ニュアンス (朴信浩監督より) | ACT FACTORY TOPIX公式ブログ

ACT FACTORY TOPIX公式ブログ

映画「かんてんな人」「てんせいな人」「あほんだら〜かすぅ〜」を始め、現代社会のタブーに大胆に切り込んだ映像作品に取り組む異色か先進の映像制作集団「ACT FACTORY TOPIX」の公式ブログです。

朴信浩監督からです。時代の転換点があるとすれば、それはまさに「今」であると感じさせられるお話でした。

---------------------------------------------
先日の夜のことです。時刻は21時くらいだったと思います。とある駅の辺りをぶらぶらしていたところ、「焼き肉」「ホルモン」と大きく書かれた焼き肉店の看板が目につきました。たまには焼き肉も良いなと思い、店内に入ってみると、いきなり気持ちのいい声で「いらっしゃいませ!」と歓迎され、その声にこっちまで気持ちがよくなり、よし、今夜はちょっと奮発してみようと思いました。注文を取りに来たのは、20歳くらいの清々しいいわゆる草食系好青年の店員です。名札を見ると韓国名で「R」と書いてありました。ですが、そのときは特に何も言わず注文に入りました。

さて、注文を終えたところで、その店員に自分が一言、「君、韓国人かね」と尋ねました。すると彼はすぐに「在日韓国人で、朝鮮高校の出身です」と答え、「この店のオーナー、従業員もほとんどが朝鮮高校の出身者でやってます」と、ハキハキと話してくれました。その後、少し飲みながら、おとなしく焼き肉を堪能していましたが、だんだん酔いが回り、いい気分でボーっとしているところへ、その草食系好青年の店員がやって来て、「飲み物のおかわりはいかがですか」といわれたので、マッコリをお願いしました。そして、さらに酔いが進み、良い気分になった自分が、その店員に向かって、「チョウゴウチョロプセン トンム(朝鮮高校卒業の友人よ)」と声をかけてみたところ、一瞬驚いた顔になり、「朝鮮語知っているんですか?」と訊いてきたので、「チョックマン アラヨ(少しだけ知っているよ)」と言うと、もっと驚いていました。

彼の年を聞いてみたところ、今年朝鮮高校を卒業したばかりで、この店でアルバイトしているとのことでした。彼のお父さんは自分よりひとつ上の51歳だそうです。かなりの不動産を所有しているお金持ちのようでした。お父さんは朝鮮大学の卒業生で、彼も父の意向で朝鮮高校に進学したそうです。その後、自分が昔朝大生に関わった思い出話や留学同での昔話などをして盛り上がりました。もっとも、自分が留学同時代に覚えた北朝鮮の歌などを披露してみたものの、若い彼は、自分の時代に歌われていた古典的な歌は題名くらいしか知らないようで、どんどんいろんな歌を歌ってみせると、本当に知らない歌もたくさんあるようでした。自分も50歳を迎えるとはいえ、この状況はなんとも悲しいもので、いわゆる「ジェネレーションギャップ」を痛感した次第です。

いろんな話をしているうちに、「今後、R君はどうするの」と訊いてみると、「来年、台湾辺りに留学予定のため、今はその準備をしています」とのことでした。そこで自分が、「チョソンサラムン スリョンニメ ウイハヨ コンブハヌガヨ? オトッソ?(朝鮮人は、首領さまのために勉強するんじゃないのか? そうでしょう?)」と問うたところ、彼は顔を引きつらせて「えっ、それは……」とだけで、何の答えも返ってきませんでした。 

「金日成」「金正日」という言葉が、民族教育を受けた人間でさえ禁句であるようにしか、自分は思えてなりませんでした。

こういった在日社会の中で、本当に「総連」「北朝鮮」「民団」「韓国」と関わりながら、これからも生活していくことが可能なのかと思えてなりません。朝鮮高校出身同士でも、いろんな在日のネットワークでも、商売を営み、生活をしていく中で、やはり「北朝鮮」「韓国」との連携の重要性はだんだん低くくなってきています。いくら朝鮮人やヘッパダじゃといっても、事実上日本人として存在している。このような状態の中で、在日は、より「日本との関わり」を慎重に考えるべきではないかと思わざるを得ませんでした。

そして、どうあがいてもここは「日本」です。