本シリーズでは「vol.2 “無音”」でも「vol.3 “法螺貝”」でもジョン・ケージ作品をフィーチャーしてきましたが、今回は、生誕110年没後30年という年でもありますので、あまり上演されない作品を一つ組みました。

 

というか、すみません。ブログタイトル部分に題名の全部が入りきらない!

 

というわけで、ここに全部載せますと・・・

 

J. ケージ

《アルプが「皺くちゃの紙」や「破れた紙」のシリーズを制作するために行った、紙をくしゃくしゃにする音や破る音はどうでしょうか。彼は水(海、湖、川などの流水)や森からインスピレーションを得ていたのです。》(1985)

 

となります。

原題は

 

But what about the noise of crumpling paper which he used to do in order to paint the series of "papiers froisses" or tearing up paper to make "papiers dechires?" Arp was stimulated by water (sea, lake, and flowing waters like rivers) , forests

 

です。(訳出は私が行いました。部分的に意訳になっています。)

長い・・・。

「クラシック作品の長い題名選手権」にエントリーできると思います。笑

 

ここで出てくる「アルプ」とは、ジャン・アルプ(Jean Arp, 1986-1966)のことで、彫刻家として著名なあの人です。(「Jean Arp Sculpture」で画像検索すると、ああ、この人か!となると思います。)

 

この作品は、そのアルプの生誕100年記念としてアルプ財団から委嘱されました。

この長い題名は、その委嘱についてのやりとりをアルプ財団のマネージャーであるグレタ・ストレー(Greta Ströh)と行っていた際の書簡の一部で、ケージからの問いにグレタが回答した内容の一部をそのまま題名にしてしまった、というものです。

彫刻家として名高いアルプですが、絵画のジャンルでも極めて独特な技法を展開しました。その一つが「皺くちゃの紙(papiers froisses)」のシリーズであり、そのものずばり、ここでは紙を皺くちゃにして、そこに描く手法が採られています。一例 「破れた紙(papiers dechires)」も名の通り、破れた紙が絵画作品に用いられています。一例 グレタ・ストレーによれば、アルプは、こうした制作を、水や森からインスピレーションを得て行ったということで、ケージはこの手紙を受けて、そのような音響をそのまま作品に採用しています。

 

10のパートがあり、3から10名で演奏することになっているので、今回は最小の3名での上演を行います。(近日中にもっと多くの人数での上演も計画中です。)

各パートの主要な部分は、「+」と「・」が横一列に並ぶ記号でできていて、「+」では2種以上の異なる(減衰音の短い)物体を同時に叩き、「・」では休みます。テンポは確定しておらず奏者の体感で良いことになっていますが、例えるなら4分音符と4分休符がイレギュラーに並んでいるような感じです。ここでピンとくる方もおられると思います。そう、あの《龍安寺》(本作の翌年に作曲)の打楽器パートの仕立てによく似ているのです。《龍安寺》の打楽器パートは4分音符と4分休符で記譜されていますので譜づらは異なりますが、恐らく、本作の後、ケージ自身、これなら4分音符と4分休符で記譜すれば理解され易いだろう、と判断したのではないかと思います。

 

ただし、本作の方は《龍安寺》には無い要素が含まれています。それは、「○」や「( 」といった記号で記された部分で、そこで「水や紙による音」を発することが求められ、持続的に、そういった音響が発せられます。(そしてそれこそが、本作の長い題名の由来となっているわけです。)

 

そして、《龍安寺》とのもう一つの相違点は、少なくとも3パートが同時に演奏されるという設定です。時折響く連打音によって、およそのテンポ感が見えるわけですが、3人が同時に演奏することで、異なるテンポ感が同時進行し、一種のポリリズミックな様相を示します。

 

今回は、冒頭に新作を書いてくれた伊藤彰さんと、本シリーズでは毎回出演、あるいは新作を発表してもらっている(そしてチラシの写真やデザインも担当している)ささきしおりさんと、3人による上演を行います。

 

<リハーサルにおける伊藤彰さんのセット>

100円の植木鉢と100円のプラスチックの容器を、100円のスプーンで叩いています。

そして「水」のパートも、100円の洗面器と100円のじょうろを用いて演奏します。

 

 

 

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