[歯が抜けると認知症!? クローズアップされる歯の喪失と認知症の関係]
(日経BP 2014年04月24日)
ビジネスパーソンが注意するべき“病気”について、専門家に解説してもらう
この連載。
今回は歯が抜けることと認知症の関係を、つだぬまオリーブ歯科院長石川聡
先生に解説してもらいます。
忙しいビジネスパーソン、ついつい後回しになりがちな歯のケアや治療。
ところがお口のなかの環境をよくしておくことはとても重要で、前回は
歯周病が死に至る疾患にもつながるという解説をしましたが、実は「歯が
抜ける」だけでも全身に大きな影響を与えることが分かってきています。
<Q1 歯が抜けたぐらいで認知症になるの?>
虫歯、歯周病などの口腔疾患、その結果である歯の喪失が認知機能の低下に
影響を与えているという説があります。
2013年6月、広島大学大学院医歯薬保健学研究院の是竹克紀助教、宮本泰成
助教、病院の大上博史歯科診療医、奥羽大学の赤川安正学長(広島大学名誉
教授)、名古屋市立大学大学院医学研究科の道川誠教授らのグループが、
「歯の喪失がアルツハイマー病の病態を悪化させることを、マウスを用いた
実験で明らかにした」と発表しました。
研究グループは、それまでは歯の喪失がアルツハイマー病のリスクを高める
ことは疫学調査から知られているものの、科学的な研究はされてこなかったと
指摘し、「歯の喪失(臼歯の咬み合わせの喪失)がアルツハイマー病を悪化
させる」「歯の喪失を防げば、認知症発予や進行抑制につながること期待
できる」としています。
また、歯周病が脳血管疾患等にある程度影響を与えることは確実視されて
います。
その脳血管疾患自体が、アルツハイマー病や脳血管性認知症の確立された
リスクファクター(危険な要素)であるため、歯の喪失がアルツハイマー病に
影響を与えるとも言われるわけです。
すでに老年医学の分野では、歯の数と認知機能に相関が見られると報告されて
います。
標本数の大きい調査で、歯の数と認知機能の測定値を比較した結果、歯の数が
少ない、もしくは歯がない人は、多くの歯が残っている人と比べると、認知
機能が低下しているというのです。
また、若いとき(35歳以下)に奥歯を抜いた人は、認知症のリスクが上がると
いう報告もあります。
厚生労働省の2011年の歯科疾患実態調査によると、日本人の歯の寿命は年々
伸びています。
それでも総入れ歯を使用している人の割合は40歳後半において1%で、年齢が
上がるにつれてその割合は上昇し、85歳以上では半数を超えます。
歯の喪失と認知機能の低下は、多くの疫学調査で関連が認められています。
例えば、日本と食生活が比較的似ていると思われる台湾で65歳以上2300人を
対象とした調査でも歯の数と認知機能に相関が認められました。
ただし、一方で多因子変数解析等を用いて年齢の因子を除いた結果、関連が
ないという報告もあり、設定する条件により結果が異なっています。
ただ前回「歯周病は死に至る病? 全身疾患との怖い関係とは?」でも解説
しましたが、口の中の病気が全身に影響を与えることは分かってきているわけ
です。
認知機能との関連についても、今後は意識しておく必要があるでしょう。
<Q2 歯の治療をせずにいると歯以外にも影響あり!>
重度の虫歯や歯周病を長期間放置すると、次第に進行して、いずれは歯を
抜かなくてはならなくなります。
治療による回復が望めない場合は抜歯されるか、自然に脱落し、歯の本数は
次第に減少します。
親知らずを除くと永久歯の数は28本。
そのうちの何本かがなくても・・・・・などと考えると危険が迫ってきます。
スウェーデンで行われた大規模な追跡調査(約7500人を12年間)によると、
歯の数が少ないほど心血管疾患による致死率が高くなると分かりました。
また、スコットランドの大規模調査でも、無歯顎(歯が1本もない状態の
顎)の人は、心血管疾患による致死率が高いことが報告されているのです。
前述の通り、歯を抜かなければならないような状態は、大きな虫歯や歯周病が
長期間放置されたことが原因でなることが多いでしょう。
そしてこの状態が続くと、持続的な細菌感染と慢性炎症により、歯とその周囲
から頸動脈を介して、全身の血管に細菌が送られるような、悪影響が及ぼされ
ていることになります。
その結果、血管内でプラーク(歯においては歯垢、血管内においては粥腫=
コレステロールエステルを大量に含んだ脂質の塊)や血栓が形成され、心筋
梗塞や脳梗塞が起こると考えられているわけです。
脳血管性認知症は脳梗塞や脳内出血により引き起こされます。
動脈硬化、糖尿病、高脂血症などは既知のリスク因子ですが、上述のように
歯周病を含む口腔内の衛生環境が新たなリスク因子として考えられています。
脳梗塞のリスク因子である動脈硬化、糖尿病、高脂血症の予防とともに
口腔内の衛生状態を良好に保ち、健康な毎日と過ごしましょう。
さあ、いまこそ始めましょう、そう歯ブラシを手に取って。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140423/1056876/