2022年1月8日(土)武蔵野スイングホールにて、ソプラノの薬師寺典子さんのリサイタル(クラリネットの西村薫さん、打楽器の會田瑞樹さんとのトリオによる)が昼夜2公演開催され、私の作品《インヴェンションⅦ》が初演、また《Das Lachenmann IVb》が再演されます。

 

 

この公演の前身は、2020年11月15日の公演で、今回と同じメンバーにより開催され、今回同様、アペルギス《7つの愛の大罪》の彼らによる初の演奏と、私の《Das Lachenmann IVb》の初演がなされました。

こちらにその公演の全動画を公開しまとめておりますので、是非ご参照ください。

 

なお、その公演に先立ち、新編曲となった《Das Lachenmann IVb》について詳述したページがありますので、《Das Lachenmann IVb》の内容についてはこちらをご覧ください。

 

そして今回。

前回から2曲は引き継ぎましたが、そこに更に、松平頼暁さん、私、そして黒田崇宏さんという、世代の異なる(そしてそれぞれ異なる方向にとんがっている)3名に新作を委嘱するという、快挙(いや、ほとんど暴挙?笑)と言える内容。

(前回は、私の超大作無伴奏作品がありましたので、薬師寺さんの負担は少し減ったのかな?)

 

ここでは、私の新作について、(配布されるパンフレットには少ししか書けなかったので)詳述しておきたいと思います。

 


 

《インヴェンション VII 〜7×7の罪つくりな言葉たち》(2021)

 

この作品が、作曲者による日本語の発話と器楽の関係を探究した《インヴェンション》シリーズの第7作であること、また、この作品が初演されるコンサートでアペルギスの《7つの愛の大罪》が上演されることにあやかり、7種類のカテゴリーに7つずつ、計49の言葉を設定し、それらをシャッフルして得られた結果に基づいて演奏内容を確定するという作品となった。

 

このシリーズの他の作品と全く異なる点は、ここでは、発話内容ではなく、声が発せられる状況そのものが日本語の文章として規定される、ということである。7つの言葉のランダムな組み合わせによって、場合によっては「無茶ぶり」が生じ、聴衆は(あるいは演奏者自身も)その演奏結果を、言葉の連節のみでは想像できかねる。そういう状況の中で演奏が展開することで、与えられた言葉と演奏の間に齟齬(あるいは適合)が生じることが、本作における「日本語と器楽の関係」の探究である。

 

49の言葉は、次の7つのカテゴリーに分類され、各カテゴリーごとにシャッフルされる。その組み合わせは、77=823543通り存在するので、リハーサルを重ねても、全く同じ組み合わせに遭遇する確率は極めて低い。

 

◆カテゴリー1=音型

「上行グリッサンド」「下行半音階」「持続音」

「跳躍」「トレモロ」「音階」「任意の旋律」

 

◆カテゴリー2=奏法/唱法

「鼻声」「ヴォカリーズ」「フラッター」「母音をランダムに」

「シラブルをランダムに」「日本語で地名」「外国語の数字」

 

◆カテゴリー3=速度

「最速」「速く」「やや速く」「普通の速さ」

「やや遅く」「遅く」「とても遅く」

 

◆カテゴリー4=発想+強弱

「命がけの ff」「居丈高な f」「歌うような mf」「気楽な mp」

「悲しみの p」「安らかな pp」「瀕死の ppp」

 

◆カテゴリー5=アンサンブル

「全員合わせて」「声とVibで合わせる」

「声とClで合わせる」「ClとVibで合わせる」

「バラバラに」「ときどき合わせる」「徐々に合わせる」

 

◆カテゴリー6=動き

「ジャンプ しながら」「前後に揺れながら」

「左右に揺れながら」「中腰でさぐるように」

「不自然な姿勢で」「ふらついて」「回りながら」

 

◆カテゴリー7=フォーメーション

「向き合う」「距離をとる」「整列」

「背中合わせ」「両側」「見切れる」「覆われる」

 

これらの組み合わせによってできる7通りの演奏状態が、まずは淡々と提示され、次いで奏者たちは、その7通りをなるべくスムーズに再現しなければならない。

(以上の言葉は、掲出用に極めて簡略化されたものであり、実際にはそれぞれの内容について詳細がスコアに記載されている。)

 

アペルギスの《7つの愛の大罪》も7つのモーメントを示していく作品であり、それへのオマージュでもあるのだが、それと同時に、アペルギスのそれとは異なる内容になるよう配慮した。

(もちろん、「十字架上の7つの言葉」その他の7にまつわる様々なことがらが背景にあるが、それについてはご想像にお任せする。)

 

初演は、昼夜2公演である。したがって、2回観ると、それぞれ異なる内容になる。

是非、2通りのリアリゼーションを体験して頂きたい。