鼻のメラノーマ 悪性度の高いがんで、切除手術では顔が・・・ | アクティブエイジング アンチエイジング
[医療ナビ:鼻のメラノーマ 悪性度の高いがんで、切除手術では顔が・・・]

(毎日新聞  2010年10月17日)


<陽子線で患部狙い撃ち><後遺症、最小限に 3年生存率も高く>

神奈川県内に住む主婦(58)は5年前の秋、突然出た大量の鼻血に驚いた。
その後も鼻がつまったような違和感が続き、鼻水に血液が少し混じることも
あった。
約1カ月後、近くの耳鼻科を受診すると、総合病院での検査を勧められた。
翌年1月に精密検査を受けたが、診断結果は思いもよらないものだった。
右鼻腔(鼻の穴の中)のメラノーマ(悪性黒色腫)。
主婦は「(医師に)悪性で珍しい病気と告げられ、頭が真っ白になった」と
振り返る。

医師は「手術だと大きくとらないといけない。治ったとしても顔が変形する」
と説明し、陽子線照射による治療を勧めた。


主婦は、紹介された国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で2月中旬
から陽子線治療を受けた。
1日おきに15回通院。
1回の照射時間は1分間で、準備や位置調整を含めても約15分と短い。
治療中、痛みはなく、服薬も不要だった。
副作用で口内炎ができたが、普段通りの食事ができた。

鼻炎の症状が残るほかは、後遺症は特にない。

約2年後に首のリンパ節に転移したが、手術で摘出。
現在は検査のため定期的に通院しているほかは、以前と変わらない日々を
送る。
主婦は「治療中の痛みや体力の低下はなく、顔の見た目も変わらなかった。
すぐに東病院に紹介してもらえたのは幸運だった」と語る。



鼻のメラノーマは、10万人に1人の割合で表れる珍しい病気で、国内の
発症者は年間100~200人と推定されている。
左右の鼻腔や、上あごなど鼻の周囲4カ所にある副鼻腔で発症する。

症状は鼻からの出血が最も多いが、病気の知名度が低いため、耳鼻科を受診
しても気付かれないことがある。

進行すると、頭痛がしたり、患部の位置によっては、片方の目が圧迫されて
前に飛び出し、ものが二重に見える。
東病院粒子線医学開発部の全田貞幹医師は「広い意味での“がん”だが、
悪性度が格段に高い」と説明する。

切除手術と術後の放射線治療の組み合わせが標準的な治療だが、
 ・手術で顔が少なからず変形する
 ・視神経の損傷や眼球を含めた摘出により、失明することが多い
 ・5年生存率は20~30%と低い
などの難点があった。

切除が難しい場合などには放射線のみの治療が施されるが、手術より治療
成績が悪く、重い後遺症が残ることが多かった。


こうした難点を克服する最新の治療法として期待されるのが陽子線治療だ。
放射線を照射してがん細胞のDNAを破壊し、増殖できなくさせる仕組みは
従来の放射線治療と同じだが、通常のX線ではなく、水素の原子核(陽子)を
加速させた陽子線を患部にあてる。
厳密なコントロールが可能なため、患部を「狙い撃ち」し、後遺症を最小限に
抑えられるという利点がある。

厚生労働省が認可する先進医療の1つで、保険は適用されず、一連の治療で
合計288万3000円を患者自身が負担する。


全田医師らが、東病院で2004年1月からの4年間、鼻のメラノーマの陽子線
治療を受けた14人(56~79歳)の経過を分析したところ、3年生存率が
58%と、従来の放射線治療の成績(約20~30%)を大きく上回った。
さらに、後遺症の神経障害の発生率も5.0~7.5%で、手術の10~15%を
下回り、陽子線治療が顔の変形を避けられるだけでなく、治療成績でも優れて
いる可能性が示された。


東病院は今後、筑波大病院(茨城県つくば市)と共同で陽子線治療の臨床
試験を進める。
主任研究者を務める全田医師は「顔の形を損なわず、笑顔で来院する患者
さんと会うたびに、陽子線治療の意義を実感する。メラノーマと診断
されたら、すぐに電話してほしい」と呼び掛ける。


【須田桃子】



http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/10/17/20101017ddm013100035000c.html