<演奏>

ピアノ:川島素晴 ギター:山田岳 マンドリン:望月豪

 


 

このコンサートでは、二つの《ギタ・セクスアリス》、二つの《Das Lachenmann》に加えて、《ピタリン》、《バターパンマン》、《チュゴットとギタドリン》という、三つの「楽器編成の一部をつないでできた造語」による題名を持つ作品がプログラミングされている。この造語によるシリーズは、比較的特異な楽器編成である中で、それらの融合をはかるという含意があるわけだが、そのアプローチの仕方は、

・3楽章からなる《ピタリン》では、それぞれの楽章で優位な楽器が設定され、他の2人はそれに異なるスタンスで随伴、融和する。

・《バターパンマン》では徹頭徹尾、一度もシンクロしない(がしかし交互に発音するという意味では一体となった)アンサンブルを展開する。

・《チュゴットとギタドリン》では編成を2群に分け、それぞれの音により想起する発話を指揮者が模倣する。

・・・という具合に、それぞれ異なっており、そういった意味で全く異なる作品になっている。(他にも多数、同様の合成題名シリーズがあるが、その大半は異なるアプローチの作品である。)

 


 

《ピタリン》は「PI-ano」「gui-TAR」「madLIN」を合成した題名(Pi-Tar-Lin)である。

 

この3楽器は、同じ弦楽器であるという意味では類似要素がある組み合わせである。似て非なる楽器の融和という観点で、まず、標準ピッチのピアノ、1/6音低いギター。1/4音高いマンドリンという、音程を微妙にずらした設定を行った。そしてその設定を活かす形で、各楽章に優位な楽器を設定、他の2楽器は各楽章ごとに異なるスタンスで随伴、融和する。

 

<Prologue / Tune up>

冒頭、まずはこの特別なピッチをチューニングするシーンからこの作品は開始する。(雅楽の音取が実質的に楽曲に相当しているように、このチューニング自体が、本作では作品の一部として示される。)

ピアノの第7倍音を基準とする(1/6音ほど低い)ギター、ピアノの第11倍音を基準とする(1/4音ほど高い)マンドリン、という状態が確定し、ピアノの低音の上で、それらの音をシンクロして発音することで融和を試みる。

 

第1楽章<Pi(ano) - Tar -Lin>

この楽章は、ピアノの低音を軸に、その倍音がシンクロすることで融和を示し、そのような状態だけで進行する。ピアノは低音のみを示すのみの場合もあるが、上部倍音を担当することもする。ピアノが第6倍音、第9倍音を担当する場面では、基音の上に第6、7、9、11倍音が同時に鳴ることになる。後半では、ピアノが第4、6、9、15、17倍音を弾き、そこにギターが第14、21倍音に相当する音、マンドリンが第11、13倍音に相当する音でシンクロする。呪術的な旋律とは対照的な軽妙なリズムの音型が挿入されるが、これは音感として「ピッタリン」という語感を意識したものである。

 

第2楽章<Pi - (gui)Tar- Lin>

この楽章はギターの開放弦和音とその倍音に特化したものとなっている。ギターが提示する和音にピアノが続いて同じ和音を弾くと、1/6音高く聞こえる。そしてさらにそれにマンドリンが続くと、そこからさらに1/4音高くなる。これをひたすら繰り返しつつ、ズレが徐々になくなり、最終的には一体となって歓喜の歌を歌う。

 

<half-time / tuining>

この楽曲は調律の明確な違いが重要である。そのため、途中で調弦の確認をしたいわけだが、ここでは、冒頭と同様、そのことをも楽曲の一部に取り込んでいる。

 

第3楽章<Pi - Tar - (mand)Lin>

マンドリン独特の奏法といえばトレモロ奏法だが、本作でマンドリンはここで初めてトレモロを演奏する。(前の「half-time」でそれが示唆される。)トレモロによって奏でられる物憂げな旋律を、ピアノ、ギターの順に少し遅れてフォローしていく。そのため、1/4音低い、そしてさらに1/6音低い音によるヘテロフォニックな効果が展開していく。最後に再び「ピッタリン」のテーマが奏でられて終わる。

 

 

望月豪の委嘱により作曲。初演は、2017年2月17日、タイのバンコクにあるヤマハ音楽ホールにて開催された、望月豪とタイの作曲家 Kanokpak Changwitchukarn との共同企画「Thai-Japan Contemporary Project Vol.1」にて、ピアノ:川島素晴、ギター:Chinnawat Themkumkwun、マンドリン:望月豪により行われた。

本来は別のピアニストが演奏する予定で、私としては新作初演のリハーサルに立ち合いがてら、残り時間は観光三昧、、、という心持ちで現地入りしたところ、予定していたピアニストがキャンセルになり、バンコクのピアノ練習室で練習三昧になるというまさかの展開となった・・・というのも今にして思えば良い思い出である。

その初演のライヴ動画がこちら。

 

 

翌年3月17日、公園通りクラシックスにおける「Connecting the Dots」のライヴにて、ピアノ:鷹羽弘晃、ギター:山田岳、マンドリン:望月豪により日本初演された。

今回は、それ以来7年ぶり、そして(それぞれ1度、あるいは2度演奏しているものの)このメンバーとしては初の演奏となる。

 


 

曲目表

山田岳⇄川島素晴 相互評

1)ギタ・セクスアリス I (2014) 

2)Das Lachenmann IId (2006/24/初演) 

→3)ピタリン (2017) *本投稿

4)ぎゅ、多様性。 (2024/初演)

5)Das Lachenmann IVc (2017/ 24/初演)

6)バターパンマン (2019)

7)チュゴットとギタドリン (2024/初演)

8)ギタ・セクスアリス II (2019)