある」
との意味がこもっている点だ。

一方、サルコペニアは1989年に米国の研究者が提案した言葉で、加齢などに
伴う筋肉量と筋力の低下を意味する。

フレイルとサルコペニアはいずれも、高齢期の介護予防に筋肉が大切である
ことに着目しており、老年医学の専門家らが概念を積極的に広めようとして
いる。



<効果上がる>
筋肉をつくるには、運動と適切な栄養の両方が大切。
しかし「栄養は運動に比べ軽視されがちだった。医療者も例外ではない」と、
横浜市立大市民総合医療センターリハビリテーション科の若林秀隆医師は
指摘する。
その理由を「これまではメタボなど栄養過剰の方が注目を浴びていたためでは
ないか」とみる。


一般に高齢者は栄養不足になりやすい。
栄養が足りない状態で運動すると、不足した栄養素を自分の体から補うしか
ないため、筋肉や脂肪の分解が進んでしまい逆効果になる。
若林医師らはこのため、高齢患者のリハビリの際、筋肉が減らないよう摂取
カロリーを増やして取り組んでいる。


肺がんの手術後、飲み込みが難しく、日常生活に戻れるかどうか心配された
70代の男性の場合、摂取カロリーを通常の1日1500キロカロリーから2000
キロカロリー余りまで増やした。
その結果、体重が回復してリハビリの効果が上がり、1人で外出もできる
ようになった。
若林医師は「栄養の大切さは、リハビリの現場で認知度が上がってきた
ところ。成果も出始めている」と話す。


日本サルコペニア・フレイル研究会 の世話人代表を務める国立長寿医療研究
センターの荒井秀典副院長は「高齢者の寝たきり予防には筋肉やバランス
感覚の維持が重要。新たな言葉の認知度を上げ、正しい知識を浸透させたい」
と話している。




(共同通信 尾原佐和子)



http://www.47news.jp/feature/medical/2015/09/post-1353.html