[緩和ケア、診断と同時に]
(朝日新聞 2012年5月12日)
かつて、末期になってから受けるイメージが強かった「緩和ケア」。
最近は、病名を知らされたときのショックを和らげることから、治療と
ともに、いつでもどこでも患者の不安やつらさを取り除く取り組みが、
少しずつ広がっています。
<乳がん、突然の告知にあぜん 「心もサポート」に安心>
埼玉県春日部市の女性(43)が胸のしこりに気付いたのは2010年末。
年明けの1月、家の近くの総合病院を受診すると「乳がんだね、間違い
ない」。
いきなりの告知にあぜんとした。
翌日、紹介された国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)を訪ねた。
「ゆっくり順番にいきましょう。心配ごとがあったらいつでも病院に電話を
ください」
乳腺外科医は言った。
2週間後。確定診断の結果について医師は悪性と告げ、「ここでは化学療法も
緩和ケアもチームで対応します」。
「緩和ケアは治らない人向け」と思っていた女性は驚いたが、「心身の痛みを
いつでもサポートします」と言われ、心強く感じた。
緩和ケアの主眼は、痛みをとることだった。
告知されるようになり、ショックや不安への対応、治療の副作用の軽減なども
対象とされるようになってきた。
抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術、放射線、ホルモン療法へ。
治療方針や副作用の説明の後には「不安はないですか? つらかったら言って
ください」。
スタッフは繰り返した。
7月下旬に再発防止のためのホルモン療法を始め、変化が訪れた。
未明の鶏の鳴き声が気になり、眠れない。
9月には「苦しくていっそ死んでしまいたい」と思い、病院に電話した。
翌日に受診しもらった睡眠導入剤を飲み始めた。
それでも良くならず、緩和ケアチームの精神腫瘍医、小川朝生さんの診察を
受けた。
小川さんはじっくりと話を聞き、抗うつ薬を出した。
「先生が『音が気になるのはおかしなことではない』と寄り添ってくれて
ほっとした」と女性。
休職中だが、今年4月には復帰への意欲も出てきた。
この病院の計8人の緩和ケアチームは病棟を回り、全てのスタッフが患者の
不安を取り除き、必要とする情報を届けられるよう指導する。
小川さんはチームの役割を「患者さんや家族に安心して悩んでもらう環境を
つくること」と話す。
<図書館で読書・町内会参加 在宅で、自分らしく>
緩和ケア外来や在宅医療を活用すれば、病気の進行度に関わらず、家で
自分らしく暮らすことができる。
山口市の男性(84)は、2009年の暮れに耳下腺がんの手術を受けた。
抗がん剤治療の副作用で、食欲が落ち、だるさをおぼえた。
抗がん剤治療をやめ、昨年7月から山口赤十字病院の緩和ケア外来に通い
始めた。
せき止めや鎮痛剤をもらい、持病の高血圧を診るかかりつけ医にも通う。
今年1月に体調を崩し、山口日赤の緩和ケア病棟に入院したが、寝てばかりで
足腰が衰えてしまうと心配に。
自宅が良いと医師に訴え、2週間で退院した。
退院後、日赤の医師の紹介で訪問看護も受け始めた。
看護師は、いつでも相談にのってくれる。
男性は「年とってがんになったら、よう付き合うていけばええ。痛みだけ
とってもらったら、生きてる間は好きなことやりたい」。
図書館で好きな本を読み、町内会の作業に顔を出して友達に会う。
いざという時のため、納屋の物を友人にあげ、税金の納め方を妻に教えた。
看護師の岡藤美智子さんは「早い時期から関わると生活の変化がみえ、家族の
悩みもわかる」と話す。
緩和ケアを担当する山口日赤の末永和之副院長は初診の時に、患者や家族に
訪問看護や緩和ケア病棟を紹介。
どのように療養したいかを尋ね、選んでもらっている。
「できることは全てしながら、揺らぐ気持ちをくみとり、伴走するのが緩和
ケアだ」と言う。
<病院ぐるみで提供が理想 課題は「治療と並行」>
「診断された時から緩和ケアが提供されると共に、在宅医療など様々な場面で
切れ目なく実施される」
今年度からのがん対策推進基本計画の厚生労働省案にこう盛り込まれた。
2007年にできた第1期の基本計画の目標は「早期から」。
がん診療に関わる医師全員が基本知識を習得することを目指した。
この5年で約3万人の医師が基本教育プログラム(PEACE)の研修を
終えた。
だがいまだに「治療中だから緩和ケアは不要」という医師らがいる。
診断時から緩和ケアをする余裕はないという声も上がる。
厚労省委託の事業で2010年度、緩和ケアについて患者らに聞くと「終末期の
患者だけが対象と思っていた」人が39%。
「ケアに満足」としたのは13%だけだった。
PEACEプロジェクトリーダー、木澤義之筑波大講師は、緩和ケアを3つに
大別=図。
「アプローチは全ての医療従事者が提供すべきだ。理想は、緩和ケアを受けて
いると実感せずに患者が受けること」と言う。
日本緩和医療学会理事長の恒藤暁・大阪大教授は「治療に並行して緩和ケアを
提供する体制づくりが課題。治療医が両方を担うのが理想だが、医療
ソーシャルワーカーやカウンセラーらの活動も重要」と話す。
今年度のテーマは「がんとつきあう」。
お金の問題や家族支援などを取りあげます。
(下司佳代子、辻外記子)
<がんと診断された時の注意点>
・1~2週間は不安や動揺があっても当然。
自分を責めない。睡眠と食事をきちんと取る。
・全て終わる、何もかも失うということではないと知る。
・相談ができる人を見つけておく。
家族に話しづらい時は、全国のがん診療連携拠点病院の相談支援センター
など医療機関の窓口の活用を。
・全く眠れない、食事がとれない、仕事が手につかない時などは医師や
看護師に相談を。
(※小川朝生さんによる)
<相談窓口>
不安や痛みへの相談も、近くのがん拠点病院の相談支援センターを利用
できる。
リストは、国立がん研究センターがん情報サービスのウェブサイト
(http://ganjoho.jp)の「病院を探す」にある。
三重県がん相談支援センターや、がん相談センターこうち、千葉県柏市にある
がん患者・家族総合支援センターなどは病院外のセンター。
住民のがん相談を受けている。
https://aspara.asahi.com/column/ganshiru/entry/FUqJIypL9C
--------------------------------------------------
診療項目別サイト「yokoyama-dental.info」
症状別サイト「yokoyama-dental.jp」
--------------------------------------------------