[嗅覚が衰えている高齢者は死亡率が高くなるとの研究結果]
(IRORIO 2014年10月04日)
高齢になると様々な感覚が衰えるものだが、米シカゴ大学の研究により、
嗅覚が低下している、あるいは喪失している高齢者は、正常な人たちと比べ、
死亡率が高くなることが分かった。
<5つのにおいで判別テスト>
研究チームは2005年から2006年にかけて、57歳から87歳の男女3005人を
対象に、5種類のにおい――魚、バラ、皮革、オレンジ、ペパーミントを
かぎ分けるテストを行った。
その方法は、各においをフェルトペン状の器具に染み込ませ、1つのにおいに
つき、4つの選択肢を用意し、その中から正しい答えを選ぶというもの。
<3.5%は嗅覚喪失>
その結果、78%の被験者は5つのうち4つ以上のににおいをかぎわけ、
正常と判明。
20%は2~3つのにおいしかかぎ分けられず、嗅覚がやや衰えている
嗅覚減退の状態。
においが1つしかわからない、あるいはまったくわからない嗅覚喪失の状態に
あるのは全体のわずか3.5%だった。
<嗅覚喪失者は5年以内の死亡率が3倍>
その後、2010年から2011年にかけて調査を行ったところ、被験者のうち
亡くなっていたのは430人。
年齢、性別、収入や学齢、全体的な健康状態といった要因を考慮したうえで
分析を行った結果、嗅覚が正常だった被験者が5年以内に死亡する確率が
わすか10%だったのに対し、嗅覚減退の状態だった被験者は19%、嗅覚
喪失の状態だった被験者は30%であることがわかった。
<食欲の低下や細胞の再生能力低下が原因?>
もちろん嗅覚の鈍化そのものが死因というわけではない。
しかし、嗅覚の衰えによって食欲が失せ、栄養状態に問題が出る、悪くなった
食品、ガス漏れなど、有害なにおいに気付かず、健康を害すといったことが
高い死亡率につながる要因なのではないかと研究者は仮説を立てている。
さらに、嗅覚系には自己再生する幹細胞が含まれており、嗅覚の衰えは細胞の
再生がうまうなされていないことを意味すると同時に、体全体が同じような
状態にある可能性もあり、これが高い死亡率につながっているとも考えて
いる。
また、嗅神経は脳神経のうち、唯一環境にさらされている神経であり、
嗅覚情報は嗅神経によって脳に直接伝えられることが知られている。
環境汚染は、脳や心臓に悪影響を及ぼすが、それよりもさきに、こうした
悪影響が嗅覚に現れるとも考えられるそうだ。
<嗅覚の衰えは危険信号>
いずれにせよ嗅覚の鈍化は「体内で何かが悪化しているという初期の
危険信号」と、研究者のJayant Pinto医師は指摘し、「ほかの感覚に比べて
嗅覚は過小評価されがちですが、失ってはじめて、そのありがたみや重要性が
認識させられるのです」と述べている。
シカゴ大学の研究結果は『『PLOS ONE』に発表された。
http://irorio.jp/kondotatsuya/20141004/165838/