こんばんは!
「可児君の面会日」特別企画第二弾!
出演者・演出がリレーでお送りする連載小説…
『クリスマスまでに降る雨』
第3話の担当は、女中役、渋谷結香です!
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日之影は一瞬言うのを躊躇った。
しかし、言うべき事を伝えるため、声に出そうとした。
と、その瞬間に神谷が叫んだ、
「恐えーよ、嫌だ!聞きたくねえー」
と日之影を突き飛ばしてその場から逃げた。
「おい!聖ちゃーん」
鈴木が呼ぶが、声も耳に入ってこない神谷はとにかく走った。
すると、「ドン」と何かにぶつかって、その衝撃で神谷の足が縺れて前のめりに地面に倒れた。顔に小石がジャリッと音を立ててめり込んだ。
「いてえー」。
顔を上げようとした目の前に、ぬうっと青白いシワ枯れた何かが視界に飛び込んできた。
「うわあー!」思わず払いのけたがその勢いで今度は尻餅をついた。
何かに触っってしまった。
しかし、その感触は暖かく、覚えがあった。(ん、何だっけ?)と思い出そうとした時、目の前に白髪混じりの小柄な老人が立っていた。
「おい、危ないじゃないか・・」そう言いながら神谷の顔の前に落ちたミカンを拾いながら、睨んでいた。
老人はじっと神谷の顔を見ながら少し困惑していたが、やがて、
「なんだ、神谷さんじゃないか」聞き覚えのある声に神谷は正気を取り戻した。
「なんだ、大家さんですか」と安堵した。
「なんだとは随分だなあ、真っ直ぐ見ないでぶつかってきたのはそっちだよ」少し苦笑しながら腕を摩っていた。
「大家さん、すみません。大丈夫ですか?」
「最近の若いもんは。と言いたいところだけれど、神谷さんなら大目に見てやるよ」とポンと肩を叩いた。
大家さんは、一人暮らしの神谷に対して、今時珍しいぐらいの世話好きで気さくな老人である。
神谷はそんな大家さんに心を許し、何でも相談できる良き住人でもあった。
「(大家さんは、俺に何も隠し立てはしないだろう、何かあったらきっと言ってくるはず。あー、やっぱりバカバカしい。亮太の悪ふざけに付き合ってられねえ)」そう思った。
「本当にすみません、今度酒でも持って行きます」
「ああ、楽しみにしてるよ」と大家さんは歩き始めた。
神谷も鈴木の所に戻ろうとした時に、大家さんに呼び止められた。「あー、そう言えば、夜中もう少し静かにして貰えると助かるんだがねえ。
下の住人から文句が出ててさ、何人かで騒いでるみたいだね、泣いたり笑った
りさ、もう少し静かにな。。じゃあね、お願いな」
「・・・え!?、え?」
「(何だよ、それって何だよ・・俺、夜中バイトして居ねえじゃん)」
そう思うと、神谷はその場にへたり込んでしまった。
神谷にやっと追いついた鈴木は、血の気が引いた神谷を見て、
「おい、大丈夫かよ、何かあったのか?」
すると、神谷はすがるように鈴木に言った。「なあ、俺の部屋、何があるんだよ・・、俺の部屋、俺の部屋・・」
「あーそうだ、それを聞こう、行こう。一緒に聞こうぜ」
二人はもう一度、日之影の元に向かった。
つづく
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公演詳細
2014年 テアトロ・スタジョーネ(冬)可児君の面会日
作:岸田國士
演出:小西優司
出演:水野駿 栗原友 渋谷結香 相楽信頼(賢プロダクション)蔭山美子よしざわちか 米山祐子小鳥遊空(リップルエンターテイメント)宇土よしみ 井上俊行
あらすじ:新進気鋭の作家・可児君は、その名声の高まりとともに増える来客の対応に忙しく、創作に時間を傾ける暇もない。そこですべての来客をひとまとめに対応してしまおうと月に一度、しかも一時
間の面会日を設定する。そして迎えた初めての面会日、訪ねてきたのは親友の織部を始め、愛読者の木暮妙と鳥居冬、不動産会社社員の駒井、可児の後輩・毛利、旧友の泊、編集者の斎田…一癖も二癖もある面々だった。
日程:2014年12月19・20・21(金・土・日)全5ステージ
チケット:全席自由 \1000

